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40.ドラゴン討伐戦 その2


ギルバートも回りの動きに合わせて、林の中から飛び出ていく。

ルカ・ルーは遅れないようにその後ろを追いかけた。



(いたっ!)


(あれがファイヤードラゴンか!)


(大きいいいいいいっ)



林を出たところは草原で、少し先が小高い丘になっていた。

その丘の中腹に、ファイヤードラゴンが居るのが見えた。

3階建ての建物くらいとは聞いていたが、実際に見ると、見上げるほどの大きさ。


2匹のワイバーンがその傍にいて、1匹が空を飛んでいた。



ギルバートは力強くダッシュし、レオポルドとほぼ並ぶ。

レオポルドはファイヤードラゴンに、ギルバートはワイバーン2匹に近寄る。



ギャアアアアアッ


グオオオオオオオッ



魔物たちはすぐに襲撃者に気がつき、興奮して叫びだした。


二人はほぼ同時に、それぞれの狙いに水吼、土吼を撃つ。

追いすがった他の前衛もファイヤードラゴンに、同じ様に攻撃を始めた。





◇ ◇ ◇ ◇





ギルバートは2匹のワイバーンの気を惹きつつ、空を飛んでいる1匹を見る。



「ルカ、あの1匹をこっちに釣れるか?」


「やってみます」



ルカ・ルーは弓を掲げて、思いっきり弦を引く。

狙いをつけて、集中していく。



「ひょぃ」


気合を込めて口癖と共に矢を放った。



ピシューーーッ



ワイバーンの羽に当たり、穴を開けて突き抜けた。



ギャアアアアッッ



ワイバーンは興奮して、ルカ・ルー目掛けて滑空してくる。

近寄ってきたところで、ギルバートがその横っ面を剣で叩こうとした。


ワイバーンは身を捻って避けると同時にギルバートを睨む。

対応していた2匹の攻撃を左手の盾で受けながら、空中に向かって水吼を放った。


3匹目のワイバーンも地面の降りて、ギルバートに向かう。

対峙しながら左手の盾と右手の剣をうまく使い、彼は3匹とも惹きつけた。


その様子を少し離れた後ろで見ていたルカ・ルーはすぐに矢を番える。



ピシューッ



一番近くにいたワイバーンの頭を狙って矢を放った。

しかしワイバーンはそれを察知して頭を捻って矢を避ける。



(む、かなり素早いな)


(動きをよく見て、頭の動かし方を、慎重に見極めなければ)



ルカ・ルーは次の矢を番えながら、ワイバーンの動きをしっかり見詰めた。

ワイバーンはギルバートの剣に気を取られて、ルカ・ルーからは目を離している。



「ルカ、慌てなくてもいいから、いつものように狙ってくれ」


「はい」


「近づきすぎるなよ。タゲが飛ぶとやっかい」


「りょーかいです!」



会話しながらもワイバーンの動きから目を離さない。

試しにと、ワイバーンの体を狙って矢を放ってみる。



ピシューッ


ズン



今度は的が大きいので普通に当たった。

胴体の横に矢が刺さったままだ。

しかし、ワイバーンはあまり気にしている様子はない。



ピシューーーーッ


ピシューーーーッ


ピシューーーーッ



3連射で胴体を狙い、同じ様に3本とも刺さった。

されどもワイバーンに変化は見られない。



(矢が効いてないなぁ)


(くやしいいいい)



「遠慮せずに、ジャンジャン撃て。数当てれば、なんとかなるから」


「はいっ!」



再び3連射で首を狙う。

1射目は避けられたが、残りは軌道を曲げて首の動きを追わせて当てた。


2本の矢が首に刺さり、さすがにワイバーンも嫌そうな素振りを見せる。

しかし、動きそのものは大きく変わらない。



(やっぱり頭に当てるのが良さそうね)


(できれば目を狙いたいなぁ)





◇ ◇ ◇ ◇





いつもの狩りの時のような落ち着きが、戻ってきた。

もう一度冷静に、ワイバーンの動きを見詰める。



ワイバーンがギルバートに咬み付こうと首を伸ばし、剣や盾に阻まれている。

長い首をクネクネ動かして、曲線的に動いていた。

それほど俊敏さはないのだが、不規則に動くのでなかなか捕らえにくい。



(うーん、フォレストバットの動きとは全然違うわね)


(でもギルさんが時間を作ってくれてるうちになんとかしないと・・・・・)



ギルバートがきちんと魔物を惹き付けてくれているので時間的に余裕が持てた。


読みにくいワイバーンの頭の動きを、しっかりと目で追い続ける。



(ん?)



