イルミネーションは綺麗です。
間に合わなかったです……。
「瑠美ちゃん‼︎ 見て見て!私やったよ!間に合ったよ!」
嬉しくてピョンピョン飛び跳ねながら瑠美ちゃんのいるリビングに飛び込みました!
だってタオルに刺繍するのに三カ月かかった私が!残り四日しか無いと言うのにリストバンド二つを見事完成させたのです!これは奇跡です!
ソファの上で体育座りの瑠美ちゃんに駆け寄って、リストバンドを見せるために差し出します。
「瑠美ちゃん!私やったよ!やればできる子だったよっ!」
「……かな。駅前にあるコンビニ行って来てくれない?」
ナニ?なに?何?そのテンションの低さっ!私の努力を労ってくれないの?
ちょっとムゥってなったけどもう一度言ってみます。
「瑠美ちゃん!私ーーー」
「格好は……まぁ、そのままでいっか。後はカバンと財布と上着と……。」
ブツブツ呟き二階に行ってしまった瑠美ちゃん。
…………褒めてくれない……うううっ悲しい。
でもーーーえぇっと?……コンビニ行くのに格好って何?コンビニだよ?クリスマスイブはコンビニでもドレスコードがいるの⁈
私の今の格好はクリーム色の丈が長いパーカーにボルドー色のタイツを履いています。
只今の時刻、十七時四十三分。
今日はクリスマスパーティーをするそうで、朝から瑠美ママが張り切ってお料理してます。
瑠美パパが休日出勤で出かけているから、帰って来たらパーティー開始だと言ってました。
何か足りない物が?でも、この時間ならスーパー開いているし、コンビニ高いよ?
階段を降りる音が聞こえます。それもいつもよりドスドスと。瑠美ちゃん何か怒っているのかな?
リビングに入って来た瑠美ちゃんの手には持ち手が鎖になったショルダーバッグとモスグリーンのMAー1ジャケット。タータンチェックのショールと毛糸のパンツ……。
「コンビニ、今すぐ行って来て。」
ずいっと突き出された物と瑠美ちゃんの顔を交互に見ます。瑠美ちゃん……若干ツノ出てます?
無言のまま受け取って身に付けると、家を出ました。
コンビニで何を買うのかを聞かずに。
ものの五分ほどでコンビニに到着しました。
何を買っていけばいいのか聞かないと。
そう思って携帯をとって登録された瑠美ちゃんの番号を押して耳にあてます。
「誰に電話してんの?」
「のぉえーーーっっ⁈ 」
携帯をあてた耳とは反対側の耳のそばで息とともに聞こえる声に身体が大きく飛び跳ねました!
と、同時にガツっと鈍い音と肩にはしった痛みに思わず携帯を落としそうになりましたっ!
「イッーーーーてぇぇぇっ‼︎‼︎ 」
肩を抑えて後ろを振り向くと、顎をおさえて踞るーーーー佐藤くんがぁ⁈
「佐藤くん⁈ なんで?」
涙目で顎をおさえて見上げる佐藤くんにびっくりです!
だって今日は遅くなるって言ってたから、クリスマスデートは明日になったのに。どうしてここにいるの?
「……後ろから声をかけるのはやめよう。今まで通り抱き上げたほうが危険が少ない。」
ブツブツと言いながら顎をさすり立ち上がった佐藤くんを見上げます。やっぱり身長差半端ないです。
「佐藤くん、今日は……。」
「猛ダッシュで帰って来た。佳奈恵とは明日会えるんだけど、イルミネーション一緒に見たいなって思ってさぁ。軍曹が手強くってもう無理かと思ったけど、なんとか二時間もぎ取ることができたよ。」
ニッコリ笑い近づいて来ると私を抱き上げます!
いやいやいやいや!コンビニの前です!恥ずかしいですからっっ!
「佐藤くん!下ろして!」
足をバタつかせて抗議します!
「やだ。このまま駅まで行く。」
「ひぃやぁぁぁぁっ‼︎ やめてぇぇぇっ‼︎ 」
力いっぱい足をバタつかせて抵抗しました!
するとーーー
「ごゔっっ‼︎‼︎ 」
抱き締めていた腕の力がゆるゆると抜けて、同時に私の身体もズルズルと下に落ちて行きます。
「ちょっっっと……まっ、て……ぇぇっ……。」
ヨロヨロとコンビニの壁に近づいて行き、手を突いてその場にしゃがみ込んでしまいました⁈
えぇっと⁈ どうしたの⁇
「さっ!佐藤くん?どうしたの⁇ 」
恐る恐る聞きます。私何かやらかした?
