表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/46

19.賑やかな夜


とにかくこの場から離れよう、とルカ・ルーが思い始めた矢先。

向いに座っていたリオこと、リオネルが話しかけてきた。



「あんたもエルフさんだね。同じエルフ同士でよろしく。おれは冒険者やってるリオネル。リオって呼んでくれよ」


「私はルカ・ルーと申します。冒険者を始めたばかりなんです。宜しくお願いします」



『風弓』と名乗るのがなんとなくまずいような気がしたので、名前だけを告げる。



「さっきトンビさんも言っていたけど、あんた冒険者にしては丁寧すぎるね」


「すみません。よく言われるんですが、なんとなくこれが楽なもんで・・・・・」


「ああ、無理には崩す必要は無いよ。僕らにはちょっと新鮮なだけだからね」



ニコッと笑う顔は、同じエルフと言う事もあり、優しそうな印象を受けた。



「たぶんもう少し慣れたら、普通にくだけて話せると思います」


「そうか、早く慣れるといいね。しばらくこの街に居るのかい?」


「当面はこの街を拠点にしようかと思ってます。いずれは、いろんな街を見て歩くつもりですけど」


「いいね。俺もそろそろこの町を出ようかなぁ」


「リオさんはここに長いんですか?」


「俺はもう3年くらい居るかな。ここ居心地いいんでなかなか、外に行く気にはならなかったなぁ」


「いい街みたいですね」



ようやく普通の会話になってくれた、とルカ・ルーはホッとながら話を続ける。



「冒険者っぽく見えないって言ったら、失礼になるかな?」


「あ、それもよく言われるので、気にしないでください」


「ルカ・ルーさんは、かなり変わってるね。まあ、冒険者ってみんな変わってるけどね」


「私って変わってます?自分では普通だと思ってるんですが・・・」


「いや、悪い意味じゃないよ。まあぶっちゃけ、貴族のお嬢様って感じ。魔物とか盗賊とか殺すのは無理じゃないの?って感じかなぁ」



そう見えるのは自分でも自覚しているので、ルカ・ルーは苦笑せざるを得ない。



「人を殺すのって、確かにきついですねぇ」


「まぁ、あれは慣れだよ。冒険者やってる限り、避けて通れないしね」


「そうなんですよねー」


「あれだよ。相手を大猿とかトロールとかゴブリンだと思えば、気にならないよ」


「なるほど。そう考えると楽かもですね」



この日は、どうしても人と戦った事が頭から離れずに話題にしてしまう。



「後は考え方だね。相手を人間と考えるより、悪い生物と戦っていると判断するのがいいよ」


「ふむふむ。それはいいですね」



彼女は言われたことを、よく考えてみる。



「僕はあまり強くないけど、生き延びる工夫は多くしてるよ。弱者は頭を使わないと生きていけないのさ」


「リオさん、いい人ですね」


「ありがとう。そう言ってくれる人は少ないけどね」



リオネルは寂しそうに笑う。



「そうなんですか?」


「冒険者なんてさ。結局、強いか弱いかなんだよね」


「あー。確かにそんな感じありますね」


「だから僕はルカ・ルーさんて、変わってて面白そうだなぁと思ってさ」


「私、ぜんぜん、面白くありませんよ」


「僕は、君に興味を持ったよ、もっとよく知り合いたいな」


「私はただのよわよわエルフなので、興味持つような事ありませんよ」


「そんなことないよ。同じエルフだし、僕は好きだなぁ。もっといろいろ話を聞きたいよ」


リオネルの目付きが、少しいやらしい色を帯びてくる。

怪しい雲行きになってきたと感じ、ルカ・ルーはやっぱり席を立とう再び考えた。





◇ ◇ ◇ ◇





その時。



スッと入り口から、一人の男が姿を見せた。


ギルバートだった。



彼が入って来たと同時に、店内の賑やかさの質が少し変わる。

客の一部がお互い目を見合わせ、突っつき合い、入り口のギルバートに注目。



「おい。あれ、鉄壁さんじゃないか?」


「え、あの人がそうなの?」


「間違いないよ。ギルドで見掛けたし」


「ほんとか?俺はもっと大男だと聞いたぞ」



声を潜めて囁いている。

ざわめきは先ほどまでより、密やかになり細かく拡がっていく。


ルカ・ルーはギルバートが入って来るのを見た瞬間、思わず目を瞑った。



(あちゃぁ、来ちゃった! ヤバいなぁ)



