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15.街道での戦い


ギルバートは剣を魔法鞄に戻し、手ぶらになる。

そのまま通りを早足で歩き出す。



「ひょぃ」


ルカ・ルーも彼の後を追い、口癖と共に移動を開始する。



「風弓さん、殺せたね」


「・・・・・」


「あんまり、気にしないように」


ギルバートは昼時の話を思い出しながら、気を使って話す。



「はい。でも・・・・・」


「死にたくないでしょ?」


「そうなんですよね・・・・・ですけど・・・・・」



成り行きとはいえ、結局自分の手で人を殺してしまったルカ・ルー。

実は、予想とは全く異なった感情が湧いてきて、戸惑っていた。

人を殺すなんてどんなに嫌なものかと考え、戦う前は気分が悪くなりそうだった。

吐き気を催すかもしれないと心配していた。


 

ところがどうだろう。



今は、気分爽快(,,,,)


そう、気持ち良かったのだ。



死ぬべき人を死なせたから、などという理屈ではない。

純粋に、戦って勝てて、うれしかったのだ。



溜息が出るような、ギルバートの見事な戦いを見た興奮もある。

自分の気持ちが高揚していくのを、抑えることができなかった。



(人を殺しちゃったのに、勝てたから気持ちいいって・・・・・)


(私ってそんな人間だったんだ)



自分の心が分からなくなり、考え込んでしまう。

このまま戦いにのめりこんでいきそうな自分を見つけて、恐ろしく感じる。



(とにかく今は、やらなきゃいけないことをやるのが大切)


(飛鷹騎士団は絶対にこのまま放っておけない。放っておいていいわけない!)



はっきりしている事実だけに目を向け、自分に言い聞かせるルカ・ルー。

いつものように、心の中で自分を戒める。

しかし、普段とは少し異なっていることに彼女は気付いていない。


いつもは弱気になる自分を、少しでも前向きにしようと声を掛けている。

無遠慮に喜びだす気持ちを抑えるため(,,,,,,,,,)に、話しかけることはほどんどなかった。





◇ ◇ ◇ ◇





いくらも走らないうちに、ルカ・ルーの前にリリー・エフが現れる。


「やつら来るよ。馬で四人よ」



ギルバートは足を止め、魔法鞄からヘルムを出して装着する。

両手剣も取り出して、右手でだらんと下げて持つ。


ルカ・ルーはギルバートの後ろに、隠れるようにして立つ。

弓を取り出して左手で掴む。

その弓を体の前にぶら下げて、いつでも反応できるようにして敵を待った。


リリー・エフはサッっと離れていき、どこかに隠れてしまった。




ドッドッドッドッ



 

4頭の馬が2頭ずつ並んで走ってくる。

近づいてきたところで、先頭の二人が手綱を引いて馬を止める。

後ろの二人も合わせて止まった。



「お前らっ!逃げて来やがったなっ!」


前に居た2人のうちの片方、オークの男が大声を上げる。



「まさか。逃げてねえよ。おめえらを追い詰めてんだよっ」



ギルバートが全員を見渡しながら、胸を張って答えた。

そして彼の剣が、青白く光りだす。

体にも薄青の光がまとわりついたように、ルカ・ルーには見えた。



「何い!駐屯所のやつらをどうした!結界は!」


前に居るもう一人の獣人の男が、ややあせりながら問いかける。



「そんなの俺がここにいるのでわかるだろう。先に天に昇って、お前らを待ってるぜ」



ギルバートが世間話でもするように、淡々と話す。

男たちは身じろぎをして、彼を睨む。

全員が馬から降りて、馬を放つ。

馬達は、ゆっくり離れていった。



(緊張してくるはずなのに、ワクワクしている私って何なの?)



ルカ・ルーは自分の心を持て余しかける。

しかし相手の後ろに騎士団長ジルベスターの顔が見えたので、気が引き締まった。

スッと、戦いに集中していく。



彼女は瞬時に、4人の様子を見極める。


(先頭の男、重装備のオーク。でかい。ヘルムは顔が剥き出し。槍持ち。鈍重)


(その隣、重装備の獣人。狼か。俊敏そう。ヘルムはフル。武器は両手剣)


(後ろのローブ。エルフの魔法士。高級そうな杖と盾。 火力高そう)


(団長。重装備。冷静そう。ヘルムなし。盾と片手剣。見てると吐き気がする)



