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刺繍は命がけです!

 



「ねぇ、かなピョン。それ間に合うの?」


 同室の紫穂しほ様が私の手元を覗き込み聞いてきます。


「そんなことプロに任せればチョチョイのチョイだよ?なんで自分でやろうとする?苦手なんでしょ?刺繍。」


 同じく同室の紗羅さら様も反対側から覗き込み言います。


「でも自分で……やりたいと思ったから。」


 佐藤くんにクリスマスプレゼントとして渡そうと、スポーツタオル二枚とリストバンドにイニシャルの刺繍を入れているのですが、手芸の苦手な私は今悪戦苦闘中なのです。


「だから言ったじゃないの、頼んでやって貰おうって。かなピョンが刺繍するよりもずっと綺麗な仕上がりよ。」


「私もそう言ったんだけど、かなピョン自分でやるって聞かないんだもん。」


 紫穂様と紗羅様が同時に溜息を吐きます。


「イタッ‼︎ 」


 二人に気を取られて針を指に刺してしまいました!


「ほら!また刺したっ!」


「もう何十回目なの!指が痛々しいったら!」


 十本の指全てに巻かれた絆創膏……。手をひろげて見れば溜息が出ます。


 佐藤くんの試合観戦に行った日。巨人や有賀さんとのハプニングの後、デート中にコッソリ買ってそれから少しづつ刺繍しているのですが……難しいです。


 イニシャルだから大丈夫だと思っていた私が甘かったんです。


 佐藤くんのイニシャルは、【 T • S 】


 そう! S が難関なんです!泣けてきます!


 何度も何度も刺してはほどきを繰り返すうちに、タオルもその部分だけハゲてきてしまって……。


 それを見かねた同室の紫穂様と紗羅様がプロに出してはどうか?と言ってくれたんだけど、これは初めてお付き合いした佐藤くんへのクリスマスプレゼントだから、下手でも自分で刺繍して渡したいと思って。


「ねぇ?今からでも頼んであげるから、プロにやってもらいましょう?」


「その方が早いって。だいたい、どんだけかかってやってるの?」


 紫穂様が左人差し指の絆創膏を取り替えてくれている横で、呆れ顔の紗羅様が聞いてきます。


「……かれこれ……二カ月?」


「ガッツリ三カ月はかかっているでしょう?それだけで!」


 ううううううっ!言わないでぇぇぇっ!


「クリスマスに渡すんだよね?会うのはいつ?」


 紫穂様が私の指を優しく撫でてくれます。


「……イブの日は試合で県外だから、二十五日。」


「あと 何日?」


 紗羅様が腕組みで上から目線です。


「……今日を入れて……五日?」


 すると紗羅様のお顔が般若にっ!瑠美ちゃん以外にもこんな所にいましたっ!


「三カ月かかってタオル二枚しかできてないのに!あと五日でリストバンド二枚は無謀としか言いようがないでしょう‼︎ 」


「そうよねぇ。誰がどう聞いても無謀だわ。」


 紫穂様が可愛そうな子を見る目で私を見ます!


「かなピョン!諦めてプロに任せよう!私すぐ連絡できるから!ねっ?そうしよう。」


 私の右手をとって紗羅様が言います。


「私も連絡できてよ。」


 紫穂様も優しく言ってくれます。


「紫穂様はどちらに?」


 ショートボブの黒髪は猫っ毛で、チョット眦がつりあがった猫目の紗羅様が首を傾げます。


「私の家は【 万福 】の鶴田さんにいつもお願いしておりますの。」


 少し茶色いセミロングの髪で、大きな瞳の紫穂様がニッコリ笑って答えます。


「えっ⁈ うちは【 万福 】の十亀そがめさん!」


「あら、同じお店ですのね。」


 驚きの声をあげる紗羅様と、ふふっと笑いを漏らす紫穂様がお互いの手を取り合い同時に私を見ます。


「やっぱりここはプロにお任せした方がイイと思うの!ねっ、紫穂様。」


「そぉねぇ……その方が、かなピョンの指にもこれ以上の傷をつくることも無いでしょうから。」


 優しい二人の言葉に揺らぎますがダメなんです!これはダメなんです!


「ありがとうございます。でも!自分でやると決めてるので、あと五日頑張ります!」


 ガッツポーズで宣言させてもらいました!


 が、なぜか残念そうな顔を見せるお二人。


「言うと思ったけど、本当に大丈夫なの?私、かなピョンの指が心配よ。」


 紫穂様が大きく溜息を吐きます。ごめんなさい。


「ホント、これだけ言っても自分でやるって言いきっちゃうんだもん。どうしようもないわねぇ。でもね、かなピョン。これだけは言わせて。」


 真面目な顔で紗羅様が言います。だから真面目な顔で

 頷きました。


「かなピョン、それ仕上げるのに五日も無いんだよ。帰る時間があるからせいぜい四日ね。まぁ頑張りなさい。」


「……本当ダァ……」


 移動時間をすっかり忘れていました……ガックリです。


 でもやるのです!佐藤くんの迷惑になるかもしれないけど、いつも私のことを考えて甘々に接してくれる佐藤くんに大好きを込めて刺繍をするの!


 ……チョット重いかなぁって思ったりもしたけど、これはあれよ!厄除けよ!厄除け!


 佐藤くんのモテモテ度がわかったから、私の想いでバリアーしないと!


 有賀さんも日々佐藤くんにアタックしているみたいだし。あの日有賀さんにはあんなこと言っちゃったけど彼女はやっぱり美人だから。気が気じゃ無いのよねぇ……。


 とにかく!頑張ってあと五日……じゃなくて四日でリストバンド二枚仕上げてみせます!


ありがとうございました。

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