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青い空

久しぶりの投稿で、何が何やらって感じです。

指導や指摘があればとてもうれしいです。

 空が綺麗だ。。。


 少年は誰に話しかける訳でも無くそう呟いた。


「誠也君また、空眺めてるの?」


 少年に問いかけるのは、少年の担任である、

鈴屋桜28歳、3年前、結婚したばかりの、新任の先生である。


「空ばっかり眺めてそんなに面白い? 先生にはよくわかんないなー」


 桜が問いかけると、少年は目線だけを桜の方に向けたが、直ぐに目線を空に戻すと、少年は儚く澄んだ、声で語り出した。


「先生僕ね生まれ変わったら、あの空に吹く風になりたいんだ。

あの青い空で人間みたいに汚い感情って物を持たない澄み切った空を吹き抜けてこの世界に溶け混む様な、透明で静かな存在に。」


 桜は、何て空を美しく感じられる少年なのだろうと思った。

それと同時に、とても儚げな子に感じられた。


 その時、二人の間に風が吹き抜け、靡いた桜のロングスカートの下から見えた足に、赤黒い痣が見え隠れした。




「どうして!!貴方はそんなに私を辛く当たるの。」

「ガシャーン‼︎」物が割れる音。

 薄暗い部屋の中、怯えた様に女が叫ぶ。

「止めて!!これ以上私を追い詰めないで、私を壊さないで!!」




「先生どうしたの?顔色悪いよ?」

少年は心配そうに言う。

「え、あ、ああ、大丈夫よ、ちょっと思い出し事をしてただけだから。」

「もし今言ったことが先生に嫌な思いをさせたならごめんなさい、

 もう言わないから許して。」


 もっと感情の希薄が薄い子かと思ったけど、儚げに見えるのは空を眺めている時だけなのかしら、

にしたらさっき言ってたことも、この子にしたら詩を読んでるみたいなものなのかしら?

 そんなことを、桜は思いながら自分が小学生に心配を欠けていることに気付き、焦りながら答えた。

「違うの、本当にちょっと思い出し事をしてただけなの。それに先生もっと君のお話聞きたいな。」


 少年は気恥ずかしそうに少し目を背けてから目線を空に戻すと、また儚げな少年のように語りだした。

「僕はね、人を傷つけてしまうのが嫌なんだ、人間って感情に任せて、人に嫌なことを言ったり、

 言いたくないこととか思っても無いことを言っちゃったり、

 時には暴力に走ってしまうこともあるじゃないですか。

 だから僕はあの吹く風みたいになりたいんです。

 誰を傷つけることなく、誰に傷連れられることなく。

 感情と言うどす黒い物を必要としない透明で澄み切った、あの青い空に抱かれて漂うだけ存在に。」

 



「もう無理、貴方と暮らしが苦痛でしかないの!!

 貴方と一緒に居るのに疲れたの、私をもう許して!!

 どうしてわたしのことを分かってくれないの、

 どうして、どうして、どうして!!」

  


 真夜中の断崖絶壁に女が佇んでいる。

「もうどうにもならないは、一緒に死にましょ貴方と一緒なら私この崖から飛び降りる

 ことが出来ると思うのこの幸せの気持ちのまま死ねるなら私たち、これからの辛い人生を

 歩むよりずっと幸せに死ねると思うわ

 貴方もそう思うわよね・・・・・」



「いやあああああああああああああああああああ」

そう桜は叫ぶと糸が切れたようにばたりと倒れ落ちた。

「先生、先生!!大丈夫、先生、しっかりして。」


 目が覚めると病院の天井が目に入った。

最悪だ私、生徒の前で奇声をあげて倒れるなんて教師、いや大人として失格だ。

そんなことを、思いながら桜が視線を横に向けると、ベットの横に椅子を置いて座りながら泣き腫らした少年がいた。

 その横には、少年の肩に手を当てる医師らしき人が居た。

「鈴屋桜さんもう大丈夫ですね意識ははっきりしてるようですね。」

そういうと、医師は今度は少年に向かって言った。

「先生も元気になったことだし帰ろうか。」

 

