表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/46

38.出発


ファイヤードラゴン討伐戦の当日、朝。


ギルバートとルカ・ルーは、ウイングボーン南門の外の集合場所に居た。



40人前後の冒険者たちがおり、かなりの喧騒だった。

屈強な前衛、ローブを纏った優雅な魔法士、軽装備で俊敏そうな弓士。

4-6人で構成されているパーティが多く、いくつかの塊に分かれていた。


今は冒険者ギルドから回されてくる、馬車を待っているところ。

ギルバートは相変わらず、周りには興味なさそうにボーっと立っていた。

ヘルムとグローブはまだ着けていない。


ルカ・ルーはその横に並んで、キョロキョロしている。

彼女は見慣れない装備を身に着けた冒険者たちを、興味深そうに見ていた。



「ギルさん、見たことない装備の人が、けっこう居ますねー」


「んー、やつらは遠征が多いから」


「それは高レベルだからですか?」


「ん、そうだな。特殊な依頼が多くて、個別に対応してるんだろ」


「高そうな装備の人、いっぱいいますねぇ」



ルカ・ルーは周りを見回しながら、感心したように呟く。



「まあ、装備がいくら良くても、問題は中身」


「あはは、確かにそうですね。やっぱ腕と度胸ですよね!」


「そういうこと」



ギルバートは何故か得意げに答えた。


こういう強敵の討伐に参加した事がないルカ・ルーは、ワクワクが止まらない。



元々、狩人は基本的に、個人営業。

たまに数人で合同の狩りに出る事もあったが、小規模なチームがほとんど。

しかもたいていは弓士同士の、弓狩りパーティだった。


そういう場合、個人の狩りと同じく、気配を消して忍び寄り同時に矢を射る。

あるいは複数に寄せられそうな時に、皆で一斉に敵を捌くのだ。

言ってみれば個人狩りのパワーアップバージョンだ。


複数パーティで役割分担しながら討伐する、いわゆるレイドは初めてなのだ。



「ほとんどの人が知り合いです?」


「んー、俺が知ってるのは半分くらいか」


「ふむふむ」


「昔からの古株はたいてい顔見知り。新しいのは知らん」


「なるほどー」



巨大な敵に、このメンバーで一斉に襲い掛かる情景を思い浮かべて興奮気味。



「ファイヤードラゴンかー。楽しみだなー」


「んー、まあ、こんだけメンバーいればなんとかなるか」


「ええっ!こんなに強そうな人いっぱいなのに、ヤバいかもしれないんですかっ!?」



倒す事しか考えていなかったルカ・ルーは、びっくりして声が大きくなる。

ギルバートはうるさそうに、顔をしかめた。



「まあ、やってみなきゃ分からん」


「ふーむ。こんだけの戦力でも分からないのかぁ・・・・・」



ルカ・ルーは自分が考えていた以上の激戦になるのかと思案顔。


少し離れたところに居た五人組みのパーティが、声に気づいたのか近寄ってきた。





◇ ◇ ◇ ◇





「ギルさん、お久しぶりです」


「おう、お前らか」



ギルバートは顔見知りのようで、にやりと微笑む。



「鉄壁さん、こんにちは!」


「ごぶさたっす!」


「こんにちはーです!」


「元気そうだな、お前らも」



五人の挨拶に普通に応じるギルバート。

かなり仲がいい様子。

重装備を身に着けた獣人の若者が、皆より前に出てギルバートと向かい合う。



「今日はギルさんが来てくれるって聞いて、皆、張り切ってますよ」


「ん、俺は、今日はサポートだな」


「ええ。少し前から皆で作戦練ってたんで、今日はそれでやらせてもらいます。でも、何かあったらジャンジャン、口出してください」


「レオが指揮とるのか?」


「ええ。今日は俺が指示を出す予定です」


「んじゃ、今日はレオに従おう」


「よろしくお願いします」