ギルバートがスタスタと歩いて、相手に近寄ていく。


ルカ・ルーはそれが彼の基本的な戦闘スタイルなんだと理解した。



ギルバートはいつも無防備に、相手に近づいていく。

しかも、慌てずに歩いて。

自分から襲い掛かるのでもなければ、相手の出方をじっと見るのでもない。

身を固めて守りに徹するのでもない。


自然体のまま、相手のそばに寄っていくのだ。



(あれやられると、相手は嫌かも)


(実際、対応に困るなー)



勢いよく攻められれば、体が反応して自然に守りと反撃に移れる。

動かず守っている相手だと、どう攻めるか考える時間が得られる。

彼のように出られると、攻めるのか守るのか、決断を強いられることになる。



オークの男は、攻めに出ることを選んだようだ。

両手で槍をしごいて、歩いてくるギルバートに逆に近づいていく。


同時に狼人も動き出す。

オークの援護をするため、ギルバートの左側に向かって音もなく移動した。


後ろの魔法士にも動きあり。

ギルバートを睨む目に、力が篭りだした。


ジルベスターはその場を動かずに、攻撃を入れる隙を狙っている様子。



「死ねぇぇ!!」



オークが気合と共に、槍を突き出す。

ギルバートはこれを、あっさりかわす。


そこに手拳大の火弾が、数発飛んで来る。

ギルバートは剣を両手で握り締めて振り上げ、1発目の火弾を綺麗にはじく。

そして続く何発かを体を捻って避けた。


さらに振り上げた剣をすぐに振り下ろして、横から来た狼人の剣を受け止める。


ギルバートは鮮やかな身のこなしで、三人の連携攻撃をかわしきった。





◇ ◇ ◇ ◇





ルカ・ルーはまとめて10本近くの矢を握り、後ろの魔法士の胸を狙って矢を放つ。

狙いを少しずつずらして矢を飛ばすが、全て盾で防がれた。


魔法士が、邪魔くさいとばかりに、ルカ・ルーに向かって火弾を撃つ。

大きく右横に飛んで逃げながら、今度は前方に居るオークに向かって矢を連射。


オークは飛矢を察知し、体を捻りながら頭付近の矢を槍で防ぐ。

首より下は当たるに任せていた。

頑丈なオークも体と装備のおかげで、矢の影響はほとんど見られなかった。


 

