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22.初めてのパーティ狩り


二人は廊下に出て、階段に向かって進んでいく。

すれ違いにマルティナが、再び副ギルド長室に入っていった。


階段を下りると、先ほどまでよりは冒険者の人数は減っていた。

やはり二人は注目を集める。

しかしギルバートが怖い顔で睨むので、誰も話し掛けてこない。


壁際に寄って待っていると、2階から降りてきたマルティナが彼らを手招きする。

閉鎖の札が出ていた受付に回り、そこで対応を始めた。



「副ギルド長から、アッシュベリーの森のジャイアントグリズリー討伐の依頼を、お二人にお願いするよう承りました」



マルティナが上目遣いで尋ねる。



「受けていただけますか?」


「はい!やらせていただきます」



ルカ・ルーが元気に答える。

ギルバートはそっぽを向いている。



「それではパーティ依頼ですので、パーティで受けていただく事になります」


「はい」


「パーティ登録をしていただきますが、よろしいでしょうか?」


「ギルさん、いいですか?」


「ん、しょうがねぇ」


「では、パーティ名とパーティリーダーを教えてください」


「ええと。ギルさん、どうします?」


「俺は何でもいい。全部任せる」



任せると言われても、どうすればいいか分からない。



「あの、どうすればいいんでしょうか?」


「どうとは?」


「パーティ名って勝手に決めてもいいのですか?」


「もちろん、好きに決めてください。いつも使っているのでも構わないし、即席の1回だけのパーティでも構いません」


「ふむふむ」



自分の好きなのでいい言われても、考えたこともなかったので戸惑う。



(どうしよ。ギルバートとルカ・ルーだと長すぎるし、パーティ名じゃなさそう)


(縮めてギルとルカ?うーん、ギルルカ?ルカギル? ヘンだ・・・・・)


(ギルカ・ルー、ルカバート、ルル・・・・・全然ダメすぎる・・・・・)


(鉄壁風弓、風弓鉄壁、鉄弓、風鉄・・・・・センスないにもほどがある・・・・・)



考え込んだルカ・ルーに向かい、マルティナは心配して声を掛ける。


「そんなにまじめに考えなくていいのよ。何でもいいので好きな言葉にでもしておけばいいから」



(なんでも好きな物でいいんだ。なら風だなー、私は)



「それじゃぁ・・・・・逆風ウインドって名前のパーティでお願いします」


「逆風ウインドですね。リーダーは?」



ルカ・ルーはギルバートを見るのだが、そっぽ向いたまま興味はなさそう。



「では、私でお願いします」


「風弓さんは今日から冒険者レベル10になるので、リーダーが可能ですね」


「あ、そうですね。狩人のパーティもレベル10からでした」


「はい。レベル10未満ではできない規則になっております」


「レベル10なら責任を持つ立場についても良いということなんですね」


「その通りでございます」



(私はまだ責任を持つ立場には早いような気もするけどね・・・・・)



「では、ギルドカードの提示をお願いします」


「はい、これです」



と言って、ルカ・ルーはマルティナにギルドカードを渡す。



「確認しました。はい、お返ししますね。それではこれで依頼の受付は完了です。」



受付が終わり、ルカ・ルーは少しホッとする。



「はい。討伐したらどうすればいいでしょうか?」


「倒したら魔物から証拠となる部分を手に入れて、持ち帰ってくださいね」


「ジャイアントグリズリーだと、証拠となる部分はどこですか?」


「爪か牙か毛皮ですね」


「了解しました。魔物討伐は初めてなんで少し緊張します」


「風弓さんはまだ討伐依頼は経験ありませんか?」


「実はそうなんです・・・・・」



冒険者ギルドの依頼として、簡単な採取は前の村で行っている。

魔物の討伐はまだやっていなかった。



「狩人を長くやっていたのならだいじょうぶですよ。実際、狩りとそんなに変わらないと思います」


「ふむふむ」


「ただ依頼対象となるような魔物は強いですから、複数で協力して当たらないとなかなか倒せません」


「ですよね」


「まぁ、そのへんは鉄壁さんがベテランなので、任せれば安心ですよ」


「分かりました」



ギルバートの方を見ると、めんどくさそうなしかめ面。

でも、それほどイヤがっているという印象は受けない。



「それでは、討伐をお願いしますね」


「がんばります!ありがとうございました」

 


