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29.パーティ結成


二人でジャイアントグリズリーの魔石を、ジッと見つめてた時。



タタタタタッ



廊下から急ぎ足で、誰かが近づいてくる音がした。



バンッ



応接室の扉がいきなり開けられ、副ギルド長のローぺが入ってきた。



「ギルさん。風弓さんとパーティを組むって!?」


「ん、そのつもり」


「それは常設パーティってことでいいのかい?」


「だから、そう言ってる」


「それで、所属は!ここでいいのかっ!」



ローぺは掴み掛らんばかりの勢いで、詰め寄る。



「それはまだ決めていない」


「むむ」


「とゆうか、それを決めるのはルカだな」


「えっ!!」



急に話を振られて、驚くルカ・ルー。

今日は驚いてばかりの日のようだ。



「私はどこでもいいですよ。ギルさんにくっついていく予定ですから」


「このパーティのリーダーは、君」


「形ではそうだけど・・・・・実際に方針とか決めるのはギルさんでしょ?」


「いや、ルカに任せる。俺は基本的には、言われた事にちゃんと従う」


「えええー。私、まだ未熟で、分からない事だらけですよ」


「まあ、間違ったことをやらなければ、たいていはうまくいく」



聞いていたローぺは、落ち着かずにルカ・ルーに向かって体を乗り出す。



「そんじゃ、風弓さん。うちに所属のパーティって事でいいんですね?」


「と言われましても、それでいいのかどうか私にはさっぱり・・・・・」


「まあ、いいんじゃねえか。とりあえずだしな」



ギルバートが言うのを聞いて、ルカ・ルーはうなづく。

ローぺを見て、まじめな顔で応えた。



「よく分かってませんが、よろしくお願いします」


「よし。これはリシャさんが喜ぶぞ!」


「すみません、なんでそんなに喜ぶんでしょうか?」



興奮している理由が分からなかったので、彼女は素直にローぺに質問をする。

ローぺはうんうんとうなずきながら、説明を始める。



「まぁ、これは内輪の話なんですけどね。ウイングボーンの所属になってもらうと、うちの格が少し上がるんですよ」


「というと?」


「んと・・・・・王国内に冒険者ギルドがたくさんあるのは知ってるでしょう?」


「はい」


「冒険者は基本的に、どこかの支部に所属することになります」


「それはわかります。私は今は、ウイングボーンに所属してます」


「うん。そうなんですけど、風弓さんは元々ベアバレーの冒険者で今はウイングボーンにいるってことになる」


「それは確かにそうですね」


「最初の所属した支部ってずっとついて回るんですよ」


「あー、確かにそうですね。もし私がこの後キャッスルフォレストに行っても、ベアバレーの風弓って名乗りますね」


「そうそう、そういうこと。最初の登録した支部が、本当の所属って意味で、どこまでもついて回るんですよ」


「そうなんですね。けっこう気楽に考えてました」



感心したようにルカ・ルーは目をキラキラさせる。

ローぺはニコニコと、上機嫌で対応してくれた。



「つまり、君らのパーティ・・・・・なんでしたっけ?」


「えーと、逆風ウインドです」


「その逆風ウインドは基本的にどこに行っても、本当の所属はウイングボーンってことになるんです」


「別に、所属に、ホントもウソもねーだろ」



呆れたようにギルバートが、突っ込む。

ローぺはニコニコしたまま、応える。



「おっしゃる通り。これはあくまでギルド内での話。冒険者にとっては、その時に所属してる支部がどこかって事が重要ですから」


「そういうこと」


「実際、所属支部で依頼を受けますしねー」



ローぺはうなずく。

ギルバートは、ケッっという感じでソファでふんぞり返る。



「ギルさんが最初に王都のギルドで登録したのは、まぁ、しょうがなかったんだけど・・・・・悔しくてね」


「王都で働いてたなら、そうなるでしょうね」


「貴族の推薦とかも、王都の本部に届きましたからねぇ」


「貴族の推薦ですか・・・・・すごい」


「パーティを組むならぜひうちにと、前から話してましてね」


「そうだったんですね」


「ぶっちゃけちゃうと、ギルさんがパーティ組むかどうか、組んだらどこに登録するかは、王国内の冒険者ギルドではすごく注目されてるんですよ」


「ほえー」


「個人のレベルがトップクラスってのもありますし、今までの実績を加味すると、冒険者としての実力が王国一という評価をしてる人もいます」


「マジですか・・・・・」


「となると、その人が組んだパーティなら、すぐに頭角を現すだろうとね」



思ってた以上に、いろんな方面から注目されているギルバート。

ルカ・ルーはようやく、そのことに気付く。



「なんか・・・・・私、まずくないですか?」


「え?」


「よく事情も知らないまま、いきなりギルさんとパーティやりまーす、とか言っちゃって・・・・・怒られちゃいそう・・・・・」


「いや、全然そんなことはないですよ。むしろ、よくぞギルさんをその気にさせてくれました、と感謝したいくらいですよ」


「えええー、私は別に何もしてませんよ。楽しかったのでなんとなくこのまま続けたいと思っただけで・・・・・」


「それでいいんです。パーティの結成なんて本来そんなもんです。お金や名声を目当てにくっ付く打算的な人たちは、たいていうまくいきません」


「そうなんですか。それじゃ、このまま進めて、だいじょぶなんですね?」


「もちろんです」


「よかったぁ。気楽に決めちゃって、怒られるのかとドキドキしました」





◇ ◇ ◇ ◇





そう言った瞬間。



バッターン!