咬み付こうと首を伸ばす動きが、直線的でやや単調な印象を受けた。

勢いよく、首を真っ直ぐに伸ばしてくるのだ。



(よし、あの瞬間を狙ってみよう)


(ギルさんの体に近く、延びきった瞬間が狙い目かも)



ルカ・ルーは弓と番えたまま、ワイバーンの動きを追う。

ギルバートに爪を叩きつけていたワイバーンが、咬み付こうと頭を一瞬引いた。



(ここだ!)



ワイバーンの頭の動きを予測し、噛み付くために頭を精一杯延ばす瞬間を狙って。




ピシューーーッ


カシンッ



(おしいっ)



ギャアアアアア



矢は伸びきったワイバーンの顔になんとか当たった。

しかし、動きの予測が少しずれていたのか、頬に当たって弾かれた。


ワイバーンは顔に矢を当てられ、怒った様子。

ギルバートがすかさず水吼をキャストし、剣でその個体の気を惹く。



「ルカ、今のだ。できれば目に当ててくれ」


「やってみます」



ルカ・ルーは再び矢を番え、ワイバーンの動きを読む。

顔に矢を当てられた個体は慎重になり、彼女にも気を配っていた。


残りの2体はまだこっちを気にする素振りもせずに、ギルバートを攻撃している。


ギルバートはまだまだ余裕はありそう。

時々、ワイバーンの首を剣で斬りつけ、少しずつ疲弊させていた。



(さすがねぇ)


(これ、時間掛ければ一人で3匹とも倒しちゃうんじゃない!?)



自分の3倍以上大きい魔物3匹を手玉にとっている彼を、半ば呆れて見詰める。



(ふふっ)



つい口元が緩んでしまう。

おかげでリラックスできたのか、集中力がぐっと高まっていくのを自覚した。



(よしっ。これならいける!)



自分に注意を向けていないワイバーンの動きを、ジッと目で追い続ける。

魔物はギルバートの盾に両手の爪を、連続して叩きつけている。


腕がしびれたのかその動きを止めて、首を一瞬後ろに引いた。



(これだ!)



