表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/119

プロローグ

5/8

文章を見直し、書き直しました。ストーリーに変更はありません。


「――やっぱ小説は楽しいな」


 本屋で大人買いしてきた小説を読み漁っていた俺は、心の声が独り言になるほど高揚していた。

 今、読んでいるのは、最近流行りの異世界転生もの。

 チートスキルや内政チート、あるいは生産チートを活かし、面白おかしく異世界生活を満喫する話だ。


「やっぱり、魔剣や聖剣がほしいな、、、」


 主人公が迷宮から、魔剣を手に入れたシーンを読んでいて、そのかっこよさに心を惹かれた。

 ――聖剣、魔剣、神槍、、、

 武器というものは、男心をくすぐる不思議な魅力を持っているのだろう。


「そういえば、、、」


 武器で思い出したが、俺の身近な人に武器に関わる人がいたことを思い出した。

 ちょうど、買ってきた小説も全部読み終わったところだし、都合も悪くない。


「――爺さんとこ、行ってみよう!」


 俺の祖父は代々刀匠を継いできた14代目にあたり、なんと人間国宝に指定されていたりする。

 魔剣や聖剣なんかは空想の産物だが、普通の剣くらいなら打たせてもらえるかもしれない。


「そうと決まったら、善は急げ、だ」


◇◆◇


 結論から言うと、すぐには剣打たせてもらえなかった。

 理由は、刀を打つ腕も未熟なのに、剣を打つなんてとんでもないとのことだった。


 もともと、俺は爺さんから刀匠としての腕は見込まれていて、小さい頃はよく修行させられていた。

 それもいつからか、自然にやらなくなってしまったのを爺さんは落ち込んでいた。

 そこに、俺が急に刀を打たせてくれと行ったものだから、爺さんは『ついに孫が後を継く気になった』と、歓喜の涙を流し、自分の持つ技術をすべて俺に継がせると言っていた。


「――まあ、学校にも行かず、オタクの道を突き進むよりは健全かな?」


 俺は、中学に入ってすぐ結構ひどいいじめを受け、非登校になった。

 それからは、外にも本やゲームなどを買いに行くときなど最低限しか出ず、両親も心配していた。


 それだったら、俺が爺さんの後を継いだほうがいいだろうと、両親も特に反対はしなかった。

 なので、俺は爺さんのところで暫く修行することにした。

 

