私の心は鈍り色。
クリスマスで終わる予定でした。
でもそれはあくまでも予定でした。
……ごめんなさい。後、ニ話ほどお付き合い下さい。
「ありえない!」
今日をずっと楽しみにして、頑張って刺繍もやりとげたのに!
海岸に作られたテラスに置いてあるイスに座って、足をバタつかせています!寒風が吹きすさんでいるにも関わらず、怒りのために体温が上昇して今の私は寒さを感じません!
「佐藤くんのばかぁぁぁぁっ!」
海に向かって叫んでも怒りがおさまりません!
そもそもどうしてこうなったかと言うとーーー
クリスマスデートで佐藤くんが選んだ場所は水族館でした。
そこは初めてデートした海の街にある水族館で、ショッピングモールに続く道にはクリスマスの装飾が綺麗に飾られていて、それだけで気分が盛り上がっていました。
水族館の中は、やはりと言うべきか、カップルが多くて見て回るのは大変だったけど、イルカショーもアシカショーも可愛くって、ペンギンの泳ぎの速さにびっくりで、ラッコの姿に癒されました。
中でも、クラゲの展示された所は他の場所よりも照明が薄暗くて、カップルで埋め尽くされておりました。……もちろん私達も入りましたけど……。
ーーーそこまでは良かったんです。そこまでは。
私達が水族館に入ったのがお昼少し前。お昼頃なら人もすくかと思ってその時間に入って、ゆっくり回って出て来たのが十三時半過ぎ。
さぁどこでお昼を食べる?なんて言いながら水族館から出て来るとそこに、いるはずのない人がいたんです!
「拓真!」
顔を真っ赤に染めて駆けてきたのは有賀さん!
「……有賀?どうして?」
佐藤くんも驚いた顔で駆け寄って来る有賀さんを見ています。
「拓真、クリスマスはここの水族館に行くって言っていたから。待ってた。」
なんですと⁈ここで出待ち?
「俺、有賀に言った覚え無いけど……。」
怪訝な顔の佐藤くんに動じることなく、持っていた紙袋を差し出す有賀さん。……まさか?
「はい!プレゼント!今回も頑張ったよ私。」
鼻の頭が赤いのに、それが返って可愛く見えてしまうのは、私だけじゃ無いと思います。
「……有賀。」
「毎年あげていたでしょう?去年渡したマフラー、喜んでくれたじゃない。今年はそれに合わせて手袋にしてみたんだぁ。」
「有賀、いつから待ってたんだ?顔真っ赤だぞ。手だってこんなに冷たくなって。」
差し出されていた紙袋に添えられた手にーーー佐藤くんの手が重なっていました!
「家に行こうかなって思ったんだけど、私夕方から出掛けちゃうから。どうしてもクリスマス中に直接渡したくって。」
「……バカだな……。」
バカはどっちだぁぁぁぁっっ‼︎
私がいる目の前で何してるんですか?あなた方はっっ!
さっきまでのテンションが急降下だよっ!
目の前では心配そうに佐藤くんが有賀さんの手をさすっています。
有賀さんはこの時とばかりに佐藤くんに近づき潤んだ目で見上げています。
そして遠巻きにここを通る人達に見られています!それも好奇の眼差しでっっ!
無理です!ここで有賀さんとやり合うなんて絶対に無理です!今現在、私の立ち位置はとても可哀想な子って、よそ様には見られていることでしょう。
すっかり二人の世界が出来上がっているのに、どうやって切り込めと?
嫌です!そんなこと!空気の読めない子になりたくないです!
だから駅に向かうバスが停まっているのを確認して、運転手さんが時計を見たのを合図に、その場をゆっくり離れます。そして、バスに飛び込むと同時に扉が閉まりました。
座席に座っても佐藤くん達を見ることができませんでした。
で、今です。
あれからどうなったのかなんて知りません!
だって、携帯の電源きったから。
「はぁ、また逃げちゃった。」
溜息とともに吐き出した言葉はあの日、幼馴染達との関係を無理矢理断ち切ってしまったときのことを思い出します。
佐藤くんと有賀さんも、小学生の頃入っていたクラブで一緒だったって言ってたから、私と幼馴染達との関係と似てるんじゃないのかなって。
ただ、有賀さんが好きだったのは佐藤くんのお兄さんで、中学生のとき付き合っていたのも有賀さんがお兄さんに近づきたいためでーーーでも今は佐藤くんが好きで……。
私が有賀さんにアタックすればいいなんて言ったから、有賀さん頑張ったんだよね。
佐藤くんからハッキリと、何とも思っていない!とか、何様だっ!なんてキツイこと言われたのに……有賀さんは好きな人に振り向いて欲しくて頑張ったんだと思う。
もし……人の気持ちに重さがあるなら、私の佐藤くんを思う気持ちと、有賀さんが佐藤くんを思う気持ちとどっちが重いんだろう?
なんだか、今の時点て比重は有賀さんに傾いているんじゃないかって……思えてしょうがない。
朝はあんなに綺麗に晴れていたのに、今は空も海も鈍り色。
「昨日はあんなに幸せだったのになぁ〜っ。」
佐藤くんが大好き!世界中で一番好きっ!って、思えたのに。
今、私の気持ちはゆらゆらしていて……考えれば考えるほど……思えば思うほど……自分の気持ちが揺らいでーーー
ホント、転校する前から成長して無いなぁ。
だってーーーー佐藤くんを信じることがこんなに難しくなってる。
「寒っ……ゔぅぅ、なんで私まだこんなところにいるんだろう。瑠美ちゃんのお家に帰ろっ。」
今日は気合を入れて、ショートタイトにストッキングを履いているから寒さが半端ないです!
少しでも可愛く見えるようにコーデしたのに、フツーにファーコートを羽織って、スキニージーンズ履いて、ブランドシューズを履いた有賀さんに完全に見た目で負けてしまった。
大きく溜息を吐くと、白い息が風で掻き消されます。
重い身体に力を入れて立ち上がって、後ろを振り返るとーーー
「今、山田 佳奈恵さんに必要なのはこの私!新聞部部長、田中 沙樹と!」
「……はぁぁぁぁっ。なんで僕ここにいるんだろう。」
「ちゃんと名を名乗れ!若人!」
「イッてぇ‼︎ 叩かなくてもいいじゃないですかっっ!」
「な!ま!えぇ‼︎ 」
「………久保……真司。」
「所属部が抜けてます!はい!もう一度!」
「バスケ部一年!久保 真司ですっ‼︎ 」
「よし!合格だ!後でたい焼きをご馳走しよう。」
そこにいたのは、沙樹ちゃんとなぜか久保くん。
いきなりショートコント見せられた?
と言うよりも、なぜここーーーー
「あーーーーーっっっっ‼︎ また盗み撮りしてたんでしょう!沙樹ちゃん!」
「おう⁉︎バレたっっ!」
バレたじゃない!
「ボッ!僕は!ここまで強制連行されて来ましたから関係ないですっっ‼︎
両腕をホールドアップして頭をブンブン振る久保くん。
確か、女子会の時も捕縛されてたよね?沙樹ちゃん相当気に入ってるのかなぁ?久保くんのこと。
「まっ、それは横に置いといて、今は佐藤くんと有賀くんだ。そうだろう?山田 佳奈恵くん。」
そう言ってメガネをクイっと押し上げると、私に妖しく笑いかける沙樹ちゃん。
途端にゾゾゾッと背中に悪寒が走りました‼︎
これは、瑠美ちゃんの助けが必要⁈
ありがとうございました。