 そう言われた少年は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で桜に喋りかけた。 

「ぜんぜい、ごめんなざい、ぐす、

 ぼくが変な話ばっかりするがら、ぜんぜいがしんどくなっちゃったんでじょ、

 ごべんなざい。」

「違うのよ、先生この頃疲れてて、ちょっと頑張りすぎちゃたのかな、

 ごめんね心配掛けて、もう先生大丈夫だからまた元気になったお話聞かせて、先生、誠也君の話好きよ。」


少年の前のベッドシーツがカピカピになっている、恐らく少年はずっとこの椅子に座って、

このシーツの上に顔を付けて泣きじゃくっていたのだろう。

それを想像するだけで、桜は事跡の念で押しつぶされそうだったが、教育者としての責務が桜に笑顔を作らせていた。


「それじゃ行こうか。」


 医師が少年の背中に手を当て病室の外へ諭す、少年が病室から出ると医師は病室のドアを閉め、

さっきまで変らない柔らかい笑みのまま、少年が座っていた椅子を少し引いてへ腰掛けた。

すると、桜はベットから飛び上がり、ベッドの上で正座をした。

「すいません、教育者でありながら子供たちにまで迷惑をかけて病院の人にも迷惑をかけてしまって」

慌てて立とうとする桜に対して医師は、桜の両肩を軽く抑えて、ストンとベッドに座らせた。

そして、医師はやさしい声で桜に話しかけた。


「鈴屋さん、私と少しお話をしませんか?」

そう言うと、医師はゆったりとした物腰で椅子に深く腰掛け話し出した。

「旦那さんから聞きました、鈴屋さんあなた育児ノイローゼなんですってね。」

桜の顔色が急に青ざめた、目線が泳ぎだす。

「それもかなり深刻で、躁鬱状態だとか、私はねこれでも、精神科医もやっていたんです、

 よければ少し話していただけませんか?」


 最初は身じろぎもせず、俯いていた桜だったが、医師の根気に根負けしたのか、

諦めた様に息を吐き出すと、桜はぽつりぽつりと語りだした。

「私の娘、千沙が生まれたのは2年前、生まれた時は、私たち家族は幸せになる未来しか見えないくらい

 幸せでした。

 それから、1年位して、旦那の仕事も忙しくなり、私との行き違いも増えてきたころ、

 料理をしていて、電話が鳴り包丁を持ったまま電話をしていて、ふとした拍子に包丁が落ちました。

 その数センチ横には千沙が遊んでいたんです。

 旦那と私はあの時ほど、血の気が引いたという言葉を実感した日はありません。


 その日から、私と旦那の喧嘩が絶えず、それに加え千沙への育児の不安と、夜鳴きもあり

 日に日におかしくなって行きました。

 物に当たることも増えて、

 分かるはずのない千沙にまで暴言を吐きいたりもしました。見てくださいこれ。」

そう言うと、桜はスカートの裾を捲り上げ、医師に赤黒い痣を見せた。

「これ千沙の玩具を蹴って壊した時に出来たんです。

 何やってんですかね私。。。」


桜は俯きながら苦笑いを浮かべ、話を続ける。

 「そして、私は最後の一線を越えようとしました、

 私は千沙を抱いたまま崖から飛び降りようとしたんです。

 その時は、旦那が気づいて止めてくれましたが、恐らく旦那が居なければ・・・・・・」


 その後、桜は黙り込み病室に長い沈黙が訪れた、

その沈黙を破ったのは、医師の方だった。

「鈴屋さん少し、昔話に付き合ってもらえませんか?」

桜はいきなりのことで、目を丸くした。


医師は、桜の驚いた表情を尻目に話を始めた。


「昔、私の患者で幼い少年が居たんです。

 その少年は難病でね小学校の低学年時代をずっと病院で過ごしていたんですよ。

 少年の楽しみと言えば昔の詩人の本を読むことだったんです。

 少年は片っ端から詩人の本を大人顔負けの量を読みふけってました。

 そして、少年は治療のかいもあって退院の日を迎えたんですがね。

 詩人の本しか読んでこなかった少年です、学校に言っても流行の遊びやテレビゲームなんて

 全然分からない、まあ興味も持てなかったんでしょうね。

 少年はだんだん学校の中で孤立して行ったそうです。

 その時、ある先生がクラスの皆の前で言ったそうです。 

 〃誠也君は絶対男前になるわよ、こんなに本だって読んで顔も男前だもん〃

 ですって。小学生に向かってですよ」


 桜は、顔を赤くして俯いた。

 医師はクスクス笑いながら話を続けた。


「まあ、言ったことは何であれ、小学生からしたら大の大人がそれも先生が自信たっぷりに

 言った物だから鵜呑みにしちゃったんでしょうね。

 それから、色々あったみたいですけど、それがきっかけで少年もクラスの子とも仲良くなれた

 そうです」


 医師はそこで話を切ると、顔を背け涙ぐむ桜に、白衣からハンカチを差し出した。

「私は思うんです、貴方は母親としてはとても危うい事をしてしまったかもしれない、

 それでも踏み止まったじゃないですか、やり直しなら何度でも出来ますよ。

 それに、まだ近くに貴方のことを心配している子もいるみたいですからね」


 いつの間にか、少しだけ開いている事に桜は気付く、

扉の外で、小さな影がビクリと動くと、慌てたように消えていった。

桜と医師はクスクスと笑った。


 医師は、桜の笑った顔を見て、安心した様に微笑むと椅子から立ち上がり、

病室を後にしようとした時、何か思い出したように振り向いた。

「ああ、そうそう、桜さん旦那さんがから、言伝があったんでした。

 〃仕事辞めちゃったから、これからは僕が家庭を守る〃だそうです。

 旦那さんも中々」

 医師はそこまで言うと、向き直り、

 呆気にとられる桜を尻目に肩を震わせながら笑いを堪えた様子で、速足で病室を後にした。



数日後


「誠也君は何て詩人が好きなの?」

 桜は誠也の顔を覗き込みながら問いかける。

「僕はね、先生かな・・・・・・」

誠也は恥ずかしそうに答える

「私? 私、詩なんか書けないよ?」

桜がそう言うと、誠也が首を振りながら答える。

「詩って言うより、先生の言葉が好き。

 無茶苦茶で言ってることも支離滅裂な所もあるけど、

 自信たっぷりで、皆が先生に引き寄せられて

 最後は、笑っちゃうような」

 そう言って、誠也は問相応のあどけない笑顔で笑う。

  

 小学生に、無茶苦茶で支離滅裂とまで言われた桜は、苦笑いを浮かべながら、大きく背伸びをした。

  

 その時風が吹き抜け、桜のロングスカートを捲り上げる。

しかし、そこから見える痣にはシップが貼っていた。そしてその湿布には、


〃主夫万歳by夫より〃の文字が書いてあった。


「先生も詩書いてみようかな!」

 

「やめといたほうがいいと思う・・・・・・」 






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