さっさと店を出ればよかったと後悔したが、後の祭り。

そんなことをしても意味が無いのに、彼の目から隠れるように首をすくめる。


ギルバートは店内を、ぐるりと見回す。


店中の雰囲気が大きく変わり、ほぼ全員が彼を注目している。

しかし彼には全く気にするそぶりは見せない。



「あ、いた。風弓さん!」


彼がルカ・ルーに気付いて大きな声で呼び掛け、手を上げて合図を送る。

店中の視線が一斉に動き、ルカ・ルーに注がれる。



(ひぃぃぃ。マジですかっ!目立つ事やめてよね。お願いよ、もう・・・・・)



彼女は心の中で盛大に毒づきながら、周りを見回す。

皆が自分に注目しているのが分かり、引きつった笑いを浮かべる。



「こ、こんばんは。ギルさん・・・・・」



とルカ・ルーは仕方なく、小声で応える。

彼女が話すと同時に、客が一斉に沸き立つ。



「おおお。やっぱりそうみたい。鉄壁さんだってよ」


「すげえな。ヒーローの登場かよ」


「良く見えねえな。こっち向かないかな」


「それであのエルフは何なんだ?」


「鉄壁さんの彼女じゃないの?」



まるで晒し者。

想像を超えた状況にルカ・ルーは、もうすでに軽いパニック状態。



(ひぇぇ、すみません、すみません、すみません)



何を謝ってるのか、自分でも分からない。

それでも誰にともなく、心の中でそう呟くしかなかった。


ギルバートは変わらずマイペース。

空気が読めないのか、わざと読もうとしないのか。



「そこ空いているのか?」


「ええ、空いていますが・・・・・」


「座っちゃダメなところ?」


「いえ、ちょっと待ってください」



ギルバートが話すと、皆が彼を見てヒソヒソ。

ルカ・ルーが話すと、皆が彼女を見てヒソヒソ。

異様な雰囲気だった。





◇ ◇ ◇ ◇





ビオレッタが奥から、訝しそうに歩いてくる。

ルカ・ルーはすがりつく様な目で、彼女を見つめた。



「いらっしゃいませ。まぁ。鉄壁さんじゃないですかっ!!」


「ん、ビオか、久しぶり。じゃまする」


「ようこそ!いつ以来かしらぁ。だいぶ前よね、うちに泊まったの」


「だな」


「みんなすごいねっ。今日のヒーロー鉄壁堂々さんですよ!」



ビオレッタの明るい声が店内に響き渡ると、客が一斉に大声を上げる。



「うぉぉぉぉ。鉄壁さん、ありがとうう」


「鉄壁さん、ばんざーい」


「乾杯ーーー!!」


「鉄壁さん、すてきねぇ。きゃぁぁぁ」



いきなり店内が爆発したので、さすがのギルバートも目を白黒。

周りを見回して、呆れながら、ビオレッタを見返した。



「おいおい、止めてくれ。うるさいのは苦手。あそこの風弓さんと待ち合わせ」


「えっ。風弓さんの相手って、鉄壁さんだったんですかっ!」



ビオレッタはびっくりして、ルカ・ルールの方を向く。

ルカ・ルーが申し訳なさそうに、ペコリと頭を下げる。

ビオレッタは少し考えてから、店内に向かって話し出す。



「みなさん、すみません。鉄壁さんに迷惑が掛かるので、あんまり邪魔しないようお願いします」


「お楽しみは邪魔しねーよ。助けてもらったしな。ただちょっとだけでも話し聞きたいんだがな」


「トンビの言うとおりだ。詳しい話を聞きたくて、うずうずするぜ」


クラウスが声を上げると、彼の仲間も続く。

ビオレッタがそれを聞いて、ギルバートを見る。



「特にたいしたことはしていない。いつものように依頼をこなしただけ」


とギルバートは言う。



「騎士団の討伐がたいしたことないって・・・・・」


「一人でやったのですかい?」



クラウスが絶句した隙に、別のところから声が掛かる。



「いや、俺一人じゃない」


「やっぱりそうなんだ。噂じゃ凄腕のエルフと一緒だったとか」


「まあ、そうだな。その通り」


ギルバートがルカ・ルーを見ながら、事もなげに言う。



(ちょ、ちょっと。何を言い始めるのですか、あなた様は!!)



「んじゃ二人で、飛鷹騎士団を潰しちまったのかぁ、すごいな」


「まあ、成り行きでね」


「あそこには強いやつゴロゴロいたと思うんだけどね・・・」


「いたいた。火炎地獄とか恐ろしいのが居たジャン」


と別の男が話しに割り込む。



『火炎地獄』のグレゴワールは残忍で有名。

気に食わないと、相手を燃やして苦しめる性格で嫌われていた。



「ヤツは死んだよ」


とギルバートはあっさりと答える。



「マジですか!そいつは良かったなぁ」


「けっこう手強かったよなあ、風弓さん」



(やめてぇぇぇ!! 何で何回もこっちに爆弾を放ってくるのよっ!)



