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夢2
今でも夢に見る。
母が父を罵っている。
最後の日だと言うのに。
父は、玄関でみっともなく泣いていた。
その手にはビジネスバッグ。
たったそれだけ。
父の、家の中の居場所は、たった五〇センチ四方のバッグに収まるほどにしかなかったのだ。
父が最後に、私に何と声をかけたか、思い出せない。
頭に手を乗せ、何か言った気がする。
思い出せない。
いや、顔ももう思い出せない。
父が去って締められたドアの、そのシミの数すら覚えていると言うのに。
母は勝ち誇っていた。
邪魔者を追い出して満足げだ。
これから何年も不機嫌な顔をして毎日を過ごすことになるのに。
この時点ではそんな事はわからない。
ただ、部屋を大掃除した時のような充足感だけがあったのだろう。
捨ててはいけないものを捨ててしまった大掃除。
胸に空いた大きな穴。
いつまで経っても埋まらない。
埋まらない――