プロローグ 邂逅
夏も終わりに近付き、冷え込みつつある日々のとある夜に外を出る。
人も通らない坂道をカツカツ音を鳴らして降りて行く。
歩いて十数メートル先は坂の終わり、突き当たりに店がありその前に自販機がある。
お金を入れ、並ぶ飲み物を選び取り出し口からそれを取り出すと、隣に気配を感じた。
「……ジー」
「……」
何か見られてる。
小学生低学年くらいの年頃だろうか。丈の短いワンピースにフード付きパーカー、靴は履いてないみたいだが。
少女の視線は僕が買い手に取ったそれに注がれる。
「えっと…なんだ、これが欲しいのか?」
「……」
無言のままこくりと頷く。
「炭酸だけどいいか?」
「(こくり)」
初対面で欲しいからと言われあげるのもどうかと思うが、自分が好むものを欲しいと言われ嬉しくないわけもないから気まぐれで渡す。
ペットボトルだからフタを開けから渡す。
「……ごくっーーうぇっぺ」
「おい」
吐き出しやがった。
不味そうな苦々しい顔になる。
「炭酸、大丈夫なんじゃないのかよーーほら」
新しくジュースを買って渡す。
「……(カリカリ)。?(カリカリカリカリ)」
「はあ。貸せ」
缶のタブを開け再度渡す。
「ん」
「……(すんすん)。ずずっーーっ!?ごくっ、ごく、ごくっ……」
匂いを嗅ぎ、また同じのではないかと疑いが晴れたのち口に含む。相当気に入ったのか一気に飲み干す。
僕もひと口分失くなったペットボトルに口を付ける。
「ーーはあ」
いつもと変わらない味。溜め息が出るくらいに、まずい。
わざわざこれに150円もかける意味がわからない。
ま、それは置いといて。
「じゃあな。達者でな」
僕は家に引き返すため少女と別れーー
「おい」
「……」
「……手」
「……」
「離せって……はあ」
服の裾を掴み、離さない少女。
なんだってんだ。ジュース渡しただけで好かれたか?
勘弁してくれ、これ以上何をしろってんだ。こんな日の夜にさ。
「……借り、返す」
「あ?」
「だから、側に居させて」
カタコトでそんなことを言われた。
僕は理解できずに頭にハテナを浮かべる。
少女は裾を離さずジッと僕の顔を、目を見る。
あとから思えばその瞬間から僕は彼女に魅入られたんだとわかる。
長い時間重ねた〝今〟だからこそ。
それも、その時にはわからないはずだ。出逢って10分も経たないその時には。
これは、特に何もしないできない僕と、小さいだけで何でもやろうと思えばできる少女との、何の変哲もない出会いと生き様を稚拙に書き殴った、夢物語である。
9/7初稿
次回→未定