佐藤くんはとってもカッコいいです!
「う〜ん……全くわかんない。なんであんなにバンバン点数入るの?バスケットって体育の授業でやったけど覚えて無いよぉ。」
体育館二階のふちっこに席を確保して観戦中なんだけど、動きが速いし音がすごくてビックリ。
練習見ていたときも右に左にダダダダァーーッて走っているだけに見えたし……覚えた方がいいのかなぁ……これから先も観戦するなら、ちょこっとでも知っておいた方がいいよね。
瑠美パパから借りて来た双眼鏡を覗きながら、独り言って危ないかな?
でも、周りは家族連れが多いし歓声の方が大きいから、私の独り言なんて掻き消されちゃって聞こえないかぁ。
ちなみに佐藤くん達は二試合目でした。入り口に置いてあったプリントに書いてありました。
席を確保してしばらくすると二面あるコートで試合が始まりました。
それで気がついたんだけど……佐藤くん達はどちらのコートで試合するのでしょうか?
手前じゃ無くて向こう側だったら大変です!即行で移動しないと全く見えません!
あれこれ思いながら双眼鏡を覗いていると、朝佐藤くんと一緒にいた有賀さんが友達と一緒にいるのが見えました。
私が座っている場所とは反対側の前列に座っています。
と、言うことはコートはこちら側で正解かな?
後はどちらのベンチか……。
「……う〜ん。どちらにしても席を移動しよう。」
双眼鏡で楽しそうに友達と喋る有賀さんを見てみます。
肩にかかったちょっと茶色い髪は、ポニーテールしてその長さならおろせば腰に届くぐらいかなぁって思って、あの長さでバスケットをするの?と驚き、一緒にいる子達よりも顔が小さい ⁉︎ なんて双眼鏡越しにじっくり観察していると、ひと際大きな歓声とホイッスルの音で試合が終わったことがわかった。
もちろんこちら側のコートです。
試合で勝った方も負けた方も大きな荷物を担いで、両開きのスライド扉から出て行きます。迅速な行動にビックリです。
そうそう!佐藤くんに見つからないように人にまぎれないと!
小さい背を更に小さくして、佐藤くん達が入って来るのを待ちます。
……そこまでしなくても、久保くんが言うようにまぎれてわからないと思うのだけれど。なんとなくね。
小さくなって何故か目まで閉じてじっとしていると、辺りがザワザワしてきます。
ザワザワは次第に大きくなって突然それは歓喜の悲鳴に変わりました。
悲鳴の合間に聞こえたのは佐藤くんの名を呼ぶ幾人もの声。
そっと頭をあげて人垣の隙間から覗いてみます。
有賀さん達がいる場所の真下にあるベンチにいたのは、黒井くん率いるバスケ部の面々。
黄色い声援にも慣れてるのか、みんな至って普通にしてます。
黒井くんが声をかけみんなが頷くのが見えます。
佐藤くんも座ってバッシュの紐を結びなおしています。
いつもとは違った顔……初めて見る佐藤くんです。
ちょっとドキッとしてしまいました!
きっと他の女の子達もこの佐藤くんの表情にやられたんだと思われます。間違いないでしょう!
と、佐藤くんが上を見上げました。
見上げた先にいるのは有賀さん。佐藤くんに何か声をかけています。それに佐藤くんが右手を挙げて応えます。
……親密度ハンパないんですが?
これは周りが誤解するでしょう。確実に。
それとも……本当は私と付き合ってなんて無い?付き合ってると思っていたのは私だけ?私はまた博武のときのようなことを繰り返してる………?
…………ダメッ‼︎ ダメ!ダメ!ダメ!
あーーーーーーーッ‼︎ またマイナスちゃんになってる!佐藤くんを疑うなんて!
頭をブンブン振っていると、試合開始のホイッスルが聞こえました。
双眼鏡を構えて人垣の間に身体を潜り込ませ、佐藤くんに照準を合わせます。
「……マズイよ。これは……。」
これはアレです!コロッといってしまいます!普段よりもカッコ良さ倍増です!心臓鷲掴みです!鼻血モノです‼︎
走る佐藤くんを双眼鏡を覗いたまま追いかけます。もう気分はアイドルの追っかけです!
夢中でやっていたら、いつの間にかハーフタイムでベンチに下がって行く佐藤くん達。
久保くんがタオルと飲み物の入った筒のようなボトルを渡しています。
タオルかぁ。汗拭くのには必需品だよねぇ。それにリストバンド付けてる。そっかぁ、リストバンドねえ。
人垣から脱出して双眼鏡をカバンに入れます。
よし!決まりました!帰りに買ってきましょう。
もちろん、後半での佐藤くんの勇姿を見てからです!
