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仲直りはパペットで。

ごめんなさい‼︎

最後もう一話になってしまいましたっっ!

 



「……佳奈恵?」


 さっきまで久保くんが座っていた場所に佐藤くんが座っています。そう私の目の前。


 テーブルの上にあった食器が綺麗に片付けられて、佐藤くんの前にはホットコーヒーが、私の前にはカフェラテが置かれています。


 だけど私も佐藤くんもそれに手を付けず、ただ湯気が立ち消えるのを見つめているだけ。


 意を決したように佐藤くんが私を呼ぶ声は、いつもと変わらない優しい声なんだけど、目が合わせられない。心臓が口から出そうで、手には汗が滲んで緊張がもうピークです。


「……帰ったのかと……思った。田中や真司と一緒だったんだな。」


 声を出さずに小さく頷くと、ガシガシと頭を掻きむしる音が。そういえば最近ガシガシ無かった。


「俺ーーさぁ、こんなこと言ってもハァ?って思われるかもしれないけど、有賀や真司はいつも一緒にいてバスケするのも一緒だったから兄妹みたいなもので……本当に恋愛対象に有賀は無いんだ。そんなふうには見れない。」


 言葉はゆっくりと私に訴えるように紡がれています。


 少し顔をあげるとテーブルに置かれた佐藤くんの手が硬く握られているのが見えます。


「有賀や他の奴は俺が望んでもいないのに自分達の気持ちを押し付けてくる。でも佳奈恵は……どう言えばいいかなぁ。すっと入って来た感じ……かな。今までこんなに構いたいと思ったことないし、接したことも無かった。だから自分の独占欲に初めて気が付いて、そうしたら心配で心配で会ってる時は抱きしめていないと安心できなくて……おかしいだろ?」


 自分を安心させるために私を抱っこして締め上げていた⁈ 安静剤?


「俺はーーーどうしたらいい?佳奈恵はどうして欲しい?」


「佐藤くんが……モテるのは前に試合を見に行ったときにわかってることだから、それは仕方がないと思うの。ただーーー佐藤くんと有賀さんの距離が他の子と違って近いから。それに有賀さんは私がアタックを勧めて振り向いてもらうために頑張っていたから佐藤くんの気持ちも……もしかしたら揺らぐんじゃないかなって。さっきも周りから見れば恋人みたいで、私がお邪魔虫みたいに見られてて……いられなかったの、あの場所に。有賀さんと比べられるのは嫌だったの。」


「違う!俺はーー」


「加賀さんのときもそう。私は自分に自信が無いの。好きだと思っていた博武に鬱陶しいって思われたく無かった。だってそれまではいつも優しかったし、一緒にいてくれた。たいちゃんだって、はるくんだって、ゆうくんだってそう!あんな目で見られたく無かった。佐藤くんに同じ目で見られたらと思うと怖くって!どうしてなんて聞けなかった。」


 俯いたままじゃないと話せない。目を見てなんて怖くてできない。でも、ちゃんと言わなくっちゃダメなんだ。この先佐藤くんと一緒にいたいなら、自分が思ってることをちゃんと伝えないといけないんだ。


「私は加賀さんのときから全然変わってなくってすぐに逃げてしまう。有賀さんみたいにできないしなれないの。そんな私が佐藤くんと一緒にいたいと……思ってはダメなのかなってーーー」


「そんなこと考えないでくれ!」


 悲痛な声に思わず顔をあげてしまってまともに佐藤くんと視線が合ってしまった!


 その不安そうに揺れる瞳に見つめられて、ギュッと心臓が締め付けられた。


「お願いだから、一緒にいられないなんて言わないでくれ……。」


「佐藤くんーーー」


「離れるなんて……考えられないんだ。ずっと……この先もずっと一緒にいることしか考えられないんだ。」


 佐藤くんの握り締める手が震えています。気の所為でなければ目に膜も張ってます。……左の頬がほんのり赤くなってるのはなぜ?


「情け無いけど、俺は佳奈恵がいい。どんなに惨めでも一緒にいられるなら今ここで土下座だってする。」


 えっ⁈土下座⁇


「どうすれば俺の側にいてくれる?俺から離れないでいてくれる?」


 私はなんてことを言わせているんだろう!


「違うよ!佐藤くん違うの!私が有賀さんにヤキモチを妬いてしまったから、自分に自信がなくって卑屈になっていじけて!佐藤くんのことを疑って信じることができなかった私が悪いの!ごめんなさい!」


 ゔゔっ……佐藤くんにこんなこと言わせたく無かったのに、なんて酷い女なんだろう!サイテーだっ!


