41.ドラゴン討伐戦 その3
レオポルドもこの戦いに、手応えを感じていた。
自分の指示通りに動く仲間たちが、とても頼もしく誇らしい。
ドラゴン討伐の期待感が、いやがおうにも高まっていく。
気になるのは、逆風ウインドが相手をしているワイバーン。
タゲを仲間の前衛に受け渡して手が空いた隙に、彼らの方をチラっと見る。
2匹のワイバーンを押さえ込み、余裕を持って戦っている様子が見えた。
(もう1匹倒したんだな)
(さすがにギルさんだ。言った事はキチンとやるな)
(向こうが終われば、こっちに合流してもらえるし、さらにやり易くなる)
初めてドラゴン戦の指揮を任され、体にヘバりついていた緊張感が解けてくる。
(あとはブレスのタイミングを見誤らない事)
(ギルド長と絢爛に、タゲが跳ねないようにする事)
(それさえ気を付ければ、うまくいくってもんだ)
(いやいや、いかんいかん。ここで気を抜いちゃダメだ)
気が緩みそうになる自分にカツを入れ、再びファイヤードラゴンに集中していく。
「いい調子だぞ。ブレス対策もばっちりだし。みんな、この調子でがんばろう」
「おう」
「任せとけっ」
仲間に声を掛けると、威勢のいい返事が返ってくる。
「少しずつでいいから、ドラゴンにダメを入れ続けるんだ。相手が弱ってくればこっちのもんだ。慌てる必要は無いから、じっくり・・・・・」
「レオ!!右、右だっ!」
◇ ◇ ◇ ◇
レオポルドの掛け声の途中、斥候が大声で遮った。
声に従って右側に顔を向けると、どこから現れたのかワイバーンが目に入る。
魔物は弓部隊を飛び越えて、魔法士の塊に突っ込んできた。
ギャアアアアアアアアアアッ
雄たけびを上げて突っ込んできたワイバーン。
気付くのが遅れ、魔法士が一人直撃を受けて吹っ飛ばされた。
「ワイバーンだ!新手のワイバーンが右から突っ込んできた。慌てないで対応しろ!」
「ダメだ、一人やられた。近づかれたら俺たちじゃムリだ!」
レオポルドが指示を出すが、魔法士の一人が悲鳴に近い声で助けを求める。
「ギルド長、そっちでなんとかなりませんかっ!?」
「今なんとかする、ドラゴンのタゲはそのまま維持しろ!」
リシャールはすぐにワイバーンに向かって、火の玉を撃ち込む。
数発当たって、ワイバーンが怒り出す。
リシャールに向かって突進していく。
爪の攻撃を、紙一重でリシャールがかわす。
「おっさん、どいてろっ!」
ノアハルトが叫ぶと同時に、大きな炎の槍を頭の上に作り出す。
「くらえっ!」
掛け声と共に、ワイバーンに向かって炎の槍を投げつけた。
それは見事にワイバーンの胴体に当たり、突き刺さった傷口が焦げる。
ギャアアアアアアアアアッ
ワイバーンが大きく吼えて、苦しそうな素振り。
「へへっ、もう一丁!!」
ノアハルトがもう1度大きな炎の槍を、頭上に作る。
苦しんでいたワイバーンがそれに気付き、邪魔しようとノアハルトに突進する。
「絢爛にワイバーンのタゲがいった!前衛の誰か守ってくれ!」
「分かった。俺が行く!」
前衛の右端に居た盾士が後ろを振り返り、ワイバーンに向かって近寄る。
ワイバーンは痛みと怒りで、メチャクチャな動きで暴れていた。
そしてノアハルトに向かって爪を向ける。
ノアハルトは後ろに下がって逃げ、なんとかかわした。
弓士がワイバーンに斉射する。
しかし、怒り狂ったワイバーンは当たり構わず爪と尾を叩きつける。
近寄った盾士はワイバーンに向かって、土吼を放つ。
しかしワイバーンの動きは、変わらない。
ノアハルトに向かって、さらに近づいていく。
盾士は魔法と剣でワイバーンに攻撃を加え、なんとか自分をタゲる様に仕向ける。
しかし、ワイバーンはノアハルトへのヘイトが異常に上がっていた。
「レオ、ダメだ。俺じゃ、ワイバーンのタゲが取れない!」
「分かった。おい、なんとかドラゴンのタゲを維持しててくれ」
レオポルドは隣の盾士に前線を任せて、後ろに向かう。
ノアハルトは逃げ回りながら、大声で叫ぶ。
「早くタゲ取れっつーの!おいら、一撃食らったら、おっちんじまうってっ」
「ちょっと待て。今、こっち向かせるから」
「早くしろ、早く!あー、もう、このやろう!上等だ!」
レオポルドが水吼を放ち、さらに剣をワイバーンの胴に当てる。
ワイバーンがレオポルドを見て、ノアハルトからタゲが移りそうになった瞬間。
