7.飛鷹騎士団
用事が終わったルカ・ルーと入れ違いに、大柄な人間の男が受付に近づく。
アンジェリクの受付が空くのを、待っていたようだ。
大男はギルバート。
見る者を威圧するような存在感を放っている。
いかにも鍛えられた精悍な顔付き。
「アンジェ、ギルド長はいるか?」
ギルバートが受付嬢に話しかける。
「あら、鉄壁さん、来てたんだ」
「ん、さっき来たところ。今日は混んでるな」
「この時間はねぇ。最近はお昼まで、いっつもこんな感じよ。それよりこの間はごちそうさま」
「んむ、いや、こっちこそ楽しませてもらった。そのうちまた行こう」
「ふふ。鉄壁さん、せっかくウイングボーンに来ても、なかなか誘ってくれないんだもん、待ちくたびれちゃうのよねぇ」
「んー、騎士団を辞めたら自由になれると思ったのに、しがらみでいろいろとな・・・・・」
「はいはい。分かってるってば。有名人はつらいつらい。ふふふ。たまにでも付き合ってくれるから、私はうれしいんだけどね」
アンジェリクは上目遣いに、背の高いギルバートを見上げる。
ほんのり頬が上気している様子。
「それで、ギルド長はいるのか?」
「ごめん、鉄壁さん、今、ギルド長は出張中なのよ」
「そうなんだ、しばらく帰らないのか?」
「2,3日後かな、戻るのは」
「ふむ、副ギルド長は?」
「今日はまだ来てないなぁ、ほんとにすみません・・・・・」
ギルバートは少し困った顔になりながら、思案する。
「んじゃさ、アンジェ、飛鷹騎士団に関する情報を知らないか?」
「飛鷹騎士団ねぇ・・・・・問題あるのよね、あそこは」
受付嬢のアンジェリクは、少し顔を顰めながら応える。
「飛鷹騎士団の討伐依頼、とか出てるのか?」
「うん、出てるよ。もっとも何人も返り討ちにあってるから、今は受ける人が居ない状況」
「やっぱりそうか、この辺の人に聞いたらひどい話しかなかった。賞金首もいるのか?」
「うん、数人は居るはず。裏で調べてくれば賞金首の情報も渡せるよ」
「んじゃ、それ頼もうかな」
「飛鷹騎士団の討伐依頼を受けてくれるの!?」
アンジェリクは目を見開いて、ギルバートを見つめる。
「別口でヤツラをなんとかしてほしいと頼まれてる。どうせなら依頼も受けちゃおうかと」
「鉄壁さんが受けてくれるんなら、こっちもすごく助かるなぁ」
「状況によっちゃぁ、荒事になる。ギルド長に先に話つけておこうと思って」
「そうなのね。じゃぁ、その件に関しては、私の方で責任持って対応しておくよ?」
「それならいいか。んじゃ、頼む」
「これはうちにとって朗報よ。ほんとありがたい!感謝感謝!」
「んー、まあ、あまり期待しないで。情報よろしく」
◇ ◇ ◇ ◇
ギルバートはオットー子爵の依頼通り、飛鷹騎士団と交渉をしに行く予定。
話がこじれたら揉めるかもと考え、先にギルドに話を通しておくつもりだった。
ギルドの依頼で乗り込むとなれば、話が楽になると考えたのだ。
アンジェリクが指名手配書の確認に、奥へ引っ込んでいく。
ギルバートは受付の横にある喫茶コーナーに移動。
テーブル席に座り、ウエイトレスに飲み物を注文して寛いだ。
(あんまりごねるようなら、めんどうだから片っ端から切っちまうか)
オットー子爵の邸を出てから、彼は付近で飛鷹騎士団の噂を聞いてみた。
あまりの評判の悪さに、出るのは苦笑いばかり。
聞いていて、だんだん不快な気分になってきた。
強盗や強請りたかり、人さらいや暗殺など、ひどい有様。
この付近じゃ、被害にあった事ことがない人はいない、とまで言われる始末。
飛鷹騎士団はウイングボーンの東のはずれに駐屯している、かつての名門騎士団。
有力貴族の後ろ盾があった頃は、この街の重要な戦力だった。
今の団長が就任してから貴族たちがどんどん手を引き、孤立していった。
団長は『豪腕』のジルベスターと言う。
粗暴でわがまま、短気でだらしないという、とてもまともとは言えない人物。
ウイングボーンの東地区は飛鷹騎士団を中心に、スラム街を形成していた。
盗みや人殺しをへとも思わないような人間が集まってる、この街の吹き溜まり。
この街の領主であるローゼンハイン伯爵は、住民に慕われている評判のいい貴族。
何度か東地区の一掃を試みたが、ことごとく返り討ちにあっていた。
多大な被害を受けてからは、慎重にならざるを得なかった。
飛鷹騎士団の戦闘力が高く、大戦力を投入すると大きな戦争になりかねない。
『この街の癌なのだが、うまく外科手術で取り除けない』
と言うくらい嫌われていたが、どうにもできないもどかしい存在だった。