抱っこは恥ずかしいです!
クリスマス……間に合うように!
現在、佐藤くんの着替え待ちをしています。
……そして今、何故か私巨人達に囲まれております。
「へ〜〜っ、佐藤がねぇ。」
「人目もはばからず、抱きしめてたんだと。信じらんねぇなぁ。」
「で、抱っこしてここまで連れて来たんだろ?」
「ちっさいねぇ。お嬢ちゃんいくつ?佐藤とはどんな関係なの?」
「マジ小さいよなぁ。中学生?まさか小学生じゃないよなぁ⁉︎」
「小学生じゃ犯罪だろう!」
頭上から降って来る様々な悪態に今にもピキッとキレそうです!
誰が小学生だぁっっ!私は花も恥じらう女子高生だぞっっ!
でも怖いから言えない。カバンを抱きしめてそこに顔を埋めます。
何で取り囲まれてるんだろう?珍しいから?その珍しいは何にかかってくるの?身長が低い?それとも佐藤くんに?
「なぁなぁ。佐藤と付き合ってんの?だったら悪いことは言わねぇからやめときな。」
「そうそう。佐藤モテるから女同士のいざこざ多いんだ。」
「あいつ自体来る者拒まずだからさぁ、あんたみたいな子はすぐ泣かされてポイって捨てられるのがオチだよ。」
「今日の試合中も凄かったよなぁ、毎回佐藤が出る試合はすごいよ。」
「客席はほぼ満員。出待ちは当たり前。」
「今頃プレゼントや手紙握り締めた女の子達が出口に集結してるよ。」
むぅぅぅ!この人達いったい私に何が言いたいの?失礼だよねっ!
……でも言い返せないよぉぉぉ!だって巨人に見下げられて囲まれてるぅぅぅ!
そんな聞きたくもない言葉に耳を塞ぎたくなったときでした。
「チョットどいてくれない。」
女の子の声で巨人達が一瞬で静かになります。
「やっべぇ!」
「……有賀だ。」
「うわぁ!さっそく潰しに来たかっ!」
「最悪だなぁ。」
「頑張れ!チビ。」
最後の人が私の肩を叩いて巨人達の囲みがひらけて行きます。諦めたほうがいいんじゃなかったの⁈
カバンから顔を上げて見ると、有賀さんとそのお友達が険しい表情で立っていました。
一難去ってまた一難。気づかれないように小さく息を吐きます。
「あんた誰?拓真の何なの?」
何でしょう!この威圧感!有賀さんの背後から真っ赤に燃え盛る炎が見えます!これはまた別の意味で怖いです!
「佐藤くんと付き合ってるなんてウソは言わない方が身のためよ。」
いや、ウソって!身のためって!お友達も怖いです!
「ねぇ、親戚の子とかじゃないの?小さいし……。」
小さいから親戚ってその発想は何?ここでも中学生に見られてるの?あり得ない!
「ばっかねぇ。いくら何でも親戚の子にあんなに熱烈に抱きしめたり抱きあげたりしないでしょう。」
そう言った子の脇を近くにいた子が気まづげに肘で突きます。
そうだよね。見てればわかっちゃうよね。
有賀さんだってわかって聞いてきたんだよね。
私はじっと有賀さんを見つめます。
身長は高いです。バスケやってるからかな?スラリとしています。佐藤くんと並んで歩く姿はお似合いでした。カッコいい佐藤くんと綺麗な有賀さん。周りはみんな納得だったんだと思います。
そこに突然現れた私。
はぁ⁈ ってなるよね。チビだし十人前フェイスだし、バスケ関係ないし。
「聞いてんだけど!」
う〜ん…美人が怒ると迫力だわぁ。ここはちゃんと言わないとダメだよね。
「私、佐藤くんと同じ高校で同じクラスだったの。山田と言います。」
カバンを抱えたまま有賀さん達に向かって頭を下げました。
「佐藤くんとは今、遠距離恋愛させてもらっています。」
ちゃんと笑えているかわからないけど、ニッコリと笑ってみた。
「拓真と付き合ってるって言うの?」
眉間にシワを寄せ嫌そうな顔の有賀さん。でもね、本当なんだよ。
「そう。私佐藤くんと付き合ってまーーあわぁっ!」
「そっ!俺の彼女。」
背後からすくうように抱きあげられました!
「拓真!」
「「「 佐藤くぅん!」」」
「ごめん。遅くなった……大丈夫?」
心配そうに、大丈夫の言葉を小声で聞いてくる佐藤くん。ヤダ!顔!近いから!
全力で両手を突っ張って間を空けます!
「いてててっ!首!痛いからっ!」
「もう!佐藤くん近すぎ!それに何ですぐ抱っこするの!」
注目されまくりでスっごく恥ずかしいんだからねっ!
「えっ?この方が話しやすいし、抱っこしてると俺が安心するから?」
嬉しそうな顔で人目も気にせずそんなこと言わないでぇぇぇっ‼︎
有賀さんのお友達から悲鳴があがりました!
両手につくった拳をプルプルさせた有賀さんの顔が歪んで目が潤んでいます。
ええええーーっ⁈ 泣くの?泣いちゃうの?それ困るから!