レオポルドはかなり落ち着きのある獅子の獣人。

粗雑な冒険者たちと違い、風格がある感じ。



「小耳に挟んだんですけど、ギルさん、パーティ組むとか?」


「ん、さすがに耳が早いな」


「やっぱ、本当なんですね。残念だなぁ。やっぱりうちじゃ、ダメですか」


「んー、別にお前らがどうこうじゃないって。今までは全部断ってたからな」


「んでも、今回組むと?悔しいなぁ」


「まあ、成り行きでな」



ギルバートはルカ・ルーの方に顔を向ける。

彼女は何故か楽しそうに、目をキラキラさせていた。



「はいっ!」


ルカ・ルーがいきなり右手を上げて、叫んだ。



「初めましてっ!私がパーティメンバーです!」



ギルバートは、はぁっと溜息をつき、横目でレオポルドを見る。



「まあ、そういうことだ。彼女がうちのリーダー」


「初めまして。俺はレオポルド、盾士やってます。この五人で『大地の鼓動』ってパーティを組んでるんだ。ランクはBでリーダーは俺。前からギルさんを勧誘してたんだ」


「そうだったんですかー」


「パーティ結成おめでとう。今日の指揮をやりますのでヨロシク」


「こちらこそヨロシクお願いします。私はルカ・ルーといいます。ギルさんと組んだ『逆風ウインド』のリーダーになりました」


「俺のことはレオと呼んでね」


「はい。私は風弓か、ルカと呼んでください」


「そんじゃ、ルカさん、たぶん同じ馬車に乗る事になると思うんで、そん時にゆっくり話でもしましょう」


「了解ですー」





◇ ◇ ◇ ◇





ギルドが用意した馬車が、南門から4台連なって出てきた。

これらに分乗して、現地に向かうこととなる。


街道に立っていた冒険者たちは、思い思いに道路わきに避ける。

空いたスペースに馬車が止まった。


一番後ろの馬車から、リシャールを先頭にギルド職員が降りてくる。

リシャール、ローペ、マルティナの3人だ。


アンジェリクはギルドに残って、そのまま留守番することになっていた。

ローペも出発までの手配が済んだら、ギルドに戻る事になる。



「みんな揃ってるか?ロペ、確認してくれ」


「分かりました」



リシャールの指示を受けて、ローペが冒険者たちの確認を始める。

マルティナがそれぞれの馬車の御者に、行き先を説明し始める。


リシャールはレオポルドを見つけて、近寄ってくる。



「おはよう。揃ってるな」


「ギルド長、おはようございます。いつでも出発できますよ」



レオポルドがすかさず答えた。



「それじゃ、今日の指揮はまかせるんで、分乗から出発までの指示出しやってくれ」


「了解です」



レオポルドと大地の鼓動のメンバーは打ち合わせをしながら、離れていった。



「ギル、どうだ、このメンバーでいけるかな?」


「んー、実物を見てないからなんとも・・・・・まあ、だいじょうぶなんじゃない?」


「でないと、困るわな」


「リシャさんがいるから、だいじょぶでしょ」


「ああ、火力に関しては、だいじょうぶだろ。俺もガンガン撃つつもりだけど。俺より火力高えのも連れてくし」


「そいつは来てるのか?」


「えーと、どれどれ」



リシャールは冒険者たちを眺め回す。

遠くの方に、目的の人物が居るのを見つけたようだ。



「向こうの端っこに、一人でポツンと立ってやがる。ま、あとで同じ馬車に乗った時に紹介してやるよ」


「ん、別にいらんが」


「まあ、そう言うな。変わったやつだが、おもしれえぞ」


「火力はいいとして、タゲ固定はだいじょぶか?」


「火力調整しながら、安定具合を見極めてだな」



彼らはそれぞれ頭の中で、戦闘のシミュレートを行っているようだ。



「バッファーは結構来てるのか?」


「何人かはいる。だが、あまり強力なのはいないな」


「支援士まで揃えてるパーティは、ここにはあまり居そうもないか」


