表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/46

23.アッシュベリーの森


ギルバートが粘糸と魔石を拾い終わり、ルカ・ルーの方に寄ってくる。

そのまま止まらずに彼女の横を素通りし、街道に戻っていく。

彼女はその後を付いていく。

街道に出るとギルバートはヘルムだけをはずして、魔法鞄に戻す。



「視界が狭いとやりにくいので、イザというときまでこのままで行く」


「はい」


「魔物の探知は、君の方がうまいのでまかせる」


「分かりました。もうそろそろアッシュベリーの森ですか?」


「いや、もう少し進むと分かれ道がある」



二人は並んで、街道を進む。

まだそれほど樹影は濃くないが、今までとは異なる雰囲気が漂いだしていた。

しばらく行くと、丁字路が見えてきた。



「あそこから西に進むと深い森になる。そこからがアッシュベリー」


「ふむふむ」


「ある程度までは道があるけど、山に近づくと草木が濃くなって視界が悪くなる」


「私が探知しながら進みますね」


「よろしく」



主要な街道には簡単な結界が張られている。

必要に応じて作られだけ小道には、結界はない。

狩りに向かう道には、獲物を遠ざけることを考えると、結界は逆効果なのだ。


ルカ・ルーは一人での狩りに慣れていたので、パーティでの狩りは不安だった。

しかし思っていた以上に、自然に事が進む。

役割分担もスムーズにできて、とてもやりやすく感じた。

 


「ジャイアントグリズリーはどの辺に居そうですか?」


「んー、奴らは森と山の境目を好む。山の裾野に穴を掘って住処にし、森で餌を取る」


「ふむふむ。それじゃぁ、あの山まで進みましょうか」


「だな」



目標も決まったので、今度はルカ・ルーが前に出て進む。

丁字路を右に折れ、ゆっくりと探知の範囲を広げながら進んでいく。

周りの木々が、徐々に大きく濃くなってきた。

ルカ・ルーの大好きなフィーレンの森と似ている。



「うわー、故郷の森と似ていて気持ちいい」


「ほう」


「街中に居るより、ずっと心が落ち着くなー」


「そうか」



戦いが近づいてきたからか、ギルバートは言葉が少なくない。

ルカ・ルーも緩みそうな気持ちを抑え、魔物の探知に集中する。


森の中を細々と続く道を山に向かって、少しずつ登っていく。

前方に何か動く物あり。

彼女は意識を集中し、精気を操作して探った。



「前方に魔物がいます。1匹ですが、かなり大きいです」


「了解」



ギルバートは簡単に応える。

二人とも歩くペースは変えずに、そのまま進んだ。


やがて通路上に魔物が見えてくる。

四足の大きな体、頭には鋭い角が生えていた。

まだこちらには気付いていない。



「今度はライノルースか」


「硬そうですね。この森の魔物は初めて見る種類ばかりです」


「そうか。それほど特殊じゃない。どこにでもいる」


「そうなんですね。勉強になります」


「大事なのは経験」



ギルバートは魔物から目を離さずに応じる。



ライノルースはサイのような姿をして、厚い皮膚に覆われている。

矢は簡単には通りそうも無い。


何かの餌を食べている様子。

見た感じ、矢の攻撃が効きそうなのは目と口くらいか。


警戒心はそれほど強くないのか、悠然と餌を咀嚼している。



「かなり強い魔物ですか?」


「強い、というか硬い。一人だとかなりめんどくさい。攻撃は角で突進してくる。当てられれば痛いが、動きは速くないから君なら食らわんだろ」


「ふむふむ」


「弱点は、首の付け根。頭が兜みたいになっていて、弱点を隠している。首を振らせれば、頭と胴の間に隙間ができる」


「なるほど。そこなら剣や矢も普通に刺さると?」


「その通り」



そう言いながら、ギルバートがにやりと笑う。

急に饒舌になってきているのを、ルカ・ルーは不思議に思う。



「あれ使ってみるか?あの白い靄」


「目晦ましですか?効くかな」


「いや、まずは普通にやってみよう。俺が頭を引っぱたい後、横にずれて注意を引く。ヤツは動きが鈍いから首だけ俺の方に向けてくる。首の弱点がむき出しになる」


「そこで私の出番ですねっ!」


「ダメなら力押しでもいいし、白い靄でもいいし」


「あの・・・・・白い靄じゃなくて、目晦ましって言うんですが」


「まあ、何でもいい。とにかくやってみる」


「うーん。いいですけどねぇ」



(私の切り札なのにぃ。もうっ!)