慎重にワイバーンの首の軌道を見極め、タイミングを合わせて矢を放つ。




「ひょいっ!」



ピシューーーーーッ



ズン



ギャアアアアアアアアアッッ



見事にワイバーンの右目に、矢が突き刺さった。

同時にそのワイバーンが苦しがって暴れだす。


ギルバートが体を寄せて、その首に剣を突きたてた。

剣が深々と突き刺さる。



ギャアアアア


ワイバーンはしぶとく逃げるために、雄たけびを上げて首を振ろうとする。

しかし、その声も先ほどより力が足りない。


ギルバートは左手の盾で残り2匹を惹きつけながら、剣をさらに突き出していく。

ルカ・ルーはこのチャンスを逃がすかとばかりに矢を連射。


ワイバーンの顔に矢が数本刺さったところで、その個体は絶命したようだ。



「ルカ、いいぞ。その調子」


「はい!」



残りは2匹。

それらはギルバートだけではなく、ルカ・ルーにも十分気を配り出した。





◇ ◇ ◇ ◇





一方、その頃。


レオポルドの指揮の元、ファイヤードラゴンに挑む冒険者たち。

作戦通り連携しながら、順調に戦闘を進めていた。


各パーティから選び抜かれた屈強な前衛が7名。

レオポルドが中央に位置し、最前線で盾の壁を形成していた。


ファイヤードラゴンのタゲが一人に固定しないよう、交替でヘイトを高めている。


各盾士、一人一人のすぐ後ろに、それぞれの回復役が配置されていた。

受け持ちの壁役が傷つくと、すぐに回復魔法を使用しているのだ。


傷ついた部位に直接手を触れて魔法を使うのが、もっとも効果的。

なので危険を恐れずに、最前線の近くまで寄っている。


通常の狩りの時の回復士の働きは、戦闘の合間に傷や打撲の回復を行う事が多い。

戦闘中は中衛として槍や矛にて、壁役の隙間から攻撃を行う。


しかし、今回は戦闘の合間がない。

長い戦闘では、戦闘中にどんどん回復させなければ追いつかないのだ。



「タゲが一人に固定しないように、うまく回すんだ!」


「おう、次は俺がタゲ取るぞっ」



レオポルドの指示に、隣にいた盾士がファイヤードラゴンに向かって魔法を放つ。



「ヒーラーは壁が傷ついたら、躊躇せず回復してくれ」


「まかせとけっ」


「お互い声を掛け合って、連携重視でいこうぜ!タゲを絶対後ろに飛ばすなよ」


「おうっ」



ファイヤードラゴンのヘイトは、確実に壁に向かっていた。

爪や牙の攻撃、尾の一撃などは全て盾で防いでいる。


攻撃役の中衛として、回復士の横や後ろに槍士や剣士が配置されていた。

彼らは臨機応変に移動し、チャンスがあれば壁の前に出る。

ファイヤードラゴンに一撃を入れて、すぐに壁役の後ろに戻るのだった。


一番後ろに、後衛が配置されている。

ここが最も人数が多かった。


両サイドに広がっている弓士が、リーダー指示の元、斉射を開始していた。

ほとんどの矢はファイヤードラゴンの鱗に弾かれてしまう。

しかし、ところどころ弱い関節などに当たって刺さっている矢もあった。


毒や麻痺薬を使用している者もいたが、ドラゴン相手だとなかなか効果は出ない。

それでも長時間になればなるほど、後で効いてくる可能性が高くなる。


多くは頭を狙ってはいるのだが、高さがあり、よく動くのでなかなか当たらない。

だが、顔の近くに飛んだ矢は、ファイヤードラゴンもそれなりに嫌がる。

意識を散らす効果は、ある程度でていると言えよう。


後衛の中央に、数人の魔法士が待機している。

リシャールやノアハルトもその中にいた。


彼らの出番はまだない。

ノアハルトは焦れたように、リシャールを睨んでいた。



「ちっ、まだかよ。おっさん!」


「まあ、待て。今は動くな。後で嫌でも撃ちまくらなきゃ、だからな」



他の魔法士は苦笑いしながら、ファイヤードラゴンから目を離さない。

戦いに慣れている冒険者は、慌てる時期ではないことは百も承知。

どこにどう、魔法をぶつけるか考えているのか。





◇ ◇ ◇ ◇





前線の維持、早め早めの回復、弓斉射による牽制。


戦線が安定していることを確認して、レオポルドがリシャールに声を掛ける。



「ギルド長!お願いします」


「おう。まかせろ。ノア、お前はまだだ、まずは俺が手応えを見る」


「なんだよ、おっさん!俺にやらせろよ」


「落ち着けって。いきなり高火力入れると、タゲが跳ねるだろうが」


「そんなの壁が、抑えりゃ、いいじゃん!」


「いいから、大人しく、待ってろ」



リシャールはファイヤードラゴンを睨みつける。

おもむろに右手を上げて、掌を前に突き出した。



「はっ」



気合と共にリシャールからファイヤードラゴンに向かって、火の玉が飛んでいく。



ズウン



ファイヤードラゴンの胸に当たり、小さな爆発が起こった。



グアアアアアッ



ファイヤードラゴンは大きく咆えた。


かなり嫌がっている様子。

効いているようだ。


ファイヤードラゴンのヘイトは、リシャールの方には向かっていない。

