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私はコレでテロをやめました

「へ?」

 植木には、全く効果が無かった。

「大の大人が軽々しく頭下げるたぁ、みっともないぜ」

 会場内がざわめく。

 今まで、神林が土下座でピンチを切りぬけてくるのを見た者は多い。それがまるで通用しないのだ。無理もない話だろう。

 だが、工藤には通用しない理由がわかっていた。

「無駄だよ……あんたは土下座で許してもらってきたんだろ? だから効かねえのさ。ソイツは許すも何も最初から怒ってねえ」

「へ?」

「むしろ逆だ。簡単に頭下げられる事が気にいらねえんだろうよ」

 もともと怒っておらず土下座している事に怒りを覚えるならば、土下座で鎮めたところで次の瞬間には怒りが生まれ、土下座を解かない限り千日手だ。

 つまり、神林の特技が全く通用していないのだ。

「そ、そんな……」

 神林は頭を上げると、そのまま後ろにへたりこんだ。

 その顔は、深いしわの刻まれたおでこに乗るハの字の眉毛に、後退した頭髪と、物悲しさを感じさせる表情。

 人生に疲れ切ったサラリーマンそのものと言っても過言ではない。

「なぁ、アンタは今まで何のために頭を下げて来たんだい?」

「え?」

「いつから当たり前に頭を下げるようになったんだい? 最初は違ったんじゃねぇのか?」

「……!」

 その言葉に、神林が雷で打たれたように震えた。

 そうなのだ。彼とてはじめから土下座ばかりしていたわけではない。

 仕事上、やむにやまれぬ理由でしてきた事だ。

 会社を守るため、後輩を守るため、ひいては家族を守るために――

 例えライフルを突き付けられようが、ここを切り抜けられなければ自分だけでなくプロジェクトメンバーが危機にさらされる。

 それが魂の土下座を生んでいたのだ。

「……私は……頭だけ下げて、心では反省などしていなかったのかも知れません……」

 魂が抜けたように、茫然と呟く神林。

 その顔は、例えるならリストラ宣告され、悲しみはもちろん感じるものの、どこか自由感を覚えるような、そんな複雑な表情が見て取れた。

 こうして、三人のリーダーが屈してしまった。

 その(さま)に、オッサン達の動揺は広がる。

 だが、それもやがては収まっていった。

 誰しも、植木の言葉に思うところがあったのだろう。

 そうしていると、襖の前で門番をしていた男が血相変えて小此木たちの前に走ってきた。

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