表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/46

31.二人で夕食


ルカ・ルーは3階まで階段を上がり、自分の部屋へと入っていく。

中は薄暗くなっていたので、光玉を作り出し、小棚のランプに封じ込めた。


魔法鞄から水筒を出して、水分を補給する。

ふうっと一息つき、両肩の力を抜いた。


ベッドに腰掛け、ゆっくり深呼吸をしながら少し瞑想にふける。



(今日もいろいろあったなー)


(ウイングボーンに来てから、予想外の事が起こりすぎて大変)


(でも、毎日充実していて、楽しいな)


(ベアバレーじゃ、絶対に体験できない事ばかりだ)



気持ちを落ち着けながら、この街に来てからのことを思い返す。

初めての命の奪い合い、大物狩り、パーティ結成・・・・・


急に人生の流れが速くなったかのように、めまぐるしく様々なことが起こった。

その一つ一つを思い返し、自分が全てに納得できていることを確認。



(うん。流されていない。自分がこうと決めたように進んできている)


(自分は、自分らしく、このまま続けていけばいい)



幼い頃から繰り返してきた、自分自身との対話。

ゆっくり自らの有り様を見つめることで、心が少し落ち着いた気がした。



(さて、ギルさんが夕食の時に来るって言ってたな)


(でも、今は、人が一番多い時間かなー)


(このまま横になって休んでいよっかな)



ころんっとベッドに横になり目を瞑ったら、いつのまにか意識が落ちていった。





◇ ◇ ◇ ◇





一刻くらい経過した頃、ルカ・ルーの部屋をノックする音。



コン、コン、コン



(う、なんだろ)



コン、コン、コン



(あー、私、寝ちゃったのね・・・・・)



「はい、はーい。今、開けますね」



ルカ・ルーはベッドから降りて、入り口に近寄る。

扉を開けると、ビオレッタの笑顔。



「風弓さーん、待ち人来たわよー」


「へ?」


「だから、鉄壁さんが会いに来たのよ」


「あー、もうそんな時間なのね」


「約束してたんでしょ?風弓さんいるか?って聞かれたもん」


「そうそう、約束してたのに寝ちゃってた」


「あらー、んじゃ、鉄壁さんを案内しておくから、準備してきてね」


「はい、すぐ行くね。また、目立たないところで、お願いね」


「分かってるってー」



ビオレッタはわざとらしく、ニッコリと笑って応えた。

そして扉を閉めて、部屋から離れていった。



ルカ・ルーは慌てて準備をする。

この日に買ってきたかわいい服を、魔法鞄から全部取り出し、ベッドに拡げた。



(あ、これかわいいー)


(あー、これはやく着てみたいな)


(いやいや、外に出るんだからもうちょっとしっかりしたの着なきゃ)


(うー、やっぱスカートがいいかなー)


(うーん、気分的にはこれかなぁ)



彼女が手に持って取り上げたのは、生成りのベージュ色のワンピース。

やわらかい素材でふわっとしていて、着心地が良さげ。

かわいいレースがあしらわれており、足首まで隠れる長い裾。

お気に入りの服になりそう。


着ていた服を脱いで、清潔と消臭。

丁寧にワンピースを身につける。

ゆったりと体に巻きつく、ひんやりした布が気持ちいい。


一瞬考えて、買ってきた水色のカーディガンをその上に羽織る。



(あ、なんかいい感じ)



そのままこの街に溶け込めそうな気分。

初めて着るワンピースは、少し自分を大人に後押ししてくれる気がした。


短剣と魔法鞄を、所定の位置に身に付ける。

靴も買ってきたかわいい木靴。


準備が整うにつれて、気分も高揚してくる。



(ふふふ、このカッコ見て、なんて言ってくれるかな)


(あ、でも、似合わないと言われたらどうしよう・・・)


(ううん、絶対似合ってるはず!)


(だと、思うんだけどなぁ)



元来、さっさと決めて、さっさと物事を進める性格のルカ・ルー。

服を着たあとも自分の姿を見ながら、いろいろ考える様子はめずらしい。



(はっ、たいへん)


(遅くなったらギルさんに悪い)


(急いで行こう)



扉を開けて廊下に出る。

鍵をかけて、その鍵は魔法鞄にいれた。


廊下を移動し、階段を下りる。

食堂の入り口まで来ると、中からにぎやかな音が聞こえてきた。



(今日も人がたくさん居そうね)


(はぁ、やっぱ注目されちゃうのかな)


(ギルさんとパーティ組むと、こういうのにも慣れなきゃならないのかな)



