ブラックカンパニー
大爆発。
時代維持部隊の本部を揺るがす巨大な振動。
一度や二度では無く、何度も続くそれは、わななきであった。そして、身もだえであった。
そう、ある生き物――即ちリストラの。
サイココンデンサは、ネットワークケーブルを通じ、時代維持部隊本部にも接続していた。
それは決して時代維持部隊本部にコンデンサがあり、集めたエネルギーを蓄えようとしたわけではない。単にデータを解析するために、ネットワークを介してデジタルデータを集めていたにすぎない。
が、各地のCAREで溢れだしたエネルギーはそれを逆流。
ケーブルを通じて時代維持部隊本部の地下にあるメインコンピュータを襲った。
ジタイのコンピューターはその機密性から、特別なネットワークのみ接続し、この場合CAREがそれに当たる。
その閉鎖性が完全に裏目に出た。
全国各地から一点を目指し集中するストレス。
スーパーコンピュータをまるでさなぎとするかのように受肉したそれは、各地で暴れるリストラなどとは比肩できぬほど強大だった。
様々な色が混じりあった結果、完全な黒を成す。
不定形にうごめき、あらゆるものを捕まえて取り込む。増える。伸びる。
地下最下層で生まれた黒が、エレベータシャフトを駆け昇り、手当たり次第破壊を始めた。
まずすぐ上の地下駐車場が餌食となり、ひしゃげた車両から漏れ出したガソリンが気化。
初めの大爆発を引き起こした。
爆発で生じた亀裂は容易に黒を侵入させ、侵入と同時に体積を増大させたそれは、天井を、壁を引き裂く。
その進路にある全てを飲み込み、無論人すら取り込んでいく。
リストラに襲われた者はリストラが持つやるせなさから脱力し、昏倒するが、この黒は違う。
取り込んだ者を、文字通りその一部とし、端末へと変えてしまう。
捉えられた人々は胴体を半ばまで侵食され、胴より下は本体に繋がる巨大な一本の触手と化す。まるでチョウチンアンコウの疑似餌のように伸びていく。
そして、他の被害者を引きずりこむのだ。
彼らに己の意思はほとんど無い。陰鬱とした気分と頭にかかる霞があるだけだ。
時代維持部隊の隊員たちは若者がほとんどであるが、取り込まれてしまった彼らの瞳から、若さゆえの希望を見出す事は出来ない。
取り込まれた時点で個を喪失し、奉仕者たる端末になるのだ。
あたかも蜘蛛の糸を登るカンダタにまとわりつく亡者の如く、全てを取りこんでしまう。
一度捕えられれば逃げる事も叶わない。
もはやリストラを超えた存在、黒き仲間たち――いわばブラックカンパニーであった。
ブラックカンパニー――BCはそのまま上昇を続ける。
理念などない。
ただただ、活動するだけの存在。
そして、その活動は関わった全てを不幸にする。
生ける不幸は、次第に中層にある放送室へと迫っていった。