相変わらず盾の壁を攻撃している。


リシャールはさらに2発、撃ち込んだ。


ズン


ズン



それでもタゲは壁のまま。



「よし、魔法部隊はじゃんじゃん打ち込んでいいぞ。だいじょぶそうだ。ノア、おめーは遠慮しながら撃てよ」



「ふん、遠慮なんてしてられっかよ。見てろ、おいらが倒してやるっ」


「ギルド長、だいじょうぶ。そっちにタゲ渡さないから、ガンガン、撃ち込んでください」



レオポルドがフォローすると同時に、魔法士たちが得意な魔法を撃ち始める。

ファイヤードラゴンは飛んでくる魔法を受けながらも、まだまだ余裕だった。


ノアハルトは両手を頭の上に掲げ、空中を両手で挟んで投げるような素振り。

その両手の間から、炎の槍が一直線意ファイヤードラゴンに伸びていった。



ズガンッ



胸に当たると同時に、かなり大きな爆発。



グアアアアアアアッ



ファイヤードラゴンの胸に大きな傷が付いて、苦しそうな様子を見せた。

ノアハルトはすかさず、もう1発同じ魔法を打ち込む。


しかし、2発目はドラゴンが腕を振って、爪で横殴りに弾き飛ばした。



「ちっ」



ノアハルトは悔しそうに舌を打つ。

前線の壁は変わらずにタゲを維持している。


槍士や剣士の攻撃、弓の斉射も胸に付いた傷を狙いだす。

ファイヤードラゴンがイラつき出したのが、遠目にも分かった。





◇ ◇ ◇ ◇





「ブレスが来そうです!」



後衛の位置から、ファイヤードラゴンを観察していた斥候が告げる。


執拗な攻撃に怒り出したファイヤードラゴン。

得意のブレス攻撃を繰り出すタイミングだ。


斥候はずっとドラゴンの動きを見極め、ブレスの警告を出す役を担っている。

ベテランの斥候になると、魔物の動きからブレスの前兆を見極められるのだ。


レオポルドが受けて、すかさず指示を出す。



「ブレスくるぞっ!防御体制強化!」



壁役の盾士は思い思いに魔法を発動。

それぞれの周囲に、水壁や土壁、水盾や土盾などが展開される。

回復士は一旦下がり、壁から距離をとった。


彼らは後衛近くまで下がり、体をくっつけて、狭い範囲に密集。

魔法士と合わせて、ほぼ一団となる。

回復士と魔法士の中の壁や盾を使える者が、一団の前方に防御壁を発動した。


弓士は斉射を止め、後方や左右に拡がり、各自防御体制でブレスに備えた。



前線の壁は維持したまま、防御体制が完成した直後に、予想通りブレスが発動。



グオオオオオオオオオオオ


ドドオオオオオン



レオポルドを目掛けて、強烈なファイヤーブレスを撃ち込まれた。

数秒続く強力な火炎放射を、前衛は身を小さくして、魔法と盾に隠れて耐える。


集中して守りに徹したことにより、どうやらブレスをかわしきったようだ。

燃え広がる炎も、回復士、魔法士、弓士、斥候、みながうまく対応している。



「被害あれば報告!なければ攻撃再開だ!」



レオポルドの声にも張りがある。

ブレスを耐え切った自信なのか。



「こっちは被害ないぞ。見える範囲でも大きな影響は出ていない」


「よし!ドラゴンに集中攻撃だ!」


「うおおおおお」


「ブレスも怖くねぇ。いける!いけるぞっ!」



リシャールが一番後ろから見て、被害が出ていないのを確認。

それを受けてレオポルドの指揮のもと、攻撃が再開された。


ファイヤードラゴンのタゲは変わらず前線の壁に向いており、状況は安定。



「ノア、最初はちょっと押さえ気味にしろ」


「わーったよっ!俺の攻撃が強すぎるんじゃ、しょうがないやい!」


「あとで弱音吐いても、休ませねーぞっ」


「あったりめーよっ!おいらがドラゴンを倒すんだっつーの!」


「あはははは。頼もしいな」



リシャールは作戦通りに順調に進んでいるのを確信。

ノアハルトをからかう余裕が出てきたようだ。


魔法職は時折、鞄から水薬を出して口にしている。

魔素の多い回復薬だ。


前衛もタゲを受け渡しした後に、水分や栄養薬を補給していた。



「斥候。ブレスは何回くらい来るかな?」


「うーん、かなり体力ありそうなんで10回くらいは見といた方がいいかもです」


「うへ、長丁場になるなぁ」


「でも、ちゃんと戦えてますね。時間掛ければいけそうです」


「ああ。ブレスの前兆はちゃんと掴めたか?」


「はい。だいたい分かりました。次、来る時には、また合図します」


「頼むぜ、いきなり撃たれたらヤバいからな」


「りょ」



斥候は答えつつ、目はファイヤードラゴンから離さない。

その様子をチラッと見て、リシャールはニヤっとした。


さらに彼は、魔法士たちが攻撃魔法を放っているのを見る。

ノアハルトは押さえ気味に、他は思いきりファイヤードラゴンに撃ち込んでいた。


自分は手を休めながら、魔力を温存。

一番後ろから全体を見ながら、不測の事態に備えるのだった。


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