ルカ・ルーは意を決して、食堂の扉を開ける。

中に入った瞬間、やはり注目を集めた。


どうしようかと戸惑っていると、ビオレッタが見つけて声を掛けてくれた。



「風弓さん、こっちよー」



ビオレッタが厨房の近くから、手を大きく振っている。

ルカ・ルーはすぐに気がついて、ビオレッタの方に向かって歩き出した。


通路を進んでいる途中で、テーブルに座っていた冒険者がいきなり立ち上がる。



「おっかないエルフのねーちゃん、今日もかわいいねぇ。また一段と貴族様みたいだ。今度、おいらとデートしてくんない?」


「おい、トンビ、やめろって。エルフさん、ゴメンなさい。こいつ今日はもうすっかり酔ってて・・・・・」


「おいらはまだ、酔ってねーっての。エルフのねーちゃん、かわいいうえに強いってんだから、惚れるのしょうがないべ」


「だから、絡むのやめろって。鉄壁さんだって来てるみたいだし・・・・・ほんとにすみません。もう連れて行きますので」



相変わらず賑やかなクラウスを、仲間が懸命に抑えている。

周りはその様子を見て、にやにや笑っている。



「いえいえ。まだ慣れてないのですみません」


とばつが悪そうに、ルカ・ルーが応えた。

見ていたビオレッタが、慌てて駆け寄ってくる。



「何やってるのよ。また、トンビさんが騒いでるのねー、ホントにもう」


「おいらは別に騒いでないって。エルフさんをくどこうとしただけだっての!」


「いいから大人しく飲んでてくださいね!他に迷惑かけるなら、出入り禁止にするからね!!」


「わ、わかったよー、おいらはただ、かわいいエルフの・・・・・」


「おいトンビ、行くぞ。これ以上はヤバいって!ビオさんツケといてねー!」



クラウスの仲間が彼を引っ張って、食堂から連れ出していった。

ビオレッタは腕を組んで、眉にしわを寄せている。



「ふぅ、風弓さん、だいじょうぶ?」


「私は、全然平気よ」


「とりあえず、向こうに行こうか」


「はい」



ビオレッタの後ろについて、ルカ・ルーは厨房の方に向かう。

途中で、テーブルに座って背を向けているギルバートが目に入ってきた。



「鉄壁さん、お待たせ。風弓さん、来たよー」


「ん」



ビオレッタが声を掛けると、ギルバートが振り返る。

ルカ・ルーと目が合うと、彼の目元が少し緩んだ気がした。



「ギルさん、お待たせしました。遅くなってゴメンなさい」


「いや。なんか向こうで騒いでたな」


「もうね、参っちゃうわ。風弓さんが、酔っ払いに絡まれてたのよ」



ビオレッタが憤慨したまま、ギルバートに告げる。



「む、呼んでくれたら、ぶっとばしてやったのに」


「ええっ。そんな過激な・・・・・」


「ルカも、しっかりしないとな。自分で簡単に追っ払えるだろうに」


「無理ですよー。このカッコですもん」



ルカ・ルーは両手を広げて、ワンピース姿をアピールする。

ギルバートはその姿をじっと見詰める。

しっかりと見られて、彼女は逆にあたふた。



「と、とりあえず、何にも無かったので、食事にしましょうよ」


「ん」



ルカ・ルーはギルバートの向かい側に座って、一息つく。



「それじゃ、注文もらっちゃおうかしら」


「よろしくお願いします」



彼らは、慌てて夕食を選ぶ。

どちらもお勧めの夕食セット。

ギルバートはお酒も頼んだ。


ビオレッタはそれを受けて、厨房に引っ込んでいった。





◇ ◇ ◇ ◇





「ルカ、そういう格好すると、ほんと、冒険者に見えん」


「やっぱ、そうですよねー。その自覚はあります」


「まあ、似合ってるがな」


「あ、ありがとうございます・・・・・」



まさかギルバートに褒められるとは思ってなかったので、動揺するルカ・ルー。



「田舎では女の子らしいカッコなんて、ほとんどしたことなかったので」


「ほう」


「ビオさんと一緒に買い物して来ました。いっぱい買い込んじゃいました」


「そいつは、よかった」


「これから他の街にも行くでしょうから、そっちでも服を買うのが楽しみになりました」


「なんか依頼というより、旅行に行く感じ」


「そ、そんなことないですよ!ちゃんとお仕事もしますから」


「まあ、期待しておこう」



ルカ・ルーは顔を少し赤くしながら、ギルバートとの会話を楽しむ。



「昼間はどうでした?」


「どう、と言うのは?」


「アンジェさんとの話し合いですよ」


「ん、普通」


「普通って・・・・・、どう普通なのか全然分かりません」



