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25.ジャイアントグリズリー


二人は通路に沿って、注意深く前進していく。

道まで出てくる魔物は、それほど多くはなかった。

ゆっくり進んでいくと、いつのまにか辺りに、異臭が漂い始めた。



「臭いな。腐った肉の匂いか」


「酷い匂いですね」



ルカ・ルーは顔をしかめながら応える。

進んでいる先の、山の方から匂ってきていた。



「どうやら近い」


「ジャイアントグリズリーがですか?」


「そう」


「これは彼らの匂い?」


「いや。冬に備えて、餌を洞窟に引き込んでいる」


「ふむ。殺した魔物を集めていて、それが腐ってるってことですか」


「ああ、そんな感じ」


「それなら巣穴は近そうですね」



ルカ・ルーは集中して、探知の範囲を拡げてみる。


今の場所は回りに魔物が多くいる。

先に進むと急に魔物の数が減っていくのが分かった。



「この先、魔物が減っていきます」


「その付近に巣穴がある」


「匂いと魔物の少なさを頼りに、巣を目指してみます」


「ああ、頼む」



注意深く少しずつ前進していく。

いやな匂いはさらに濃くなっていった。

しばらく進むと道が坂になっており、山に上がっていくようになっていた。



「この先は、山道のようです」


「この辺りの左右、どっちに魔物が少ないか分かるか?」


「右ですね。右の奥にほとんど魔物はいないようです」


「ん、そこだ。まず間違いない」



二人のいる道から右の方は、背の高い森の木々が少なくなっていた。

奥まで見通せたが、背の低い木々や草が生い茂り、歩きにくそう。


途中から緩やかに上り勾配となり、一部山肌が見えている。



「んじゃ、向こうに進んでみよう」


「はい。草木が少し邪魔ですね」


「普通の狩人は、ここまでは入ってこんな」


「ですかねぇ。魔物が急に現れたら対応しにくいです」


「まあ、気にせず進もう」


「了解です」





◇ ◇ ◇ ◇





先頭がギルバートに代わり、掻き分けて進んでいく。

やがて木がほとんどなくなり、草もそれほど深くない拓けた場所に出た。


右側は森。

左側は山裾の崖で、地肌がむき出しになっている。


慣れたのか、いやな匂いはそれほど気にならなくなっていた。

かわりに、異様な雰囲気が感じられるようになってくる。

空気が重くなり、音がほとんどしなくなった。



「どうだ。この辺だろう」


ギルバートが後ろを振り向いて、ルカ・ルーに声を掛ける。



「この辺りだと魔物はほとんどいなくなりました」



ルカ・ルーは崖に沿って精気を動かし、地形を把握する。

やや離れたところに、洞窟のような穴があることに気づいた。



「ありました。おそらく巣穴です」


「ん、それだ。ゆっくり近づこう」


「はい」


「近寄れば、穴の中まで探知できるか?」


「できると思います」


「んじゃ、行くぞ」



ギルバートは魔法鞄から、ヘルムを取り出して装着する。

彼が前になり、足音を立てずにゆっくり進む。


大きな木々もなく、じゃまな草もあまりない。

ジャイアントグリズリーが出入りするから、拓けたのだろう。


他の魔物はいないので、巣穴の探知に集中しながらルカ・ルーは進む。

程なく、視界に洞窟の入り口の穴が見えてきた。


意外と大きい。



「この辺でどうだ。中の様子は分かるか?」


「ちょっと待ってくださいね」



ルカ・ルーは精気を集め、穴の中に向かわせる。

そうすると中の様子が、具体的に把握できるようになった。



「これは・・・・・けっこう、うまく作られていますね」


「ほう」


「入り口からしばらくは軽い上り坂。おそらく雨風を避けるためでしょう。その先が急に深くえぐられております。そこに餌と思われる魔物や野獣の死体と骨があります。その先に広く平らな場所があり、大きな熊が寝そべっているようです」


