表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/46

13.閉じ込められた二人


結界魔法は闇魔法の守備系統魔法で、ダークエルフが得意とする物。

ルカ・ルーは初めて見たが、話には聞いていたのですぐ状況は理解できた。



「閉じ込められたようですね」


ルカ・ルーが、諦めて動かなくなったギルバートに話しかける。



「の、ようだな」


「何が目的なんでしょうか?」


「俺たちを殺すためだろう」


「ひええ」


「まあ、慌ててもしょうがない。座って対策でも練るか」



ギルバートは剣を魔法鞄に戻し、来客用のソファーに腰を下ろす。

ルカ・ルーは立ったまま目を瞑って、辺りの探索をしようと努力する。



「結界があるから、周りの様子は分からんだろ」


「うー、これ相当強力な結界のようですね。外の様子がまるで見えません。天井と床には無いのかと思ったら、少し外側が覆われていました」


「ちょっと油断したな。弱いのばかりだったんで、なんとかなると思っちまった。強い術者が隠れていたか」


「ギルバートさんの力でも破れそうにないですか?」


「無理。俺は魔法より、防御とパワーが得意」



ルカ・ルーも脱出は諦めたように、ギルバートの向かいに座った。

ため息が一つこぼれ出る。



「ふぅ。どういう経過で、彼らと稽古をする事になったんですか?」


「んー。ここに来てから、団長と話してな。要求を全部飲んでくれたので、手打ちになった。そしたら、ぜひ部下に稽古を付けてくれと言われて」


「話し合いで解決したんですか?」


「相手が下手に出てたのは・・・・・」



ギルバートは渋い顔を、ルカ・ルーに向ける。



「部下を何人もけしかけて、弱ければそのまま倒しちまう。強ければ油断させて、閉じ込める算段だったんだろ、最初から」


「うーん、悪党ですね・・・・・」



ルカ・ルーはジルベスターの陰湿な視線を思い返し、嫌悪感を抑えられない。





◇ ◇ ◇ ◇





「一応、君の仇の話も聞いておいた」


「ふむ」


「団長も副長も、片目の虎人の剣士は知らないそうだ」


「そうですか・・・・・」


「どうやら無駄足で、窮地に落ちちゃったな」



ギルバートはまだ余裕ありげに話していた。



「ギルドの賞金首は団長と副長ともう一人いた、エルフの魔法士っぽいやつ」


「手ごわそうですね」


「まあ、いずれ相手がここに来るだろう。それまで待つしかない」


「来ますかね」


「俺のところに大金があるのを知ってるから、来るんじゃないか」



ギルバートは懐をポンと叩きながらニヤッっとする。



「お金を持ってきたんですか??」


「ん。交渉に使えと預けられてね」


「ふむふむ」


「さっき少し匂わせたから、懐を探りに来るはず」


「でも・・・・・」


「ん?」


「もしかしたら、鉄壁さんを閉じ込めておいて、依頼してきた貴族にねじ込みに向かうんじゃ?」


「む、そうか、そうするか、あいつらなら」



ギルバートは、顔をしかめながら思案する。



「んー、そうされるとまずいな・・・・・」


「でも、とりあえずここで待つしかないですねー」


「だなあ」



ギルバートもルカ・ルーも、今できる事が何も思い浮かばない。

そのままソファーに座って、様子を見るしかなかった。



「こんな強力な結界って、簡単にできるんですか?」


ルカ・ルーが思わず聞いてしまう。



「いや、こんな強力なのはあまり見たことが無い」


「そんじゃぁ、物凄い術者がいるのかな」


「んー、おそらく、この部屋に細工があるんだと思う」


「部屋に?」


「明らかに、この部屋まで誘導してきていたから」


「確かに案内の人も怪しそうでしたよね」


「王宮に強力な結界を張った部屋があった。凶悪犯を一時的に閉じ込めるため」



ギルバートが自嘲するように、かすかに笑みを浮かべながら話した。



「それに匹敵するくらいなのかなー」


ルカ・ルーは不安げに応える。



「まあ、こんな強力な結界がどこにでも張れるようなら、悪さなんか、し放題」


「あー、そうですね。ここにトラップを張ってたんですね」


「だろうな、油断しすぎた」



ギルバートは反省の言葉を口にしたが、それほど後悔しているようには見えない。

起こったことはしょうないと。

この後どうするかだと、気持ちを切り替えている様子が伺えた。



(まずは気持ちを落ち着かせて、次に備えなくちゃ)



師の教えを思い出しながら、ルカ・ルーは呼吸を整える事にした。





◇ ◇ ◇ ◇





ここまでの一部始終を、リリー・エフはこの家の屋根の上にへばりついて見ていた。

ギルバートが騎士団長と話した時に金の話が出たので、それを狙う事にしたのだ。

まとめて手に入れちまおうと考え、機を伺っていた。


まさかギルバートが閉じ込められるとは、考えていなかった。

この状況になって、彼女も困ってしまった。



(あらら。お宝ごと結界の中かぁ)



ダークエルフであるリリー・エフには、結界魔法は身近な魔法。

結界を破る事も可能だったが、目立たないように屋根の上でじっと待機していた。

結界を張った魔法士が手馴れた感じだったので、動くのは危険と判断したようだ。


黙ったまま半刻ほど過ぎた頃、屋敷内に動きあり。

数人が出かけていく様子。

屋根からそっと覗くと、騎士団長が部下を連れて、出発しようとしていた。



(あれ。鉄壁をほうっておいて、どこに行くんだろ?)