ギルバートの中では『目晦まし』が白い靄って名前で、定着しつつあるようだ。

それがルカ・ルーには、なんとなく悔しい。



「いくぞっ」


「はい」



ギルバートがぶつぶつと不満そうなルカ・ルーを見て、気合を入れた。

それと同時にいつものように、すたすたとライノルースに向かって歩き出す。



グルルルルルッ



ライノルースがこちらに気付き、うなり声を上げて威嚇し始める。

ギルバートの足は止まらない。

ライノルースは大きな体を完全にこちらに向け、おもむろに動き出した。


ルカ・ルーはギルバートの後ろを、少し距離を空けて付いていく。

いつでも矢を射る準備は怠りない。


ライノルースの突進にも全く怯むそぶりも見せずに、ギルバートは進む。

ぶつかる寸前に、右手の片手剣を力強く魔物の顔の右側に叩きつけた。


魔物は剣を受けて怯み、頭が少し左にぶれる。

しかし勢いのまま、ギルバートに体当たりをかまそうとした。


彼は今度は左手の盾を力一杯突き出して、斜めになった魔物の頭部にぶち当てる。

重さ対パワーの勝負となり、ライノルースの体が見事に止まった。



グオオオオオルルルッ



盾を押し当てたまま、力をこめるギルバート。

不自然な姿勢を強いられたライノールが、再び雄たけびを上げた。


ルカ・ルーの出番はまだ無い。

ライノルースの突進を止める、彼のパワーを目の当たりにして驚く。

同時に、相手の力を逃がしてタイミングよく押さえ込む技の見事さに関心した。



(これはエルフには無理だなぁ)


(でも確かに一人だと、ここから首の隙を狙うのは大変そうだ)


(あ、今のうちに試しに胴体に矢を当ててみよっと)



ルカ・ルーは弓を構えて、思いっきりライノルースの胴体を狙う。



シュッ


パキン



予想通り矢が刺さらずに、跳ね返ってきた。



(硬っ!)



刺さるのは無理だとは思っていたが、あまりにも軽々とはじき返される。

ルカ・ルーは少しだけ寂しく感じた。



(威力が弱いのが矢の欠点なのよね)


(分かってはいるけど、硬い相手とぶつかると悔しいなー)



ギルバートに動きあり。



「うぉぉぉ。ふんっ!」 



彼が掛け声と共に、右手も盾に添え力で押し始める。

両腕で力任せに獲物を左側に押しやった。


ライノルースの頭部が左に少し傾くが、重さでその場に踏みとどまる。

ギルバートが自分の体を移動させ、獲物の右側に回りこんだ。


ライノルースは体を踏ん張りながら、頭だけをギルバートに向けて威嚇する。

頭の動きに体がすぐについていかず、獲物の首の弱点が一瞬あらわになった。



(きたっ!)



待ってたチャンスが目の前に現れると同時に、ルカ・ルーの体は自然と反応する。

握り締めた矢束から1本を前に向け、確実に狙いをつけて放つ。


まっすぐに飛んだ矢は、見事にライノルースの首筋に突き刺さる。

獲物が少しだけ苦しそうに身じろぎをした。


ライノルースは首を守るために、射手であるルカ・ルーの方を振り向こうとする。

しかし、ギルバートが左手の盾をずらして、うまく押さえ込んだ。

強烈に魔物の顔面に盾を押し当てて、身動きをさせない。



ルカ・ルーがチャンスを逃すはずもない。

矢継ぎ早に6射を叩き込んだあたりで魔物の力が少し弱まった。


その手応えを感じ、ギルバートが盾で獲物を突き放す。

動きが鈍く、無防備になった急所の首に右手の片手剣を深々と突き刺す。

ライノルースは崩れ落ちてうずくまり、絶命した。



「いいな。早く倒せて楽だ」


「一人だとどうやるんですか?」


「延々とパワー勝負。正面からだと弱点の首が見えないので苦労する」


「役立ってよかったです」


「狩りはお手の物って感じだな」



ギルバートが獲物からは手を離さずに、ルカ・ルーに向かって話し続ける。



「こいつを消えないように触っていてくれ」


「はい」



指示通りにルカ・ルーは、ライノルースの死体の足に手を置く。



「こいつの角が高く売れる。ヘルムに付けるんだ」


「そういえばヘルムのてっぺんや両側に角をつけてる人結構いますね」


「あんまり意味はない。威嚇みたいなもん」


「邪魔そうに見えちゃいます」


「俺もそう思うんで使わん」



話しながらギルバートは手際よく、獲物の頭を割って、角の部分を切り取る。

それをそのまま、魔法鞄に入れる。



「この硬い皮も人気素材。でも今は剥ぎ取るのは無理。硬皮がドロップすれば売り物にできたんだが」


「皮はドロップしなければ手に入らないんですか?」


「ここではね。それなりの用意をしてくれば剥ぎ取る事もできるんだろうけど」


「ふむふむ」



ギルバートの狩り知識の豊富さに、ルカ・ルーは感心する。

故郷のベアバレーとは獲物の種類が違うので、見ること聞くことが新鮮。


ギルバートの口調は普段とそれほど変わらない。

しかし彼が町に居るときよりも、よくしゃべるのに気付く。



「ギルさん、街にいる時より楽しそうですね」


「あたりまえだろ。君、楽しくないの?」


「いえいえ。メチャメチャ楽しいですよ。てゆうか、パーティってこんなに面白いとは思いもしませんでした」


「いつもってわけじゃない」


「そうなんですか?」


「人による。要領悪いのがいるとイライラしてつまらん」


「へええ」


「相性が大事。合うと楽しめるが、合わないと最悪」


「ふむ」



今のところ相性は悪くなさそうだと感じて、ルカ・ルーはホッとした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