「なるほど。そこまで分かるとは便利だな、精霊魔法」


「エルフはたいてい覚えてますからね」



やや得意なルカ・ルー。

洞窟の入り口をじーっと睨みながら、話を続ける。



「どうします?」


「そうだな、穴の中じゃ勝負しにくいから、外におびき出す」


「ふむ」


「ズールエイプでも捕まえてきて、中に放り込んでみるか」


「この近くにはいないですよ?」


「少し戻ればいるだろ」



ギルバートは森の方を見返りながら、様子を探る。



「外に出してからは?」


「さっきのライノルースの時の要領」


「ギルさんが1対1で受け止めて、私が後ろから援護ですね」


「ああ」


「弱点は?」


「矢なら目とか口。剣なら首でも心臓でも貫けば死ぬ。皮膚はそれほど硬くはない、矢も刺さる。でも10本以上刺さっても簡単には死なない」


「ふむ」



ルカ・ルーは矢を射掛けている自分を想像しながら、ギルバートの話を聞く。



「ヤツは守りより攻撃。爪の威力がハンパじゃない。噛み付かれたら、腕や足も簡単に持っていかれる」


「うわぁ。恐ろしい」


「まあ、俺は受け止められるけどね」



ギルバートは少し得意そうに笑いを浮かべる。



「おびき出せばいいんですよね?」


「ん」


「それなら私が矢で突き刺しますよ」


「矢が届くのか?」


「大丈夫ですよ。中の地形が分かりますから」


「そうか、矢を曲げられるんだった」


「はい」



ルカ・ルーは洞窟の中の魔物に、矢を当てる事をイメージしながら、洞窟を見る。



「それでは、入り口の正面から矢を打ち込みますので、獲物が出てきたらギルさん、ターゲットになってもらえますか」


「ん、分かった。俺は君の少し前にいよう」


「お願いします」





◇ ◇ ◇ ◇





彼らは打ち合わせを終えると、洞窟の入り口の真正面に、ゆっくりとにじり寄る。

近すぎると急に出てこられた時に、対応が遅れる可能性がある。


少し距離をとって身構えた。


二人とも持ってるバフを全て使い、最大級の戦闘態勢を整える。



「それでは、いきますね」


「いいぞ」



ルカ・ルーは洞窟の中の感知をしながら、弓を掲げて弦を引いた。

魔物のどこを狙うか考える。



(よしっ!)



意を決して矢を放つ。



「ひょぃっ!」


矢は洞窟の中に進入していった。

彼女は中の様子を把握しながら、矢を操作する。

矢はえぐれた餌置き場を越えて、進んでいく。



ズシンッ



寝ているジャイアントグリズリーの脇腹に、深々と突き刺さった。


 

ウォオオオオオオーーーンッ



洞窟内から、ものすごい咆哮が聞こえてくる。



「くるぞっ」


「はいっ!」



ギルバートが気合を入れるように叫ぶ。

ルカ・ルーは彼の後ろに隠れるように控え、矢をつがえて待つ。



ウオオオオオオオーーーン



咆哮しつつジャイアントグリズリーが、穴から飛び出してきた。

ギルバートを目掛けて、四足で一直線に頭から突っ込んでくる。


大きい。

しかも動きが素早い。

穴の奥で寝ていた時には感じなかった、大迫力。


ギルバートとぶつかる直前で、大熊の動きが一瞬止まる。

いきなり後ろ足で立ち上がった。


 

グオオオオッッ


 

ガッシーーンッッッ!



大きくのけぞって、空に向かって大きく咆哮。

両手を持ち上げて、まずは右手の爪をギルバートに向かって叩きつけた。


彼は盾でそれを受け止めて耐える。

さすがに片手では耐え切れず、両手で支えている。



ガッシーーーンッ



ジャイアントグリズリーは、続けざまに左手も叩きつける。

ギルバートは盾を巧みに動かして、同じくしっかり受け止めた。


あまりの迫力に、ルカ・ルーは攻撃するのを一瞬忘れる。

ギルバートと大熊との対決に、見入ってしまう。



(うひゃあああ。なんちゅーバケモノだー)


(ギルさんだいじょぶなのかな)



ルカ・ルーは見た事のない魔物の猛りに煽られ、思わず一歩、後ろに退く。



「風弓さん、狙って!こいつは俺が抑え込む!」



彼女はすぐにハッと我に返り、狙いをつけてつがえていた矢を放つ。


 

ヒュッ



矢は綺麗な線を描き、ジャイアントグリズリーの顔を目掛けて飛んでいく。

そのまま突き刺さるかに見えた瞬間、大熊は右腕を上げて矢を払った。


 

グアアア



ジャイアントグリズリーは顔をルカ・ルーに向けて、威嚇してきた。

ギルバートは大熊の気がそれた隙に、右手の片手剣を前に突き出す。


腹に浅く刺さったところで、大熊が腰をかがめて両手を地面に下げた。

そこから右手を伸ばし、剣を持ったギルバートの腕を払おうとする。

彼はすぐに剣を引き抜き、体を動かして少し距離を取った。



グルルル



ジャイアントグリズリーは再びギルバートを睨む。

ヘルムの中でニヤリと笑ったのが、ルカ・ルーにはなんとなく分かった。


彼も威圧感を発しながら、ジャイアントグリズリーを真正面から睨み返した。



(睨み合っても熊に負けていないな。どっちもすごい迫力)