入り口のドアが乱暴に開かれた。



「ギール!!どうなってんのよっ!!」



真剣な眼差しで飛び込んできたのは、アンジェリク。

両手を腰に当て、ギルバートを睨んでいる。

上半身を彼の方に倒しながら話し出す。



「どういうことなの説明して!」


「説明といわれても、何の事だ」


ギルバートは当惑気味に答える。



「あんたがパーティ組むなんて・・・・・なんで今さらなのよ!しかもこの子となんでしょ!!」


アンジェリクがルカ・ルーを指さしながら、ギルバートに詰め寄る。

彼の顔が、一瞬できつくなる。


「俺がいつ誰とパーティを組もうがいいだろ。アンジーには関係ない」


「私が何回お願いしても、断ったじゃない!他の誰が言っても絶対ウンと言わなかったじゃないのよ!!」


「だから何?そんなのは俺の勝手だろ」



ギルバートは背筋をすっと伸ばし、顔つきも引き締まる。

彼の顔付きがドンドン険しくなり、アンジェリクの顔はむしろ表情を失っていく。



「誰と組むかは、俺が自分で決める。アンジーの許可が必要だとは思わない」


「なんでこの子なのよ。私がいるじゃない。私だって何でもできるよ!」


「悪いがアンジーとパーティを組む気はない。君のことは好きだが、それはまた別の話」


「別の話じゃないでしょ。いつも一緒にいることになるわけだし・・・・・」


「いいかアンジー。まずは落ち着け。周りに人がいるんだぞ」



アンジェリクの後ろから、マルティナが慌てて入ってくる。



「アンジェさん、入っちゃだめですよ。今、副ギルド長が大事な話してるところです」


「待ってられないから、入って来たんでしょうが!」


「と、とりあえず外に出ましょうよ。分かっていることは、私が説明しますから」



先刻、マルティナはアンジェリクに問い詰められて、つい情報を漏らしていた。

そのことに責任を感じて、焦っている様子。


ローぺがアンジェリクを見ながら、諭すように話し始めた。



「アンジェ。いいから落ち着きなさい。まず、親しい人だけに使う愛称を、こういうところで使うのはよくないですよ」


「あ・・・・・ゴメン、鉄壁さん・・・・・」


「いや、つられて俺も・・・・・すまん」



お互い興奮したことを、まずは詫びる。

落ち着いたことを確認して、ローぺが続ける。



「ティナも扉を閉めてきてください。二人ともそっちの丸テーブルに座って、大人しくしていてくださいね」


「でも、ロペさん・・・・・」


「いいから、アンジェ。これ以上規律を乱すようなら、罰則が必要になっちゃいますよ」


「・・・・・はい」


「いつも冷静な君らしくもないです。まずはこっちの話を終わらせてから、後でゆっくりギルさんと話し合ってください」


「・・・・・はい」



ローぺが副ギルド長らしく、アンジェを諭す。

彼女は納得できなかったが、罰則の可能性に思い至り、渋々テーブルの席に付く。

マルティナも戻ってきて、並んで座った。





◇ ◇ ◇ ◇





「どこまで話してましたっけ?」


「あ、私が怒られちゃうかもしれないって、言ったところでした・・・・・」



ルカ・ルーは意外なところから横槍が入ってきたので、心底驚いていた。

なんかアンジェリクに申し訳ない、という気持ちでいっぱいになる。



「私がでしゃばったせいで、いろんな方に迷惑がかかるようでしたら止めておきましょうか?」


「はあっ?」


「はっ?」



ローぺとギルバートの口から同じタイミングで、同じ言葉がこぼれた。



「風弓さん、そういう問題じゃないんですよ。結局、今まで誰とも組もうとしなかったギルさんが、あなたとなら組んでもいいと言ったんですから」


「そこよ。どうしても納得できないわ!」



大人しくなっていたアンジェリクが、また立ち上がろうとする。

マルティナが必死に抑えていた。



「アンジェ。黙っているように言いましたよね」


「うう・・・・・」



アンジェリクはくやしそうに、座り直す。

ローぺは再びルカ・ルーに向き直り、話し出す。




「つまりね、風弓さんがどうのこうのじゃないってことです。分かりますか?」


「うー。私は関係ないんでしょうか?」


「ああ、いや。関係ないことはないんだけどね。責任と言うか、原因というか、問題のウエイトは・・・・・ギルさんにあるんですよ」


「む、俺か?」