「……拓真……本当に?その子と付き合ってるの?いつから?どうして?」
「有賀さぁ、どうして一々そんなこと報告しないといけないんだ?」
抑えた言い方で佐藤くんに聞く有賀さんに、佐藤くんの返す言葉はトゲが見えるようで、聞いてる私の胸にもチクチクと鈍い痛みを感じます。
「だって!……だって私……」
「友達だからって言う必要ないよなぁ。」
佐藤くんって、女の子でも容赦無いよね。転校生美少女のときも思ったけれど、有賀さんとも何かあったのかなぁ……。
「私は今だって拓真のことがーーー」
「ストップ‼︎ 」
突然の大声に耳がキーンて来ました!
「確かに……中学のとき有賀に告られて付き合った。でもそれはお前が兄貴の気を引きたいからだってことわかって付き合ったんだ。高校進学前に兄貴に彼女ができて、有賀が付き合うのをやめたいと言って来ても、まぁそうかなぁて、正直そのぐらいにしか思わなかった。」
厳しい目つきで有賀さんを見る佐藤くん。
「高校に入ってバスケでたまに会うようになって、有賀が周りでやってることは俺の耳にも入ってきてる。知っていて俺もそのままにしてた。はっきり言って関わりたく無かった。」
佐藤くんが大きく息を吐きます。
「普通に友達としていればよかったのに…………やり過ぎだ有賀ーーー」
「私は拓真のこと好きよ!確かに中学のときは斗真に近付きたくて、拓真に付き合おうって言った。でも別々の高校に行って、バスケの試合で会って拓真のことが好きなんだってわかった。拓真だって少しは私のこと想ってくれていたんじゃ無いの?だって付き合おうって言ったときアッサリ良いよって言ってくれたでしょう?だから私また戻れるって思っていたの。今度は拓真が言ってくれるのを待っていたの!」
……転校生美少女と被るような気がしますが……?
「勝手な言い分だよな。悪いけど俺、有賀のこと何とも想って無いから。中学のときも。見え見えなんだよ、思ってることが。それが嫌なんだ。」
「えっーーーーー⁈ 」
有賀さんが両手で口を押さえ目を見開いています。目に溜まった涙が決壊しそうです。
「俺は佳奈恵と付き合ってる。それに口出しするお前は何様だ?」
私を抱く手に力が入って、佐藤くんがすっごく怒っているのがわかって思わず抱きついてしまいました!
「佐藤くん大丈夫、大丈夫だよ。それ以上はーーきっと後で後悔しちゃうよ。ね?」
落ち着かせるために背中をポンポン叩きます。
「……ごめん。」
佐藤くんが小さな声で言いました。私だけに聞こえるぐらいの小ささです。
頷き応えて有賀さんを見ます。
顔を赤く染めて少し俯向き加減で立っています。
「有賀さん。私実は転校して全寮制の学校に行ってるの。だから今はいつも佐藤くんと会える訳じゃないの。でも佐藤くんは遠距離でもいいから付き合おうって言ってくれた。私は佐藤くんに何もしてあげられないけど、私は佐藤くんからいっぱい嬉しいことをしてもらってる。有賀さんが何を言っても私には今、佐藤くんしか考えられないし、佐藤くんがいないなんて考えられない。佐藤くんから言われない限り、離れるなんてあり得ないし無理なの。」
有賀さんにわかってもらいたくて、ゆっくりはっきり言葉を紡ぎます。
「でも……それでも有賀さんが佐藤くんを好きなら、頑張ってアタックしてもいいと思うの。」
「佳奈恵⁈ 」
佐藤くんが動揺した声をあげました。
不安げに視線を揺るがせて私を見る佐藤くんが可愛くて、ふふっと笑いが漏れてしまいました。
「佐藤くんを振り向かせる自信があるのなら、やらないよりはやった方がいいと思うの。でもそれは有賀さんにとってとても辛い結果になるかも……だけどね。」
ニッコリ笑って佐藤くんを見ますが、まだ不安そうな顔をしています。
「佐藤くん私に甘すぎるから、しばらくは無理だと思うけどね。」
「ずっとだっ!この先もずっと!」
佐藤くんが私を抱きしめます!
だぁーかぁーらっ!力加減!何かが口から出るからっ!
「俺は佳奈恵がいい!佳奈恵のお母さんとも約束したっ!佳奈恵以外考えられないから!」
ギューギュー締め上げないでぇぇぇぇっ‼︎
意識がとびそうになった辺りでやっと気がついてくれた佐藤くんが、背中をさすってアワアワしています。
「ごめんごめんごめんごめん‼︎ 佳奈恵、本当にごめん!」
「うん。でも……毎回潰されるのはチョットもうイヤかも。だから抱っこはーーー」
「やめない!佳奈恵を抱っこするのは俺の精神安定に必要不可欠!」
「えぇぇぇぇ〜〜〜っ⁈ 」
などと、佐藤くんと恥ずかしい会話をグダグダ続けている間に、気付けば有賀さんとお友達の姿が消えていました。
ありがとうございます。