ともあれ屋敷内が手薄になるのは、リリー・エフには歓迎すべき事。


騎士団長を追いかけるのか。

このままま、ギルバートとルカ・ルーをの様子を見るのか。


どっちがいいのか少し考えて、動かず邸に残ることに決めた。

大金がギルバートの懐に残っていたからだ。


問題は、結界を張った魔術士。

出発するメンバーにはダークエルフは見当たらなかった。



(結界維持のために残るのかな)



リリー・エフはさらに半刻、身を伏せる。

出て行った人間が遠ざかり、再び邸の中は静かになる。

人が減って隙ができたので、平気そうだと判断した彼女は、動き出すことにした。



(あのエルフを通して、交渉してみるかぁ)



リリー・エフは屋根の上をそーっと這い、2人が居る応接間の真上に移動。

周りの様子を探っても、すぐそばには人の気配がなかった。


家の中にも新たな動きは感じられない。

廊下を挟んだ向かいの部屋で、2人の騎士団員が酒を飲んでいるようだ。

結界を張ったダークエルフはそのどちらかだろう。



(これならバレずにやれそうね)



リリー・エフは屋根から庭に、音もなく下りる。

そして2人が居る部屋の窓に近寄った。


騎士団員がいる部屋とはちょうど反対側。

彼女は小型のナイフを取り出し、窓の木戸の中央を少しこじ開ける。

そしてゆっくり音を立てずに扉を左右に開いた。


窓から覗き込むと、茶色の結界が見えた。


リリー・エフは結界破りの呪文を、頭の中で唱える。

すぐに目の前の結界に、小さな傷が付いた。





◇ ◇ ◇ ◇





ルカ・ルーは部屋の中で、目を瞑って瞑想していた。

異様な雰囲気を感じて、窓の方を向く。

茶色の結界の壁に、小さな傷が付いているのが見えた。



「どうした?」


とギルバートが話しかける。



「結界に傷が付きました」


「何っ!」



ギルバートが立ち上がり、窓に近づく。

ルカ・ルーもその後ろに続いた。


結界の外から、リリー・エフがぼそぼそと、小さな声で話しかけた。


「風弓さん、はめられちまったみたいだね」


「誰だ?」


ギルバートも声を落として問い返す。



「えへへ。正義の味方だよ」


とリリー・エフがおどける。



ルカ・ルーはすぐに気が付く。



「黒百合さんですね。さっきの行商隊の方です」


彼女はギルバートに向き直り説明した。



ギルバートが外に向かって問いかける。


「おい、この結果破れるか?」


「懐が寂しいとできないんですよ、お宝があればすぐにでも」


「お前、俺の懐の金、狙ってるのか?」


「ま、頂ける物ならぜひともね」


「・・・・・くそっ、足元見やがって」



ギルバートは金を渡すしかない状況に陥っているのが、なんとも腹立たしかった。

彼はしばし思案するが、他に手が無いことを理解せざるを得なかった。


渋い顔をしながら話を続ける。



「おい、半分、出してやらあ」


「半分ですかぁ。ほんとは全部、と言いたいところなんですがねぇ」


「お前、死にたいってのか?」


「鉄壁さん、すごんだって解決しないよ」



交渉は明らかにリリー・エフが有利。

そこにルカ・ルーが割り込んで話しかける。



「すみません、黒百合さん。半分で何とかしてもらえませんか?」


「む、風弓さんに言われると・・・・・困ったな」



ルカ・ルーの声を聞いたリリー・エフは、なんとなく落ち着かなくなる。

自分がとんでもなく悪いことをしている、と思わせられる声だった。

さっさと金を貰って助けねば、という気にさせられる。



「わかった鉄壁さん。半分で手を打とう」


「よし、それじゃあ、結界をやぶりな」


「いやいや、先に金を渡しておくれよ」


「渡してお前が逃げたらどうする」


「大丈夫。あたしは裏街道で生きてるけど、嘘をつくのが大嫌いなんでね」


「盗人が聞いて呆れるな」


「いやいや、本当だから。時間がなくなるよ。団長達が出て行って、一刻くらいになるかな」



邸内のどこからも、まだ音は聞こえてこない。

ギルバートはふうっとため息をついてから、キッと結界の傷を睨む。



「わかった。金を渡そう。ただし、お前の顔を見せろ」


「今、結界の亀裂を拡げるから、ちょっとお待ちを」



リリー・エフはナイフを持って、再び結界破りを唱えながら傷を拡げる。

頭の大きさくらいの穴が開く。

彼女はそこから中を覗きこむと、ギルバートとまともに目が合った。



「鉄壁さん、金を渡してくださいな」


「ほらよ。顔をもっとよく見せろ。騙しやがったら、必ず捕まえて八つ裂きにしてくれる」


「怖いなぁ」


「私にも顔を見せてください」



ルカ・ルーがギルバートを押しのけ、リリー・エフの顔をまともに見つめた。



明るい緑色の瞳。

なぜかキラキラと、すごく眩しくリリー・エフには感じられた。

体の奥の方まで、見透かされるような圧迫感を受ける。


リリー・エフの背中を、ジワリと冷たい汗が流れた。



(なんだこの目は。鉄壁より怖いなぁ・・・・・)



ギルバートが10枚の白金貨を、結界の外から伸ばされたリリー・エフの手に渡す。

その後、彼女は結界の裂け目を大きく開いた。



「あたしは、邸内の様子を見てくるよ。いい物頂いたんで、お手伝い」


そいうと同時にリリー・エフはパッと消えていなくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