「そういうこと。ああ、別にギルさんが悪いって意味じゃないですよ。今までそんな素振りも見せなかったのに、急にパーティ組むと言い出したんで、みんなびっくりしているだけです」


ローペが懸命に話をまとめようと、それぞれに気を使って話を続ける。



「俺はやりたいようにやる。誰にも指図を受ける気は無い」


「もちろん、ギルさんの好きなようにしていいんですよ。パーティ組むのも自由だし。とりあえず、なんでそういう話になったのか、聞いてもいいですか?」


「特に深い意味は無い。少し組んでやってみたら、うまくいったし、楽しかった」


「ふむふむ。私は、ギルさんは他人と組むのが嫌なのかと思ってましたよ」


「そんなことはない。ただ合わないやつが多すぎる」


「なるほど、単に今まで合う人がいなくて、風弓さんと組んでみたら合うから続けようと」


「そんな感じ」



ギルバートはめんどくさそうに、ローペに会話を丸投げしている。



「うちとしては、何も問題ないので『逆風ウインド』パーティを登録しますね」


「ん、それはルカにまかせるよ」



ルカ・ルーを親しげに呼び捨てにしたのが、アンジェリクは気に食わない。



「鉄壁さん。何でその子となの?私じゃダメなの?」


「んー、悪いな。別に好きとか嫌いとかじゃない。合うか合わないかなんだ」


「私とは合わないって事?」


「合わない事もないとは思う。やってみなきゃ分からんな」


「でも、一緒に行ってくれないじゃない!」


「その気にならんからな」


「ちっとも分かんないわ!」


「いいかアンジェ。俺は君の事は好きだし、一緒に食事したりするのは楽しい」


「うん」


「でも仕事を一緒にする気にはならん。うまく説明できないが、そんなもんだ」


「・・・・・」



ギルバートはうまく説明できなくて、もどかしそう。

アンジェリクは納得がいかない。


ローペが話をまとめに掛かる。



「とにかくパーティの手続きをしちゃいましょう。風弓さんいいですかな?」


「はい。私はいいんですけど・・・・・」


「まぁ、あとのことはギルさんとアンジェで納得するまで話し合ってもらいましょう」



ローペはマルティナに向かって話す。



「パーティ登録の手続きをするので準備してきてください」


「はい。わかりました」



マルティナが部屋から出て行く。

アンジェリクは俯いたまま、指先をジッと見ていた。



「風弓さん、パーティの説明を簡単にします。分からない事があったらすぐに聞いても結構ですよ」


「はい」


「まずパーティってのは最低限2人から構成されるチームで、基本的にはギルドの依頼をクリアするのを目的とする集団です」


「ふむ」


「常設パーティとなるとランクが付いて、それが依頼や報酬に影響します」


「ランクがあるんですね」


「まぁ、ギルドで勝手に決めたルールでしてね、メンバーのレベルで決まるんですよ」


「へえ」


「具体的にはパーティメンバーの上位3人のレベルの合計で決まります」


「3人?」


「2人しかいないと、残念ながら2人分ですね」


「ふむふむ」


「風弓さんとギルさん2人のパーティだと、合計で44レベルだからDランクになります。45からCランクなので、もし、もう1人パーティに参加すれば、すぐにCランクになれます」


「はぁ、むずかしいですね」


「そんな事無いですよ。Dランクパーティで一人前と言われてるの感じですね。Cランクで熟練、Bランクだとこの街でも数えるほどです」


「なるほど。上を目指してがんばります!」


「ははは。ぜひがんばってください。もっとも」



ローペは言葉を切って、鋭い目付きでルカ・ルーを見つめる。



「大事なのは安全です。無理は絶対にしないでくださいね。人数が少ないパーティは特に、対応が後手になる事が多いので気を付けてください」


「はい。分かりました」


「それでは、『逆風ウインド』、リーダーはルカ・ルー、所属はウイングボーン、Dランク、で登録しますね」


「ギルさん、それでいい感じですか?」


「ん」


「では、お願いします!」


「了解しました」



ローペが書類にサラサラと必要事項を書き込む。

マルティナはそれを受け取り、部屋から出て行った。

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