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死語

「種明かしをするとな、とても単純な話なんだなコレが。俺は『死語』を操る。そして、この黒いのは、オッサンたちがストレスに打ち勝った事で、二度と現代に現れない存在になったんだ。つまり、『コイツはもう死語』なのさ」

 それは流行語のように。一発屋のギャグのように。

 どれだけ人気があっても、旬が過ぎる瞬間がある。

 誰も見向きもしなくなる。

 誰もそれに触れなくなる。

 同様に、リストラは打ち倒された事で、もう居なくなった。

 加えて、もう特定精神診断が行われない事は間違いなく、歴史に二度と出てくる存在ではなくなったわけだ。

 これから、世間を騒がせるターンから、沈静化のターンに移ったのだ。

 ゆえに、BC――リストラの集合体は、いわば仇花(あだばな)。もう存在としては終わっていたのだ。

「死語となった存在なら俺が操れる」

「そういう……事か」

「そういうこった」

 笑う二人とは対照的に、踊り場にへたり込んだ月光は信じられないといった様子で呆然とそれを見ていた。

「……お前は……何だ。神……か? こんな簡単に……」

「言ったろ。これはオッサンたちが頑張ったからこうなった。逆を言やあ、オッサンらが頑張ってなきゃ、今頃俺もこの黒いのに喰われてたろうよ」

「ならば私は……あのオッサンどもに……負けたのか」

 月光は心底悔しそうに奥歯を噛んだ。

「月並みな言い方になるんだろうがよ、自分に負けたんじゃねえの?」

「フッ……そうか。……それなら、まだマシだ……奴らに負けるよりは、自分に負けるほうが……まだ……」

 乾いた笑いだったが、どこか諦めとは違う納得の色があった。

「さぁて、じゃあ、あるべきところに帰すとすっか……よし、ポチ、帰れ」

 パン、と植木が手を鳴らす。

 すると、あれほどの猛威を振るったBCは、光に包まれ、爆ぜた。

 蛍のように輝く無数の球となり、四方八方へ飛んでゆく。

 それは、見た目こそ美しいが、ストレスの塊。

 やがて元のオッサンたちの元へ帰っていくだろう。

 それでも、これが集まって暴れだす事はもうない。

 誰かの心の中で、折り合いをつけながら静かに眠るのだ。

 永遠に。

 だが、リストラが消えても全てが元通りになるわけではない。

 被害は甚大で、帰ってこないものも多すぎる。

 しかし、何もかも終わったわけではない。

 ここから、始まるのだ。

 今まで通り、オッサンたちが虐げられる世界に戻るかもしれないし、そうでないかもしれない。逆に女性たちが虐げられるような世界になるかもしれない。

 まだ、未来の事は誰にもわからない。

 だとしても、よりよい未来を信じて歩を進めるしかないのだ。

 きっと、真の時代錯誤とは、前に進まぬ事なのだろう。

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