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変装は有りでしょう!

一話書くとその後の話数が何故か増えていく。

三話ぐらいで考えていたのに……。

 


「……山田先輩、かえって怪しいのでソレやめましょう?」


 久保くんが嫌そうに私を見てきます。


「どこが怪しいの?瑠美ちゃんはバッチリだって言ってくれたよ?」


 窓ガラスに映る自分の姿を確認してみます。


 瑠美ママがお花のお手入れをするときにかぶるつばの広い麦わら帽子に、瑠美ママのトンボの目のように大きな往年のサングラス。瑠美ママのスカーフを首に巻いて、瑠美ちゃんのロングカーディガンを羽織って完璧な変装です!……暑いですが、これで私だとは分かりません!


「……カンペキ遊ばれてますよ。隠れて試合を見に行きたいって言ってましたけど、そこまですると悪目立ちしますし……見てて非常に暑苦しいです。」


 ゔぅっ……だってぇ……。


「ほら、サングラスだってサイズ合ってないじゃないですか。いいから全部取って下さい。ぼく、この格好の山田先輩とは一緒に歩きたくないです。」


 言うなり久保くんがむしり取っていきます!


「えぇ〜〜ッ!」


「えぇ〜〜ッ!じゃないです。ほらほら、ぼくだって暇じゃないんですよ!急いで下さい!」


 駅前の往来で、帽子とサングラスとスカーフとカーディガンを剥ぎ取られました!


 取った物を抱えた久保くんが、改札脇の壁にあるコインロッカーの一つにソレを押し込めて鍵をかけます。


「帰るとき忘れずに持って帰って下さいね。」


 ロッカーの鍵を私の目の前に突きつけてきました!


「もう!バレちゃうじゃない!」


 せっかく昨日から考えて来たのにッ!


「バレませんよ。どんだけ観客がいると思っているんです?山田先輩なんてフツーにしていても紛れて見えませんよ。」


 しっ!しっつれーーなっっっ‼︎


「久保くん!それは安易に私の身長が低いと、そう言っているのかしらっ!どうなんですかっ?」


「あーーーっはいはい。それじゃ行きますよ、山田先輩。」


 無視かい ⁉︎ 上等だわっ!後で泣きを見るからねっ!


 スタスタ歩き出す久保くんの後を小走りに着いて行きます。


 コンパスが違うぅぅぅっ!私に優しさのカケラも見せないのかぁぁぁっ!


 会場まで歩いて十分ぐらいでしたが、着いたときには息も絶え絶えでした……。


 テニス部の朝練からこっち、随分怠けてたからなぁ。


「うんじゃ、ぼくこっちなんで。山田先輩は開場までその辺をブラついていて下さい。」


 大きなバッグを持った久保くんが、私にペコっとお辞儀をして体育館の方に向かって行ってしまいました。


 何だろうアレは?バスケ部だから?佐藤くんもそうだったけど、久保くんも私に対しての扱いがお子ちゃま仕様だよね?背は小さいけど私は久保くんよりも一年早く生まれてきてるんだぞっ!久保くんよりも一年多く経験してるんだからもっと敬っても良いと思うんだけどっ!


 むぅ〜〜ッ!暑くなって来たからとりあえず避難しよう。


 来る途中、某コーヒーショップ店があったから、窓際陣取って開くのを待とうと思いたち、元来た道を引き返します。




 店内に入ると冷んやりとした空気に包まれ、ホッとします。


 飲み物と、美味しそうなサンドイッチを注文して受け取ると、通りに面した窓際の席へ。


 今日も暑くなるんだろうなぁ。体育館の中、暑いのかなぁ……。


 そもそもどうして佐藤くんに内緒で来たのか。


 別に内緒にする理由も無いんだけど、見に行くって言えなくて……恥ずかしくて……。


 佐藤くんと付き合って初めての試合の観戦。


 どんな顔をして見ればいいのかわからなくって!


 考えただけで顔が暑くなって、ニマニマと締まりが無くなって、そんな姿を佐藤くんに見せたくなくって!


 ……ただ、佐藤くんがバスケで日頃何を使っているのかを知りたいだけなのに、隠密行動をする私。


 意味があるようで全く無いことは、本人が一番わかっているんだけどねぇ。


 サンドイッチを食べながらボーっと通りを歩く人の流れを見ていると……


『拓真!』


 女の子の大きな声で現実に引き戻されました。


 そのまま声の方に視線を向ければ、立ち止まって後ろを見る佐藤くん。更に後ろから手を振り駆け寄るポニーテールの女の子。


 佐藤くんに追い付くと、慣れたように二人がハイタッチして私の目の前を仲良く並んで通り過ぎて行きます。



「アレ、東高の佐藤くんでしょ?女の子誰?めっちゃ仲良さげ。」



 私の座る席の後ろから聞こえて来た声に、身体が大きく跳ねました!



「えっ?知らないの?西条の有賀 優華よ。」


「ヘ〜っ、あの子が……。」


「あの子、佐藤くんと同じ中学だったから、結構一緒にいたりするよ。」


「ふ〜んそうなんだぁ。」


「それにあの二人、付き合ってるらしいし。」


「やっぱり!そんな感じだったよねぇ。」


「家も近所で、高校は別々だけど普段から行き来してるって聞いたよ。」


「そっかぁ、佐藤くんには美人の彼女がいたんだぁ」




 ……付き合ってる?あの子と佐藤くんが?私じゃなくて?


 手に持つサンドイッチをチマチマと食べながら、今さっきの光景を思い浮かべます。


 佐藤くんの顔はこちらに背を向けていたからあまり見えなかったけど、女の子の表情はとても良く見えた。


 走って来たこともあると思うけど、頬っぺをピンクに染めて、スっごく嬉しそうに駆け寄って来たポニーテールの女の子。身長が高くって綺麗系な顔立ち。


 私とは全く類似点の無い女の子。


 西条……って、確か女子校だったよね。


 中学の同級生で同じバスケット部で綺麗な子。


 有賀 優華……さん。


 前に久保くん言ってたよね。佐藤くんは出待ちがあるぐらい凄い人気だって。


 そうかぁ、すると後ろにいる子達も佐藤くん目当てかもしれないんだ。


 ……コレは隠密行動で正解じゃない?


 もし、私の存在がわかってしまったら体育館裏に連れて行かれて、佐藤くんファンに囲まれて責められるんだよきっと!どうしよう!そんなこと考えもしなかった!


 やっぱり変装は必要だったんだよ。久保くん!


 でもこのまま帰るなんてしたくないから、目立たないように人に紛れて観戦しよう!


 せっかく瑠美パパから双眼鏡も借りてきたんだから、これで佐藤くんの使っている物を確認して試合中の佐藤くんを見てそれから帰ろう。


 うん!そうしよう!


 席を立ち上がって横目でチラリと後ろの席を見てみるが、そこは既に無人。


 どんな子達が喋っていたのかチョット気になったんだけどなぁ。


 ゴミを捨ててお店を出ると、ムッとした熱気に一瞬で包まれてしまいます。


 さっきよりも道を歩く人が増えていて、その中に紛れさせてもらって私も体育館ヘ向かうことにしました。






ありがとうございました。

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