ノアハルトはしびれを切らして、再び炎の槍をワイバーンに撃ち込んだ。
ギャオオオオッ
当然のようにワイバーンのヘイトは、再びノアハルトに向かう。
「ばかやろー。もうちょっと待てって、タゲを安定させてからにしろ!」
ワイバーンのヘイトが、あちこち飛ぶ事で弓士や魔法士、斥候などは右往左往。
前線は二人盾が居なくなったが、なんとかファイヤードラゴンのタゲは維持。
「まずはワイバーンの処理だっ!絢爛はもう撃つな、逃げ回ってろっ」
「なんでだよっ!おいらが倒すっての!」
「状況を見ろっ!体勢が崩れちまってる。くそっ」
レオポルドの指示を聞かずに、ノアハルトは逃げながら魔法攻撃を続けている。
ノアハルトを追いかけるワイバーンの後ろを、レオポルドと盾士が追い回す。
周りの冒険者がノアハルトに攻撃を止めるように言っても、彼の耳には入らない。
◇ ◇ ◇ ◇
その折、タイミング悪く斥候が叫ぶ。
「ブレスがくるぞおおお!」
「マジかよっ!くそっ。マズいぞっ!」
「レオ、どうすればいい!?」
「前線は防御体制。中衛後衛は散開してブレスとワイバーンの両方に備えろ!」
「盾は何とか耐えてみせる!」
「ワイバーンが邪魔だ!早く何とかしようぜ」
「備えなしでブレスはキツイぞっ」
かなりの混乱状態。
ノアハルトはブレスの合図も耳に入らないのか、ワイバーンに攻撃を続けている。
かなりの攻撃が入ったので、ワイバーンはもう虫の息になっていた。
「よしっ。こいつは討ち取ったぞ!ザマー見ろってんだっ」
「バカ。絢爛!ブレスがくるぞっ」
レオポルドはノアハルトに近寄り、防御壁を作ろうとする。
その瞬間。
グオオオオオオオッ
ドドドオオオオオオン
ファイヤードラゴンがブレスを放った。
「ぐあああ」
「レオ!」
「レオ、だいじょぶか!?」
ノアハルトや魔法士を守ろうと準備中にブレスが到達。
完全には防げずに、多くの冒険者が被弾してしまった。
皆を守ろうと、自分の盾と水壁だけで直撃を受けたレオポルドは燃えていた。
ザーー
ザーー
後衛の誰かが水魔法を放ち、レオポルドの体から火を消した。
「レオ!だいじょうぶか!」
「ううううぅぅ・・・・・」
全身やけどの大怪我だ。
「回復を頼むっ。早くしろ」
回復士が数人がかりで処置するが、重傷なので簡単には治らない。
「絢爛もやられてるぞっ!」
ノアハルトはレオポルドの陰に隠れていたので、炎の影響は少なかった。
しかし体力が低く防御力が無いため、意識をなくしたようだ。
◇ ◇ ◇ ◇
リシャールは大きな声で、全員に呼びかける。
「みんな、落ち着けっ。怪我人が出たが、まだ戦闘は続いている。前衛は踏ん張って耐えてくれ。回復士は怪我の処置と前線の補助を、手分けしてくれ。魔法士は攻撃を継続。弓士と斥候は怪我人を後方に運ぶんだ」
「分かった!」
「前線は俺が指示する!」
「あんたとあんたは前衛回復。あんたは戻って、怪我人の処置をしてっ!」
さずがにベテランの冒険者たち。
リシャールの指示を受け、各パート毎に必要な事をやりだす。
(くそっ、まさかワイバーンが残っていたとは・・・・・)
(ブレス対策に集中しすぎて斥候が気付かなかったか)
(盾と火力の要が、抜けちまったか・・・・・)
リシャールはあせりながらも、状況を把握する。
(まずいぞ、まずいぞ。ブレスはまだくるだろうし、耐えられるか・・・・・)
(ノアだけじゃなく魔法士が数人離脱か。火力も足りん)
このまま続けるか、諦めて撤退戦に移行するか悩むところ。
撤退するにしろ簡単にはいかないだろう。
距離が開くとブレスの連発もありうる。
「怪我人の報告を!どんな感じだ?」
「レオさんの意識が戻ってません。絢爛の意識は戻りました」
「戦えるか?」
「無理ですね、まだ朦朧としてます」
「他はどうだ?」
「致命傷はいませんが、戦闘不能が6人います」
「りょーかい」
リシャールは全体を見回す。
突っ込んできたワイバーンはすでに絶命している。
前線の壁は5人に減り、タゲ維持がやや苦しくなってきてる様子。
回復役が持ち場に戻るまで、こまめにタゲの受け渡しをしているようだ。
弓士は半数が怪我人のケアに回り、半数が再び斉射を開始した。
魔法士の数の減少がキツい。
火力のほとんどを担っていたので、削りきれるかどうか。
大幅に戦力が減少しつつも、どうにか立て直しを図る。