 

ルカ・ルーは少し落ち着いて、自分の仕事に徹するよう心がける。


ジャイアントグリズリーは再び後足で、立ち上がった。

今度は両腕に体重を乗せて、倒れ掛かるようにギルバートを襲う。


彼は当たる寸前に後ろに跳び下がり、爪をかわした。


大熊は爪が地面を叩くと同時に、その勢いのまま前に出る。

ギルバートに体当たりをかますのが狙いか。


牙をむいて、顔から突っ込んでくる。

ギルバートは両手で盾を持ち、向かってきた頭にそれを押し当てて防いだ。


力と力のぶつかり合い。

体の大きさには差があっても、パワーはほぼ五分のようだ。


ルカ・ルーは素早く矢を連射する。

ジャイアントグリズリーの脇腹から首筋に、数本の矢を突き刺した。

しかし大熊はそれを苦にするそぶりを、ほとんど見せない。



(矢の威力が弱い・・・もう、どんな皮下脂肪してるんだろ)



ギルバートの盾が当たっているので、顔は狙えない。

なるべく首に近い部分に、ひたすら矢を突き刺した。


そのうちジャイアントグリズリーは盾から顔を離し、再びルカ・ルーを睨んだ。

体に矢が刺さるのを嫌ったのか。


そしてルカ・ルーが放った矢を、腕を上げて爪で叩き落とし始めた。


ギルバートは隙を見つけて、剣でジャイアントグリズリーの体や顔を突く。

しかし大熊は、今度はきちんと警戒して左手で払うので有効打とはならなかった。


ルカ・ルーの矢は右手の爪で守られ、ギルバートの剣も左手でうまく防がれる。

顔はギルバートとにらみ合いながら、しっかりルカ・ルーにも注意を向けていた。



(さすがはこの地で最強の魔物ね)


(パーティでもなかなか討伐できないのもうなずけるわ)



「あの白い靄で気をそらせないか?」



ギルバートが声を掛けてきた。

やや膠着状態となったので、何か打開策がないかと考えているようだ。



「一瞬、気をそらせばいいんですよね?」


「ん、一瞬でいい。今度は深く刺す」


「なんとかします」



ルカ・ルーは少し考えてから、どうするか決めた。

意を決すると少し後ろに下がり、ジャイアントグリズリーを見つめた。




そのあとすぐ。


ジャイアントグリズリーとギルバートが対峙している所の、左側の離れた場所。


鮮やかな黄色い塊が出現した。

パッと見はズールエイプのようだ。


視界の隅にそれを捕らえたジャイアントグリズリーは、一瞬、視線を右に向ける。


さらに反対側の近くに、もう少し大きな薄緑の塊と、尖った角が現れた。

一見ライノルースのように見える。


ジャイアントグリズリーは右に向けた視線を戻し、今度は顔ごと左に向き直った。



(チャンス!)



ルカ・ルーが好機と感じると同時に、ギルバートの右手が動いた。

剣が前に突き出され、胸と腹の間に深々と突き刺さる。


大熊はすぐにギルバートを向き直り、爪をぶつけて振り払おうとする。

しかし先ほどまでの力はない。


ギルバートは刺さった剣を、躊躇なく手放す。

盾で爪を受けながら、もう1本別の剣を魔法鞄から取り出した。


ルカ・ルーは動きのやや鈍くなった魔物の顔を目掛けて、矢を連射。

1射目、2射目は防がれた。


ギルバートが再び剣で攻撃を開始。

そちらに気を取られたのか、3射目が見事に大熊の右目に突き刺さった。



ウオオオオオオオン



ジャイアントグリズリーがまた大きく咆哮する。

しかし先ほどまでとは声の質が変わっていた。


ルカ・ルーは顔と首を目掛けて、ありったけの力を込めて矢を叩き込む。

ギルバートは2本目の剣を、心臓に深々と突き刺した。


それによりジャイアントグリズリーは、立ったまま動きを止めた。

やがて両手はダランと下ろし、目から力が抜けていく。


ギルバートが剣を思いっきり引き抜くと同時に、魔物は崩れ落ちて絶命した。

ルカ・ルーは弓を下ろして、一息ついた。


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