「ああ、優秀なのはすぐに上位ギルドに囲い込まれるからな。みんな王都に行っちまう」


「ん、そういうのは王都で、でかいツラしてイキがっていた」


「ああ、確かに、ヤツラが居ると居ないじゃ違うんだがな。ここにはなかなか居つかん」



リシャールが忌々しそうに、吐き捨てた。



「デバッファーもいなそうだな」


「優秀なのはいないな。お遊び程度で使うのが何人か」


「んなもんか。回復は揃ってるんだろ?」


「ああ、気の利いた回復士が今回はいるな」


「んじゃ、いけそうだな」



リシャールはニヤリと笑顔を見せる。

ローペが近寄ってきて、準備が揃ったことを告げる。



「リシャさん、全員来てますよ。レオさんの指示で馬車に分乗し始めました」


「ほいよ。ごくろーさん」


「そろそろ、馬車に乗り込んでくださいよ」


「んじゃ、行くか」



リシャールがギルバートに目配せをする。

ギルバートは頷いたあと、ルカ・ルーに目を向けた。


ルカ・ルーは、待ちきれない様子で右手を握って振り上げる。



「おおーー!」



満面笑顔、にこにこ。


ギルバートは顔をしかめて、呆れていた。



「ギルとルカ、あの一番後ろの馬車に乗っていてくれ。大地の鼓動と一緒だ」


「ん」


「分かりましたー!」


「おい、もっと落ち着けって」


「落ち着いて、ますよぉぉ!」


「もう、しゃべるな」


「ええっ!?」



興奮気味の子供と、それをあやしてる父親のような光景。



「ギル・・・・おめー、いつもとずいぶん、違うな」


「知るかっ!」



ぷいっとそっぽを向いて歩きだすギルバート。

にこにこしながら、その後ろを付いていくルカ・ルー。


こんなに感情豊かなギルバートを初めて見たリシャールは、呆然として見送った。



「ギルさん、だいぶ変わりましたねぇ。ルカさんの影響でしょうね」


「ああ、ルカは不思議な子だな。目が離せねえ」


「あの二人、きっと伸びるでしょうね」


「ああ、間違いない。この組み合わせはすごいな。ギル自身も無意識にそう感じているんだろ」


「それで、急にパーティを言い出したんですかね」


「だろうなあ」



今度はリシャールがギルバートを、親が子を見るような目で見守るのだった。



「そんじゃ、ロペ、留守はたのむな」


「はい、討伐うまくいくよう頼みますね」


「まかせておけって」



お互い頷きあって、笑顔で会話。

リシャールは乗り込む馬車に向かって移動していった。





◇ ◇ ◇ ◇





準備が整った馬車から、順次出発していく。

ルカ・ルーたちが乗った馬車が、一番最後となった。


リシャールとマルティナが荷台の一番前に陣取り、後ろ向きに座った。

他のメンバーは2列に両側に並び、中央は通路と荷物置き場になっている。


逆風ウインドの二人。

大地の鼓動の五人。

そしてソロ参加の人間の若い冒険者も乗っていた。


リシャールは同乗者を見回しながら、話す。



「大物相手だからな。怪我人や死人が、出なきゃいいんだがな」


「慎重にやりましょう。命あってのものですしね」



レオポルドが仲間を見回しながら答えた。


リシャールがすぐ前に座っているローブを着た人間の若者の肩に手を置く。



「ギル、こいつが火力バカのノアハルトだ。なりはヒョロいが、強力な一撃を放つぜ」


「おっさん、ヒョロいは、よけいだっつーの!」


「見るからにヒョロいだろーがっ」


「男はなっ、見た目じゃねーっつの。要は中身!中身で勝負」


「ほう、中身には自信があると?」


「あったりめーよ!」



威勢のいい発言のわりに、周りをキョロキョロ見回す仕草はやや頼りない。

リシャールはそれが分かっていながら、からかっているようだ。



「ん、ヨロシク」