リシャールも火力不足を補うため、積極的に攻撃魔法を入れだす。
盾壁も回復役も人数が減った状態だが、攻撃を入れてもタゲは維持できていた。
(問題はブレスだな)
(ブレスを耐え切れれば、まだ勝負になるんだが・・・・・)
魔法攻撃や物理攻撃を食らっていても、ファイヤードラゴンはまだ余裕な様子。
(ノアが復帰できれば火力も足りるんだがな)
(怪我人に過度な期待は禁物か)
「斥候!他にもワイバーンが残ってないか、気を配っておけよっ」
「了解ですっ」
「ブレスの見極めも正確にな」
「はいっ」
「前衛、きびしかったら早めに言ってくれ。壁が崩れそうなら撤退しかない」
「分かってますっ」
状況判断を続けながら、的確に指示を出す。
さらに仲間を励ますことも忘れない。
「不測の事態で怪我人は出たが、なんとか持ちこたえよう。それぞれが自分の持分をきちんとやればだいじょぶだ。まだ慌てなくても時間はたっぷりある。負担が大きくて無理そうな時は、我慢せず声を出せ。力を合わせて、助け合えば、何だってできるさっ」
冒険者としての長い経験、ギルド長としての責任感。
リシャールがかもし出す雰囲気に、動揺していた冒険者たちが落ち着きだす。
◇ ◇ ◇ ◇
「ノアの様子はどうだ?意識は戻ったか?」
「意識は戻りましたが、まだふらふらしてます」
「攻撃参加は無理か?」
「とても無理そうです。一度立ち上がったら、ふらついて倒れました」
「くそっ。分かった。それ以上、無理させるな」
「はい」
回復士の報告を受けて、ノアハルトの火力は断念せざるを得なかった。
回復薬を飲みながらリシャールは、続けるか撤退するか、まだ迷っていた。
(ブレスを耐えられるか、火力が足りるか)
(次のブレスまでに決めないとまずいな)
「壁はブレスに耐えられそうか?」
リシャールが残った前衛の中の、リーダー格に話しかける。
「うーん、分かりません。レオがいないときついかも・・・・・」
「もし撤退するにしても、ブレスを食らうことになるぞ」
「受けてみるしかないですね」
その盾士を補助している回復士が割り込んでくる。
「壁もそうだけど、中衛と後衛のブレス対策がくずれてるわ」
「人数減ったから、きびしいか・・・・・」
「ブレスが来そうになったら、さっきより距離をとって、左右に分散がいいかな」
「そんじゃ、そうしてくれ。魔法士もブレスの時は集まらずに散ろう」
「了解」
「前衛の負担が大きいな」
リシャールは額を流れる汗が、だんだん冷たくなってきているのに気づかない。
経験からくる勘が、これ以上無理するのは危険だと告げているのか。
「ブレスの予兆ありっ」
斥候が叫んだ。
「防御体制っ!各自ブレスに備えろ!!」
報告を受けて、間をおかずにリシャールが防衛指示を出す。
壁役は5人が密にくっつき、それぞれの防御魔法を発動。
回復士は前回と同じ様に盾士に密着。
槍士、剣士は壁から離れて左右に散っていく。
後衛は急いで後ろに下がり、壁からなるべく離れた。
グオオオオオオオオッ
ドドドオオオオオオン
ゴオオオオオオオオー
「うわーーーー」
「キャアアアアアアアッ」
ファイヤードラゴンの放ったブレスは、最初、壁に当たった。
壁が耐えていると、ファイヤードラゴンはブレスを放ったまま頭を動かした。
壁の後ろ側に人が居なくなったので、人数が多そうな場所に狙いを変えたのか。
ファイヤーブレスが左右の広範囲に降り注いだ。
その結果、防御の弱い冒険者を中心に、大きなが被害が出ている様子。
「みんな落ち着け。立て直して撤退戦に入ろう。今日は断念して、出直しだ!怪我人を救助してくれ。壁の回復も急いでくれ。ブレスがまたきたらマズいぞ」
リシャールが改めて指示を飛ばすが、場はかなりパニックとなっていた。
壁も撤退と聞いて動揺したのか、少しバラつき始めている。
「ぐあああ」
壁の一人が大きくのけぞり、悲鳴を上げる。
ファイヤードラゴンの爪の直撃を受けたようだ。
(まずいぞ。まずいぞ)
(このままじゃ壊滅だ。なんとかしなきゃ)
リシャールは焦りだすが、決定的な解決策を見い出せない。
「みんな。耐えてくれ。なんとかもう1度、立て直そうっ!」
怪我によるうめき声。
食い違う指示の押し付け合い。
すがるようにギルド長を見つめる目。
1度目の立て直しの時とは、状況が変わってきていた。