ギルバートとアンジェリクの関係がマズくなったのかと、不安なルカ・ルー。

つい口に出してしまう。

相変わらず、言葉が少ないギルバート。



「まあ、今までと変わらん。ルカとのパーティには納得してもらった」


「そうなんですかー。アンジェさんに悪い事しちゃったかと心配しました」


「いや、ルカが悪いことは無い。ちょっとした食い違い」


「ならいいんですが・・・・・」



ギルバートはこの話題を、続けたくはなさそう。

ルカ・ルーはすぐにそう感じ取り、話題を変える。



「それじゃぁ、逆風ウインドは正式に決定ですか?」


「そういうこと」


「ほっ、よかった」



ギルバートの落ち着いた様子から、今後もパーティを続けられる事を確信。

知らないうちに自分が緊張していたことを、彼女は実感した。



「では、改めて、これからよろしくお願いします」


「まあ、気楽にやっていこう」


「ふむ、今後の方針とか、話をしましょうね」


「そのつもり」



ギルバートはようやく、にこりと笑顔を見せた。

普段はほとんど笑顔を見せないだけに、ルカ・ルーはすごく気持ちが和んだ。


夕食が届き、二人は食べながら話を続ける。



「まずは、活動方針としては、昼も話したように、飛鷹騎士団の団長を探して捕まえるか、倒すのが最初の目標になりますよね」


「ま、そうなるか」


「となると、どこに潜んだかですよねー」



ルカ・ルーは腕を組んで、顎を引いて考える。



「明日、リシャさんに会う時に、その件も相談してみるか」


「うん、ギルドで情報を集めたいですね」


「ん、あと、面白そうな依頼、平行してこなそう」



ギルバートの提案に、ルカ・ルーにパーっと笑顔が戻る。



「あー、いいですね。今日のジャイアントグリズリーみたいな獲物はとても勉強になります」


「どの町にも、ああいうやっかいな依頼が残ってるもんだ」


「そういうのをどんどんクリアしてあげると、喜ばれますね」


「別に喜ばれなくてもいいが、一人じゃキツかった魔物も、今日みたいにいけそうだ」


「うんうん。ギルさんが抑えられれば、なんとかなる感じですね」



昼間の戦いを思い返しながら、ルカ・ルーが応じる。



「素早くて抑えられないのや、魔法を撃ってくるのもいるから」


「ふむ」


「全部うまくいくとは限らない、あと大群で来る相手も」


「うー、確かにそうですねー」


「相手を見極めるのが大事」


「もっと仲間を増やせば、強い敵も倒せるようになりますね」


「んー、合わないやつとは組みたくない」


「ですよねー。二人でもうまくいくか分からないのに先走りしすぎました」


「そういうこと」



ギルバートのスイッチが入りそうになったのに気付き、ルカ・ルーはすぐに謝る。



「明日、ギルドで手続きしたら、とりあえずは用事は済みますよね」


「だな。俺の剣の手入れも終わるだろう」


「なら、数日をめどにこの街から出発になりますか?」


「んー、団長の行方次第。この街に隠れている可能性もある」


「あー、そっか。やっぱり、まずは情報集めてからですね」


「んむ」



当面の予定がまだ漠然としているが、ルカ・ルーには不安は見られない。

うまく連携が取れて狩りを楽しめれば、成長する事に繋がる自信があった。



「戦闘の仕方は昼みたいな感じで、いいですか?」


「ん、問題ない」


「ギルさんが敵のターゲットになって、私が後ろから急所を狙う」


「そんな感じ。まあ、臨機応変」



昼の戦いで、ライノルースの体に矢が簡単にはじき返された事を思い出す。



「弓の攻撃力が低いので、硬い敵には歯が立たないかも」


「やりようはある。例えば毒矢とか」


「毒かー。お師匠さんは好きじゃないって言って、あまり使わなかったな」


「そうなのか」


「はい。毒矢で倒すのは、毒の勝利だ、弓矢での勝利じゃない・・・・・って感じですね」


「んー、そういう考えもあるのか」


「もっとも、矢じゃ倒せない相手に毒を使う事も無いわけじゃなかったので」


「ん」


「場合によって、使い分けしますね。絶対使いたくないわけじゃありません」


「判断は任せよう」


「はい」



ルカ・ルーは、二人で大物に立ち向かう姿をイメージ。

いろいろな戦闘場面を考えながら、どう動くのか想像してうなずいたりしている。


ギルバートはその様子を見ながら、ゆっくりと酒を飲んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