再度人垣に突入してコートを見ます。
試合は同点で、佐藤くん達の表情も険しいです。
顧問の先生がみんなに声をかけています。
私も両手を握りしめて強く強く念じます。
大丈夫!大丈夫です!勝ちます!
大きな声援が飛び交う中、試合再開です。
硬く目を閉じてブツブツと念仏を唱えます。歓声が湧き上がるたびに顔をあげてコートを見ます。手に汗握るとはこう言うことなんだと初めてわかりました!
周りも熱のこもった声援を繰り返しコートに向けています。
ウズウズして抑えられなくて、内緒で来ていることも忘れて、とうとう大声で佐藤くんを応援してしまいました!
「佐藤くぅーーーーん!がんばってぇぇぇっ‼︎ 」
生まれて初めての大声援です!大勢の人達の声援に紛れて私の声は聞こえないでしょう。それでも頑張っている佐藤くんに声をかけたかった。一生懸命ボールを追いかける佐藤くんに思いを届けたかった。
結果、私の声援と念仏が届いたのか、試合は佐藤くん達が勝ちました!
いや〜〜、何でしょう。何もしていないのにこの達成感。満足。満足。
座席に座ってしばらく放心状態です。燃え尽きてる?
ふっと、コートを見るとなぜかベンチにいる久保くんと視線がバッチリ合いました。えっ?そこから私見えてるの?
久保くんが焦った顔でこちらを見て、大きく腕を振ってジェスチャーをしています。
?……旗を持っていないから手旗信号じゃないよね……手旗信号わかんないけど。何をやっているんだろう?
身体を乗り出してよく見ようとしたときーーーー
いきなり後ろから身体を拘束されましたっっ‼︎
「うぎゃっっっ⁈ 」
咄嗟に出た声が乙女らしからぬでした!
「………何やってんのかなぁ、佳奈恵ちゃん?」
耳に直接聞こえるのは佐藤くんの優しい声!でも!息が耳にかかって!こっ、こっ、こそばゆいーーーッ!
「何で俺に内緒で見に来たの?ヒドイなぁ。」
ギューギュー身体を絞られて、声が出ません!死にます!このままだと間違いなくっっっ!
「でも、こんなサプライズも嬉しいからいっか。まさか会えるなんて思って無かったからメッチャ嬉しい!」
更に力が入る腕に既にギブです!ロープです!腕ごと拘束されてるから足をバタつかせて訴えます!
「あっ!ごめんごめん。嬉しくて抱き潰しそうになった。」
「もっ……もぉ……。」
正面 に回り込んで来た佐藤くんは、ユニホーム姿で満面の笑みです。
そんな顔をされちゃうと、文句言えなくなっちゃうよ。口を尖らせて無言の抗議をしてみます。
「本っっ当にごめん。嬉しいと加減できなくってさぁ。」
「ゔ〜〜〜っ、何で私がいることわかっちゃったの?小さいから下から見えなかったでしょ?」
佐藤くんが私の頭をポンポンと優しく叩きます。
「声が……聞こえたんだ。試合してるときに。気のせいかと思ったんだけど、終わって二階席見たら佳奈恵の後ろ姿が見えて、思わずダッシュしてた。」
きゃぁ〜〜っ!なんて殺し文句なんだぁーーーっ!
顔が熱いです!きっと今真っ赤です!
「佳奈恵、この後何か用事ある?俺今日はこれで終わりだから、何も無いならデートしよ?」
頬っぺたを押さえていた手に佐藤くんの手が上から重なります。私を見る佐藤くんはなんて甘々なんだろう。もう!心臓がバクバクです!
コクコクと頷くとそのまま佐藤くんに抱き上げられました!
「ぬぁーーっ⁈ 」
また変な声がっっ!
「よし!決まりだ。このまま控え室まで行こう。着替えるから少し待ってて。」
抱っこされたまま連れて行かれるときにやっと気が付きました。
もの凄く注目の的です!ザワザワが波のように打ち寄せて来ます。
やだ!やだ!やだ!スっごく恥ずかしいんですけど!
見せ物状態じゃないのっっ!
「佳奈恵、ちゃんと捕まってないと危ないから。」
何でもいいから早くここから出てーーーッ‼︎
ありがとうございました。