ルカ・ルーは絶対にこっちに来てほしくないと思っていたネタ。

ギルバートから普通に投げこまれて、動揺する。

引きつった笑顔が、さらにこわばるのを抑えることができなかった。



「え、ええ、そうですネ」


もう棒読み状態。


その時再び店内がのボルテージが上がる。

ビオレッタが目を見開いて、ルカ・ルーに話しかける。



「風弓さん、現場に居たんですか!?」


「ええ、まぁ・・・・・」


「居たも何も、火炎地獄を殺したのが、風弓さん」


ギルバートは無頓着に、爆弾発言を続ける。



(・・・・や、やってくれるよ、この人はっ!!)



「えええええっっっ!!!」


店内のほぼ全員の目が限界まで広がる。



「鉄壁さんと一緒に戦ってた弓エルフってルカ・ルーさんなのっ?」


向かいのリオネルが大声を上げる。



「ええ、まあ・・・・・」


すでに思考は麻痺し、同じ言葉しか出てこないルカ・ルー。

この場をどう取り繕ろえばいいのか、全く分からない。

もう開き直るしかないと覚悟する。



「ギルさん、お昼はありがとうございました。ビオさん、二人で食事取れる場所は無いですか?」


「あ、そうね、そんじゃ鉄壁さんと風弓さん、向こうの仕切りある方に場所作るから待っててね」



そう言ってビオレッタはいったん引っ込んでいった。





◇ ◇ ◇ ◇





ギルバートはルカ・ルーの方に、歩き始めてる。

ルカ・ルーはため息をつきながら周りを見回す。

リオネルやグスタフ、シャルロットが遠慮したように、自分を見ていた。



「グースさん、黙っていてごめんなさいね。なんかすごい話になっていたので言い出せませんでした」


「いやいや、わしらの方こそすまなんだ。街の恩人なのに勝手に噂しちまって」


「ぜんぜんお気になさらずに」


「いやびっくりしたわい。お嬢ちゃんが鉄壁・・・さんの仲間だったとはな」



グスタフは少しホッとしたように返す。

ギルバートが近づいてきたのを意識して、言い直すのがなんともおかしい。



「あんた、見掛けとやること全然違うんだねぇ。こんなに驚いたこと初めてだよ」


シャルロットが少し笑いながら話してくる。



「驚かせてすみません。というか私も驚いたんですよ」


「そうなのかい。しかし、あんたが火炎地獄をねぇ」



シャルロットは困惑気味に、頭を左右に振る。



「風弓さん、周りになんて言ったんだ?」


近づいてきたギルバートが呆れたように話してくる。



「いえ、さっき起きてきたばかりで。特に昼のことは誰にも話してないんですよ。あまり話したいとも思わないし・・・」


「あはは。俺もそうだ。こんなの人に話してもしょうがない」


「ですね」


「でも昼に話しがあるって言ってたのは、あれに関することじゃないのか?」


「まぁ、それはそうなんですけど」



二人が親しげに話し始めるのを、多くの人が見つめている。

ルカ・ルーが火炎地獄を射殺した、というのはどうにも理解できない。

しかし二人が仲間同士なのだというのは、見てすぐに理解できた。


あれ誰だ?何者なんだ?という囁きがそこらじゅうから聞こえてくる。


寄ってくるギルバートを迎えるためにルカ・ルーも立ち上がる。

座っている時は見えなかった客が、立ち上がったルカ・ルーを見て、一様に驚く。



「あの娘がほんとに冒険者なのか?お前知ってたか?」


「あの格好で人が殺せるのかい?あの凶悪なやつら倒したってほんとかなぁ」


「でもかわいいな。俺も殺されてみたいもんだ。あはは」


ヒソヒソ声で話しているのが、嫌でも耳のいいルカ・ルーには聞こえてくる。

もう針の筵に座っている気分。

しかし、ギルバートを見るとあいかわらず飄々としていた。



「風弓さん、なんか昼とは見違える格好」


「そ、そうですか。宿に居るので普段着でいいかなと」


「もちろん、かまわない。ただ驚いただけ」


「驚かせて、すみませんです」



ルカ・ルーは着替えてきたことをやや後悔した。



(まずったなあ。変に目立っちゃった感じ)


(やっぱり狩り装備が、一番、無難なのよね)



ギルバートはいい意味で驚いていた。

しかし彼女はそれには気が付かず、自分の格好がおかしいのではないかと考える。



(田舎くさくて、野暮ったいのかなぁ。もっと着る服を研究しないと・・・・・)



考え込んだルカ・ルーと、ぼーっと立っているギルバート。

向き合ったまま動かなくなって、店の中で二人だけが浮いてるように見える。

他の客たちは、徐々にいつもの騒がしさを取り戻してきつつあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