討伐パーティを組むのも初めて、リーダーをやるのも初めて。

戸惑いながらも、どこかうれしいルカ・ルー。



(パーティメンバーに迷惑を掛けなきゃいいんだけど)



「私、討伐パーティって初めてなんです。ご迷惑掛けるかもしれません」


「まあ、俺もあんまりやらんから、気にすんな」


「それじゃ、行ってみましょう」


「ん、行くか」



ルカ・ルーは張り切って先頭に立ち、力強く歩き出す。

ギルバートはそれを見て、はぁ、とため息をついて追いかける。


冒険者ギルドを出てから、ルカ・ルーが急に立ち止まり、ギルバートを振り返る。



「す、すみません」


「ん?」


「その森がどこにあるのか分かりません!」


「・・・・・」



ギルバートはじろっと、ルカ・ルーを睨む。

そして彼女の無邪気な表情を見て、再びため息をつく。



「んじゃ、付いてきて」


「はい。お願いします」





◇ ◇ ◇ ◇





ギルバートが先頭となり、メイン通りを南に向かって進む。

ルカ・ルーはその後ろを、ヒョコヒョコ付いていく。



(ふふっ、前を歩くより、ギルさんの後ろを歩く方が落ち着くかも)



大きい背中を見ながら、そう思うルカ・ルー。

二人は縦に並んだまま、歩を進めていく。


そのまま南門まで至る。

この門はあまり人の出入りが多くない。


数人しか待っている人は居なかったので、すぐに二人は門番と挨拶できた。



「おはようございます!」


「やあ、おはよう」


「これから依頼で、アッシュベリーの森まで行ってきます」


「そうかあ、がんばれ」



二人ともギルドカードを提示。

門番は、ギルドカードをしっかり確認してから、戻してよこした。



「通っていいよ」



門番の許可が得られ、南門から街の外に出る。



「向こうに山が見えるだろう」


ギルバートが右手を上げて、南西のほうを指す。

それほど遠くなさそうな所に、小さな山が見える。



「はい、かわいい山がありますね」


「あのちょっと手前に広がってる森が、アッシュベリーの森」


「ふむふむ」


「けっこう魔物が多いので、中に入ったら気をつけた方がいい」


「わかりました」



ギルバートは街を出たとたん、機嫌が良くなった様子。



(この人も街中が嫌いなのかなぁ、人ごみが苦手って言ってたしね)



ルカ・ルーは自分と同じだと思い、なんとなく嬉しく感じる。

ギルバートの左側まで進んで、横に並んで歩く。



「先に依頼を終わらせちゃいますか?」


「そうだな。その方がいいか」


「さっさとやっちゃいましょう!」


「対戦中に、でかい熊が来たらまずいもんな」


「それは嫌ですねー」



木々の中を歩くと、気持ちが落ち着く。

前日にこの街に着たばかりなのに、すでに街中より木々の中の方が気分がいい。

自然の中の方が、ずっと自分らしくいられることに気がついた。





◇ ◇ ◇ ◇





街道をそのまま南に進んでいく。

風は弱く追い風。

日は照っていたが、雲は多く曇りがち。

雨の心配はなさそう。

ルカ・ルーはのんびり歩いているのが、とても気持ち良かった。



(一人で歩いている時よりも、楽しいのはなんで?)


(これが仲間というものなのかしら?)