「あんた、鉄壁さんだろ?みんなが、すげーって言うんだけど、ほんとにすげーの?」


「んー、普通だな」


「普通なんかいっ。名前だけ売れて、中身はからっきしってのもいるからな!」


「おい、ガキ。ギルさんに失礼な事言うんじゃねえ。馬車から叩き出すぞ!」



見かねてレオポルドが、ノアハルトに注意をした。

リシャールは何故か楽しそうに、ニヤニヤしている。



「おめーこそなんだ、獅子か。けもの風情が偉そうに仕切るな!」


「なんだと、俺が今回、指揮を執るんだぞっ。お前一人でドラゴンに突っ込ませてやろうか!」


「けっ、雑魚が粋がるんじゃねえや。決闘なら負けねえぞ」



ギルバートはうんざりした様子で、そっぽを向く。

言い争う様子を見ていたルカ・ルーは、子供の喧嘩のように感じて思わず苦笑。



「おい、そこの弱そうなねーちゃん。何笑ってる!ふざけんじゃねーぞ」


「あ、すみません。別に笑ってないですよ。いつもそんなにイライラしてたら疲れちゃわないかなと、可笑しくなっただけです」


「なにぃ。おめーのような、くそメスエルフに、何が分かるってんだ!」


「あー、ほんとゴメンなさい。どうぞ、そちらで続けてください。もう邪魔しませんから。あと、弱々しくて、スミマセンです」


「けっ、なんか、こう、悟ったみたいに言いやがって。気にくわねえな」


ノアハルトは席から立ち上がり、向かいに座っているルカ・ルーの傍に来る。

そして顔を怒らせてルカ・ルーを睨む。


彼が一人で興奮している様子に、だんだん他のメンバーが呆れだす。



「んー、もうその辺にしとけ」


「なにがっ!」


「いいから黙れ」



ギルバートが左手を伸ばして、素手でノアハルトの顎をはさんだ。

それだけでノアハルトは、動きが取れなくなる。


彼は両手でギルバートの腕を掴みはずそうとするが、全く歯が立たない。



「むぐむぐむぐ」



何か言いたそうだが、顎を抑えられて言葉にならない。

すると急に動かなくなり、ギルバートを睨む目付きに力が篭りだす。



「ノア、ここで魔法を使うなよ。使ったら重い罰則があるぞ」



それまでニヤニヤ見ていたりシャールが、きつめに話しかけた。



「むぐむぐむぐーーー!」



必死に逃れようとするが、力の差は明らか。



「おい、ギル、その辺で許してやれ。ちょっと鼻っ柱が強いが、悪いヤツじゃない」


「んー、気が強いのもいいし、好き勝手にやるのもいいが、他人に迷惑掛けるな」



ギルバートは手を離しながら、ノアハルトに諭す。

ノアハルトは顎をもみながら、また文句を言おうとして口をあける。

しかしギルバートと目が合い、言葉が出てこない。



「うう・・・・ちくしょう」


「あと、うちのリーダーは弱くない。あとでちゃんと謝っておけ」


「リーダー?」


「俺のパーティのリーダーが、エルフのルカ・ルーだ。覚えろ」


「ギルさん、いいから。ノアさん、席に戻ってのんびりいきましょう」


「ふん」



ノアハルトはまだ収まらなかったが、諦めて席に戻って腕を組んだ。



「ギル、こんなアホだが、面倒見てやってくれ」


「ん、最初はみんな、こんなもん」


「すまんな」


「まあ、これじゃあ、どこのパーティも拾わないだろうな」


「そういうこった」


「うるせーっ!」



リシャールとギルバートに話題にされて、むくれるノアハルト。


怪しくなった雰囲気を変えようと、リシャールがレオポルドに話しかける。




「現地に着くまでは、まだ時間があるから、のんびり行こうぜ」


「着いてから慌てないように、手筈を整えましょうか」



レオポルドがやや硬い表情で答えた。



「そんじゃ、本番に備えて、作戦会議といくか」



リシャールはやや調子よく、皆を見回した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