「ごっ……めん。もう……少し……。」
その後、佐藤くんが復活するまで声をかけられませんでした。
しばらくして私達は、電車で二つ向こうの駅に向かいました。高校とは逆方向で、市の中心となる場所の最寄り駅です。
「市の図書館があるだろ?あそこ公園の中にあって、毎年そこが綺麗でさぁ。」
「へ〜〜。そうなんだ。」
案外近いところにそんな場所があったんだ。
「佐藤くんよく知ってたね。私全然知らなかった。」
「いっ⁉︎……あ、やぁ、その……情報源は色々なっ。イロイロ……。」
うん?今日の佐藤くんはちょっとヘン?
じっと見つめると更に慌て始めます。どうして⁈
「あのっっ!それっっ!あややややっっ‼︎ 」
「佐藤くん大丈夫?戻って来てすぐ来てくれたんでしょ?疲れてるなら無理しないで?」
イルミネーションを一緒に見たいって言ってくれたこと、すっごく嬉しかったけどまた明日も会えるし。
「……俺は佳奈恵と一緒の……初めてのイルミネーションを見たいんだ。無理もしていない。だから大丈夫!」
さっきまで挙動不振だった佐藤くんの表情が途端にキリッとしました。
う〜ん。やっぱりカッコいいです。
「ほら!ここだ。」
言われて見てみれば、公園の入り口から奥に見える図書館までのびた道の両脇に植えられた街路樹に取り付けられた、金色の電飾と淡いブルーの電飾。
レンガをひきつめた道のところどころにはピンク、オレンジ、グリーンの色が淡く発光しています。
図書館までのちょうど中間に作られた銀色のツリーには、金色と赤色で模った雪の結晶が散りばめられて、風が吹くとキラキラと煌めきます。
「……キレイ……。」
真っ黒な空間に下弦の月の浮かぶ中、現れた幻想的な世界にしばし見惚れてしまいました。
「本当に……綺麗だぁ。」
佐藤くんを見ると瞳がキラキラしています。
「ふふっ。佐藤くんの目、少女漫画みたいにキラキラしてる。」
すると佐藤くんが私を見てニヤっと笑います。
「佳奈恵だって目、キラキラしてるよ。」
ふふっとお互い顔を見合って笑います。
「ありがとうね。連れて来てくれて。」
そう言うと佐藤くんがくるっと背を向け両手をワキワキさせてヘンな声を出します!
「ぐぐぐぐぐっっっっ‼︎ 抱っこしたいっ!」
やっぱり今日の佐藤くんはおかしい。言動も行動も。
と、その時強めの風が吹いて、ツリーに付けられた結晶が一斉に流れます。
「あっ!」
赤色の結晶が一つ、ツリーから飛ばされていきます。
転がる結晶を急いで追いかけて捕まえます。
「佳奈恵⁈ 」
後ろから佐藤くんが私を呼びました。
「佐藤くん!風で取れちゃったの。」
赤色の結晶を佐藤くんに見せます。
「佐藤くん。抱っこして?」
「えっ⁈ いいの?」
なぜか満面の笑みを返されました。なんで?
「うん。この結晶をツリーに戻したいから。」
佐藤くんの腕を引っ張ってツリーの下に行きます。
「佐藤くん、抱っこして?」
そう言った途端、佐藤くんが私の後ろに回り込んで身体を抱き上げてくれました。
一気に視界が広がっていきます。背の高い佐藤くんよりも頭一つ高い位置で周りを見渡します。私今、光に包まれています!
……そもそも佐藤くんがいるからできることなんだけどね。
手を伸ばしてツリーに赤色の結晶を引っ掛けます。
「ありがとう、佐藤くん。もういいよ。」
私の身体をゆっくりと下ろすと、途中くるっと向きを変えられて、正面に佐藤くんの優しい笑い顔が……と思ったらーーー
冷たくって、柔らかいものが私の唇に重なります。
心臓がドクっと大きく打ち鳴ります!
顔に熱が集まります!
目を閉じることができません!だから佐藤くんの顔がどアップです!まつ毛長っ!
重なった唇に熱を感じたころ、佐藤くんの顔が離れて行きます。
私の顔を見て佐藤くんが笑いをもらしました。きっと真っ赤になっているからだと思います。
「メリー・クリスマス。」
優しく囁く佐藤くんはやっぱりイケメンです。
「メリー……クリスマス。」
恥ずかしくってうつむき加減で言う私の頬に手を添えて、視線を合わせた佐藤くんともう一度唇が重なります。
真っ黒な空からは、細かく白いものが舞ってきていました。
ありがとうございました。