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式堂綺羅星

 ジタイ隊員たちは、背後からゴム弾を打ち込まれ、悶絶していた。

 撃ったのは誰であろう、式堂綺羅星その人であった。

 時代維持部隊のバイク、ソロモンにまたがり、時代維持部隊の制服を纏っているため、まさか隊員たちも彼女に撃たれるなどとは思っていなかったのである。

「乗れ!」

 綺羅星は植木を手招きした。

「お、おい。一体全体どうしたってんだ」

 呼吸も整いはじめた植木は、招かれるまま近づいて行く。

「見てのとおりだ。裏切った。いいから乗れ」

「お、おう……」

 あまりに堂々とした綺羅星の態度に、植木は言われるがままにソロモンの後ろにまたがった。

「でも、なんでまた」

「これを返していなかったからな」

 黄色いハンカチを懐から取り出し、後ろに座る植木へ見せる。

「返さなくていいって言ったろうが」

「借りたのはハンカチだけではないからな。……もっと大きい」

 祈りにも似た表情で、綺羅星が呟く。

「借りは返すのが私の主義だ。それに……」

「それに?」

「お前、まだ私の名前も知らんだろう? それが、(しゃく)なのさ」

「ああ、確かに」

 植木は名乗ったが、綺羅星は名乗ってはいない。

「綺羅星。式堂綺羅星だ」

「おう、覚えたぜ」

「絶対に忘れるなよ。さぁ、行くぞ」

「おう」

 後ろから綺羅星の腹まわりに手を回す。

「ひゃっ!」

 甲高い声を上げる綺羅星。

「き、貴様、どこを触っているんだ!」

「こりゃまた失礼したました……って別にそんな変なとこ触ってねえだろうが」

「う、うるさい」

 ふんすふんすと顔を赤くして怒る綺羅星だが、不承不承、腕を回す事を許可した。

 ソロモンのエンジンが唸りを上げ、倒れ伏すジタイ隊員たちの脇を駆け抜ける。

「それで、本部に向かってどうするつもりだ」

「知り合いの工藤って奴から聞いたんだが、放送室ってのがあるんだろ? そこから日本全国に放送したいのさ」

「それがこの状況を解決できると?」

「五分五分だな」

「なら賭けるだけの価値はありそうだ」

 その自分の言葉に満足したのか、綺羅星の口角が上がる。

 本部まではあとわずか。

 次第に大きくなる黒き塔を前に、綺羅星が口を開いた。

「……お前の事が知りたい。い、いや、変な意味じゃないぞ。お、お前は、いったいなんなんだ」

「俺にもわからん。記憶喪失ってヤツだからな。名前とか、年とか、そんくらいしか覚えてねえ」

「そ、そうなのか。……しかし、その落ち着きぶり、相当な修羅場を潜って来たのだろうな。私がその境地に到達するのに、果たして何年かかるか……」

「そんなかからねえよ。だいたいお前の方が年上だろ? どう見ても大卒だしよ」

「は? 何を言ってる。お前、どう見ても二十代後半だろう」

「俺はまだハタチにもなってねえ」

「は?」

 かつて、昭和初期の番組を彩った作品の主役は、みんな濃い顔をしていた。

 十代でも二十代に、二十代でも三十代に見える顔だった。

 もし綺羅星がそういった作品を見ていたら、ピンと来たのかもしれない。

「ちょ、ちょっと待て。それじゃ何か。十代だとでも……」

「十と九、のはずだ。僅かばかりの記憶が正しけりゃな」

「……」

 なんということだ、と綺羅星が呟く。

「……待て。お姉さん……というのも悪くないか。うむ、そうだ。こういう唐変木を導いてゆく存在が必要なはずだ……」

 ぼそぼそと続ける綺羅星だが、肝心の唐変木は遠くにある一点を見つめていた。

「どうでもいいけどよ、あの本部とやら、なんか凄え事になってねえか?」

「え?」

 綺羅星が時代維持部隊本部に目を向けたと同時に、一瞬の閃光が走り、それからやや遅れて爆音が轟いた――

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