その様子を見た魔法士が、もうだいじょうぶだろうとギルバートの方に向き直る。

ギルバートに魔法攻撃をしようと、ルカ・ルーから目を離した。



その瞬間を待っていた、ルカ・ルー。

オークに向かって放たれた矢を風魔法で操り、魔法士に向かわせた。



ザンッ



魔法士の左肩に矢が、勢いよく突き刺さる。

意識がギルバートに向いていたので、矢の軌道の変化に気付かなかったようだ。

彼はうめいて、右手で肩を抑えた。


そこに向けて、ルカ・ルーはさらに連射する。

しかし隣に居たジルベスターが、体を寄せて魔法士をかばう。

近づいた矢を、彼は全て剣で叩き落とした。


オークも魔法士を気にしながら、ルカ・ルーを睨む。

彼女は休まずに、魔法士に向けて矢を連射。

それは次々と、ジルベスターに防がれてしまう。



シュッシュッシュッシュッシュッ



ルカ・ルーは今度はジルベスターに向かって、矢を連射する。

当然のように、矢は全部弾かれてしまった。

矢筋も見切られているようだ。


連射速度を上げて、たまに魔法士に向けても織り交ぜながら射出する。

しかしことごとく防がれてしまう。



魔法士は傷ついて、集中が途切れている。

ジルベスターが魔法士を援護し、オークがルカ・ルーに気を取られている状況。


狼人がギルバートの圧力を一人で受けて、押され始める。

腕力も、速さも、技のさえも、ギルバートの方が一枚も二枚も上だった。


狼人がギリギリなんとか、ギルバートの斬撃をかわしている。

仲間の窮地に気付いたオークが、狼人を助けようとギルバートに向き直る。



再びルカ・ルーにチャンスが訪れた。



ジルベスターの顔の前に『目眩まし』を仕掛けた。



「うおっ!」


目の前に白い靄が掛かり、ジルベスターは慌てる。

ルカ・ルーは余裕を与えないように、すかさず彼に向かって矢を連射。


さすがにジルベールは勘だけで、矢のほとんどを叩き落とす。

しかし無理に動いた影響で、体のバランスが少し崩れた。



その隙に、ルカ・ルーは矢を風魔法で操る。

ジルベスターを目掛けて放った矢の一つを、オークに向かわせた。



ザシュッ



ギルバートの斬撃を受け止めていたオークの後ろ首に、矢が綺麗に突き刺さる。

オークは槍を手から落とし、うつぶせに倒れた。



「こいつ、矢を曲げて打ってくるぞっ!」


肩を抑えていた魔法士が声を上げる。

矢が刺さったまま、ルカ・ルーを睨みつける。


背筋に悪寒を感じたルカ・ルーは、さっと後ろに飛び跳ねて距離を取る。

直前まで彼女がいた所に、大きな炎が巻き起こった。


それを見て彼女は連続して後ろにジャンプをして、さらに距離をあける。



魔法士はそれでもルカ・ルーを目で追いかけ、攻撃を仕掛ける。

彼女の周り数メートル四方に、親指大の火弾がまとめて降ってきた。


ルカ・ルーは移動しながら弓を仕舞い、短剣に持ち替えた。

降ってきた火弾をできるだけ風魔法で吹き飛ばす。

漏れて襲ってくる火弾を、短剣で確実に弾いた。



ジルベスターはオークが倒れたため、替わりに狼人を援護する。

しかし、ギルバートの迫力に防戦一方となる。

二人掛かりで攻撃しても、歯が立たない。



「おい、鉄壁だ。やつをやらんと手に負えなくなるぞ。小娘はほっとけ!」



ジルベスターは切り札の魔法士に、ギルバートを攻撃するよう指示。


しかし、魔法士の耳には全く入らない。

傷を負わされ、自分の魔法を簡単にかわされて頭に血が上った魔法士。

むきになってルカ・ルーを攻撃し続けた。



オークが倒れ、魔法士はルカ・ルーに気を取られたまま。

ギルバートは敵からの重圧が一気に減るのを自覚。

相手が狼人とジルベスターだけになったため、余裕で圧倒しだす。


斬撃を叩き込んでいるうちに、狼剣士の対応が怪しくなってくる。

怠惰な生活を送ってきたツケなのか、体力が持たない様子。


すぐにギルバートの一撃が、きれいに狼人の肩から胸に入った。


倒れた狼人をそのまま放置して、ギルバートはジルベスターと対峙する。

相手の力量はすでに掴んでいた。


ジルベスターは力任せに攻める剣士。

細かい技術は気にせずに、パワーで圧倒しようとしてくる。


ギルバートにとっては、最も扱いやすいタイプ。

彼は力負けすることはまずないので、技量の差がもろに出るのだ。



ジルベスターは押し切れずに動きが取れなくなり、徐々に後退しだす。

ギルバートの斬撃が受け流された直後、ジルベスターの剣から炎が放出された。

右に飛んで、ギルバートはその炎を避けた。


ジルベスターはその隙に乗じて後ろに下がり、距離を取った。


ギルバートはジルベスターを睨む。

ジルベスターは不敵に笑うものの、次の攻撃は仕掛けられない。

離れた場所で身構えたまま、動かなくなった。



ギルバートはジルベスターが攻めてこないのを見て、ルカ・ルーの援護に回る。

ムキになって攻撃している魔法士にすばやく近寄り、横から斬りつけた。


魔法士はギリギリのところを盾で防ぐ。

しかし次々に繰り出される両手剣がの勢いが凄まじく、長く堪えられそうにない。



魔法士は後ろを振り返って、ジルベスターを見る。

一瞬、目が合ったが、ジルベスターは動かない。


その時、飛んできた矢が魔法士の胸に、深々と突き刺さった。


ジルベスターは魔法士の目から力が抜けていくのを見た瞬間、顔がこわばる。

すぐにクルッと後ろ向きになり、離れて行く方向に走り出した。



「逃げるぞ、捕まえろ」



ギルバートが叫びながら追い始めるが、なにせ重装備である。


ジルベスターも重装備なのだが、逃げ足の速さが並外れていた。

ルカ・ルーは弓で狙ったが、後ろに目があるかのように軽々と避けられた。


ジルベスターが離れていったので、ルカ・ルーは矢を射るのを止める。

街中なので、流れ矢で他人を巻き込むのを恐れたからだ。

一瞬、追いかけようかと考えたが、無茶するのは危険と判断し思いとどまった。


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