「もしかしたら、異世界に転移することがあるかもしれないし、その時に刀を打つ技術はきっと無駄にならないだろうし」


 こうして、俺は再び祖父に刀匠としての技術を叩き込まれることになった。


 ――本当に異世界に行くことになるとは、この時は思いもしなかったが


◇◆◇


 刀匠になるための修業を始めて5年が経った。

 一応、爺さんも認めてくれるぐらいには刀を打てるようにもなったし、こっそり剣を打ったりはできるようになった。

 学校にも最低限しか通わず、ほとんどの時間を刀を打つことに使える期間を5年も過ごせばこのくらい出来るようになるだろう。


 それでも、人間国宝である爺さんに比べればまだまだ、未熟ではあることは自分でも実感している。

 爺さんが言うには、「技術は申し分ない、ただ刀を打つ時の心がこもっていない」とのことだった。


 ――まあ、もともとまともな理由で始めたわけなのだから仕方ない、、、


 一方、学校の方は卒業式を迎えた。

 中高一貫の学校で、最低限の単位を取るようにはしていたため、なんとか留年せずに卒業はできることになったのだ。


「――あんまり、気は乗らないけど、卒業式くらいは行かないとな、、、」


 久しぶりに、学校指定の制服に袖を通し、いまだ通いなれない学校に向かった。


 ――最後(・・)のいじめが待ってるとは知らずに、、、


 ◇◆◇


「――目障りなんだよっ!」

「かはっ、、、」


 大柄の生徒――剛田ごうだ――に肩を押され、俺の体はフェンスに当たり痛みを訴えた。

 思わず、剛田を睨み返すが、剛田はそれが気に入らなかったらしく、


「『かじし』のくせに生意気なんだよっ!!」


 うずくまっている俺の腹に向かって、剛田が思い切り蹴りを入れてきた。


「――ぐはっ」


 体格のいい剛田の蹴りはかなりの衝撃で、肺に残っていた空気が呻きとなって口からでる。

 あまりの痛さに、目元に涙が溜まるが、そんなことを考慮するやつではない。


 剛田は、まだまだ気が収まらず、さらに蹴り追加してくる。

 そのたびに、俺の体はビクッ、ビクッと、小エビのように跳ねる。


「――お、おい、、、剛田。そろそろやめないと、そいつまずいことになるぜ」


 意識が薄れてきて、あいまいな状況把握しかできなくなってきた。

 その俺の惨状は、どうやら剛田の取り巻きが思わず止めに入るほどらしい。


「は、関係ねえよ!」


 止めに入った取り巻きを振り払い、剛田は俺の胸倉をつかむと、無理やり立たせてきた。


「卒業したら、コイツとはおさらばだからな、今までの鬱憤を晴らすんだ、よ!!!」


 先ほどまでとは違う、重心をのっけた本気のパンチが俺に向かってくる。

 剛田の拳が、俺の顔にクリーンヒットし、俺の体は吹っ飛ばされる。


 ――そう、、、 吹っ飛ばされた。


 衝撃に耐えきれなかったフェンスは破れ、俺は空中に投げ出されていた。

 驚愕に染まる、剛田と取り巻きの顔を見ながら、俺は重力に従い下に落ちていく



「――ああ、、、 これで、俺は死ぬんだなぁ」



 ――俺は諦めの気持ちと共に、落下の衝撃を待った。




 ◇◆◇



「――あれ?」


 落下の衝撃は思ったよりも小さいものだった。

 と、いうより、、、


「死んで、、、ない?」


 屋上から落ちたのにも関わらず、俺の体に痛みはなかった。

 違和感を感じ、俺は自分を顔に触れた。

 剛田に殴られ、腫れていたはずの顔はやはり、なんともなかった。


「どういうことだ?」


 確認のため服をめくり、蹴られた腹を見てみるが、やはりなんともない。

 痛みすら、嘘のように消えている。


「――マジでどういうこと?」


 不思議に思って首を傾げた俺は、いまさらながらあることに気づいた。


「――森?」


 そう、俺は学校の屋上から落ちたはずなのに、なぜだかわからないが森にいた。



「このままじゃ、埒が明かないな」


 しばらく放心していたが、気持ちを切り替えることにした。

 ――てか、もしかした異世界に転生した可能性もあるしな!

 オタクの精神というのは、こういう時に役に立つみたいだ。


「――ん?」


 立ち上がろうとして、体制を変えると、制服の内ポケットから、白い紙きれが覗いているのが目に入った。

 こんなもの、入れてなかったはずだけど。


「手紙?」


 俺は疑問に感じつつも、手紙を開いた。

 唯一の手がかりであろうそれを、確認のために声に出しつつ読み上げる。


『屋上から落ちて、それはもうスプラッターな死に方をした加治 志郎様へ』


 ――ぐしゃ。

 オーケイ、オーケイ。落ち着いて続きを読もう。


『あまりにもかわいそうだったので、オタクの加治様に喜んでいただこうと異世界に転移させました』


 ――きたーーーー!


『異世界転移者セットとして、【言語翻訳】【簡易マップ】【アイテムボックス】をお送りしました。』


 ――定番のスキルだな。


『では、新たな人生をお楽しみください』


 ――え?

 ――これだけ?

 チートスキルは?


 続きを読もうにも手紙には、これだけしか書かれていなかった。


 屋上から落ちて死んだのはしょうがない。

 異世界に転移させてくれたのは、すっごく嬉しい。


 ただ、、、


「異世界もので、チートスキルなしとか、だめでしょーーーー!」


 ――俺の魂の叫び声が、森に木霊した


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