なんとなく、仲間を作りなさい、という師匠の教えを思い出しながら歩く。

ギルバートもどこかゆったりした雰囲気。

街中でイライラしていた時と異なり、楽しそうに見える。




ガサッ



(うっ!何か居るっ)



ルカ・ルーの探知が、右手の木々の奥に、動く物を捕らえる。

彼女はギルバートの方に、クルっと振り返る。

右手で、何かが居た場所を示しながら話しかけた。



「あそこの奥に何か居ます」


「む。魔物か?」


「たぶんそうだと思います」


「そろそろ準備した方がいいな。それから行ってみよう」


「はい」



ルカ・ルーは身体強化の風魔法を使う。

自分とギルバートに掛けた。


左手で弓を握り、体の前に横向きに持つ。

ギルバートはグローブとヘルムを取り出し、身に付ける。

右手に片手剣、左手に盾を持ち、どちらも青白く光り出した。


一瞬ルカ・ルーの方を見たギルバートは、すぐに前に向き直る。

そして相変わらずスタスタと歩き始める。

木々の間をぬって、軽快に歩いていく。



(いつものスタイルだ)



ルカ・ルーは思わずに微笑む。

しかし、すぐに気を引き締め、ギルバートの後ろに付いていく。



「このまま真っ直ぐ進んでください。3匹います」


「ん」



ルカ・ルーは少し先の場所で動いてる魔物が、3匹だと感知した。

種類までは分からない。

背中にしたがって進んでいくと、やがてギルバートが立ち止る。



「アーメッドスパイダーだな。何か餌を取り合っている」


「私が最初に打ち込みます」


「んじゃ、それでいこう」



アーメッドスパイダーは人より少し大きいくらいの蜘蛛型の魔物。

細い足を8本伸ばして、頭部を真ん中に浮かせている。

鋭い牙を持っていて、粘着性のある糸を吐いてくる。

3匹が寄り添って、餌のような物に噛み付きながら、お互いを牽制しあっていた。

 

ルカ・ルーは射程ギリギリから、続けざまに矢を放つ。

狙いは一番手前にいたアーメッドスパイダーの頭部。


1射目が頭部に刺さると同時に、魔物は一斉にこちらに向き直る。

震えるような威嚇の声を上げ始めた。



ギャオオオ


 

すぐに3匹とも、こちらに向かって移動を開始。

かなりの速さで迫ってくる。



シュ、シュ、シュ、シュ、シュッ!



5矢を連射したところで、1匹目のアーメッドスパイダーが倒れる。

2匹目と3匹目は、一斉にルカ・ルーに向かってくる。

ギルバートはすたすたと魔物に近寄り、2匹を同時に横になぎ払った。



ギャオオオオ



再び大声を上げて、2匹ともギルバートを睨み、噛み付こうとする。

それをギルバートが盾と剣を巧みに使って防いだ。

そしてタイミングよく、魔物の足に斬りつけて相手を弱らせる。


時々、アーメッドスパイダーは口から糸を吐く。

しかし彼はうまく避けて、剣や盾や体に触れさせない。


ルカ・ルーはすぐに、ギルバートの援護に回る。

彼に当たらないように、右から左から矢を曲げながら、魔物の頭部を狙い打つ。


右側の1匹はすぐにギルバートの剣を頭部にまともに受けて崩れ落ちた。

最後の1匹は、ルカ・ルーの矢を顔の真正面に受けて絶命。


ギルバートは振り返り、ルカ・ルーを見て、にっこり笑う。



「なかなかいい」


「ですね。うまくいきました」


「援護がスムーズでやりやすい」


「敵のターゲットになってもらえるので、安心して矢が射れます」


「んじゃ、こんな感じでやるか」


「お願いします」



即席のコンビネーションが考えていた以上に、うまくハマっている。

ルカ・ルーは興奮気味。



(これは楽しいかも)


(優秀な前衛さんが居る安定感って、これ程とは思わなかったわ)



アーメッドスパイダーの死体が消えた後、魔石の他にも白い糸。



「ん、粘糸だ。こりゃあいい」


「アーメッドスパイダーが落とす物ですか?」


「そう。粘りの強い糸で使い道も多い。人気があるので売れる」



ギルバートはそう言いながら、足元から小ぶりの木の枝を拾い上げる。

それを二つに折り曲げた。


さらに粘糸の端を拾って、折り曲げた枝にくるくると巻きつける。

全部巻き上げたところで、ルカ・ルーを見て話し掛けた。



「これ使うか?」


「いえ、私は特に使う予定はありません」


「なら俺が預かっておいて、後で売ろう」


「了解です」


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