 自分が恥ずかしくってまた俯いていると、私の頭に手がのってポンポンと優しくたたかれます。


 へっ?と思って頭をあげると佐藤くんがレシートに手を伸ばして立ち上がっていました。


「出よう。」


 レジに向かう佐藤くんの後を私は慌てて追いかけました。



「寒いけど、ちょっと外を歩こう。」


 目の前に出された手をとってもいいのか迷っていると、私の手をとって歩き出す佐藤くん。


「佳奈恵がいないって気付いたとき、血の気が引いて目の前が真っ暗になった。どうしようって思っても頭が働かなくて、どうすればいいのかわからなかった。そうしたら……有賀に叩かれて、次のバスで追いかけろって怒鳴られてさぁ。着くなりしっかりしろ!ってまた怒鳴られて。」


 繋いでいない方の手で頭をガシガシ掻く佐藤くん。


 もしかしてこのガシガシは照れ隠し?


 それに有賀さんに叩かれたって……あっ!左のほっぺた!赤くなっていたのはそういうこと⁈


「俺、みっともないよな。」


 恥ずかしそうに苦笑する佐藤くんが可愛くて、頭をブンブン振ってしまった。


「さっきも佳奈恵の口から岩崎先輩達の名前を聞いただけで、すっごくモヤモヤした。ダメなんだ。もしかしたらって考えただけで震えるくらい動揺して。なっ?みっともないだろ?」


「そんなことない。私だって同じ。佐藤くんと同じだよ。」


 もう一度頭を振って佐藤くんを見上げると、優しく笑ってくれたから恥ずかしくってまた俯いてしまった。


「でも、佳奈恵がヤキモチを妬いたって聞いて嬉しくってーーーそれまでの苦しい気持ちが吹っ飛んだ。俺さぁ、佳奈恵の言葉で簡単に有頂天になれるし、佳奈恵の行動で簡単に地獄を味わうんだよ。まさか俺がそんなふうになるなんて思わなかった。」


「わっ!私……も、佐藤くんの言葉や……行動で、嬉しかったり恥ずかしかったりするよ。」


 チロっと見れば佐藤くんが止まります。どうした?


「……仲直り、してくれる?」


 佐藤くんの握る手に力が入って私の手が上に持ち上がります。つられるように私の視線も追いかけます。


「桜貝みたいに綺麗だ……。」


 瞬間全身が発火しました!いやぁぁぁぁっ!嬉しいけど恥ずかしい!寒さが吹っ飛ぶぅぅぅ!


「佳奈恵?」


 もうブンブン頭振っておきます!


 満足気に微笑む佐藤くんが、有ろうことか私の爪に口付けましたぁぁぁぁっ‼︎ ひぃぃぃぃっ⁈


「佳奈恵、挙動不振。」


 誰がさせてんのぉぉぉぉぉぉぉっっっ‼︎


 と、思わず腹パンチしちゃいましたっ!


「ぐうぉっっ⁉︎」


 私の手を離して身体をくの字に曲げてお腹をおさえる佐藤くん。


「佐藤くん!私の反応見て遊ばないでっ!いつも言ってるでしょっ!」


 息がゼェーゼェーしちゃったじゃないのっ!もうもうもう‼︎


「くぅ〜〜っ!久しぶりの佳奈恵の腹パン効くぅ!」


 コホコホ咳をしてるのになぜか嬉しそうな佐藤くん。Mか⁈ Mなのか⁇


「佳奈恵、抱っこさせて?」


「イヤっ!佐藤くん力加減してくれないもん!」


 ソッコーで拒否です!


「仲直りしただろ?俺、結構メンタル弱ってんの。だからねっ?」


 ねっ?じゃぁなぁぁぁい‼︎ 可愛く首を傾げてもダメなんだからっ!


「いっ!やぁっ!」


 全力で拒否です!


「……仕方がない。この手は使いたく無かったんだが……。」


 佐藤くんがクルッと後ろを向いて背負っていたリュックサックをガサゴソやっています。なになに?どうしたの?


「前にウサギのぬいぐるみを佳奈恵にあげただろ?」


 ニコニコの佐藤くんに疑ぐりの目で見返します。


「そろそろ友達が欲しいだろうなぁって思ってさぁ。」


 勿体ぶった言い方で佐藤くんが一歩私に近づきます。


 すかさず一歩後ろに下がる私。


「では、紹介いたしましょう。白猫さんです!」


 バッと目の前に出された真っ白いネコのパペット!


「ウサギさんと一緒に可愛がってください。」


 佐藤くんが右手にネコのパペットをはめてお辞儀をしてきます。


 真っ白なネコの真っ黒な瞳にココロ鷲掴みされました!


「かっっ!可愛い〜〜っっ!」


 両手を伸ばして白猫ちゃんに縋りついた途端!私の手首が白猫ちゃんのパペットを被った佐藤くんの手に掴まれましたっ!


「……捕まえた。」


 してやったりの顔で私を引っ張るとそのまま抱っこされちゃいました!あ〜〜ん‼︎ 佐藤くんの思う壺だぁーっ!


「はぁ〜〜っ……良かったぁ……佳奈恵だぁ。」


 ………ゔゔっ。そんなふうに言われたら、抵抗できないよぉ……。






ありがとうございました。

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