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俺はどう見てもリア充だ  作者: 告井 凪
3/6

第三話「ふたりで遊ぶ」


「待って、待って幸重君! ちゃんとついて行くから、というか引っ張られると歩きにくいよ」

「むっ……すまんすまん。なんかこう、使命感に燃えてしまって。つい」


 清里の腕を引っ張り公園から出たところで、俺はパッと放す。

 すると清里は、俺の隣りに並んで歩き出した。


「幸重君って、意外と強引なんだね……」

「そうか? それより、幸重って呼びにくければ仁太郎でもいいぞ。クラスのほとんどのヤツはそう呼んでいる」

「別の意味で呼びにくいんだけど……。わかったよ、仁太郎君」


 清里は仕方がないな、という感じで小さな笑みを浮かべた。


「それで? 遊びに行くって、どこに?」

「清里はどこか行きたいところはあるか?」

「え? わ、私が行きたいところ? そんな、急に言われても……遊ぶところなんて」

「別にクラスメイトがよく行きそうな場所、じゃなくてもいいんだぞ? わからないだろ、そういうの」

「うっ……そ、そんなことは、ないよ? あ、でも本屋に行きたいかも……」

「わかった。じゃあまずは本屋だ」

「いいの? 遊ぶ場所じゃないと思うけど」

「本を見たいんだろ? 楽しければどこでもいいんだ」

「…………そういうものなのかな」


 首を傾げる清里を連れて、駅にある大きめの本屋へとやって来た。


「なにか欲しい本があるのか?」

「ううん、今は特に……。推理小説の棚が見たいだけだから」

「お、いいな。俺も一時期ハマっていたんだ。ほらこれだ。『水底に煌めく』って知ってるか?」

「うん、読んだよ。……でもこれ、オチがすごく微妙だったと思うんだけど」

「だが、だからこそ色々想像ができてな。俺は好きだ」

「深読みできるってこと……? 私はそういう風には思えなかったよ」

「当然だろうな。ネットでの評判も悪い」

「仁太郎君ってやっぱり変わってるね。……私はこれかな。『霧下家殺人事件』が好き。ちょっと古いんだけどね」

「おお、俺が初めて読んだ推理小説だ。それを読んで推理小説にハマったんだよな」

「そうなの? ……うん、わかるかも。すごく印象に残るんだよね」

「読み終わったあと、しばらく頭の中に残っていたなぁ」

「クライマックスが衝撃的だよね。……私もなかなか頭から離れなかったよ」

「……久しぶりに読み直してみるか」

「私も読みたくなってきちゃった」


 しばらくそんな感じでお互いの読んだ本を教え合い、時間を過ごしたのだった。




「あ~楽しかったっ。本屋でこんなに楽しめるなんてね」

「そうだろう? 遊べる場所だけが楽しいとは限らないんだ」

「……たぶん、それだけが楽しかった理由じゃないと思うよ」

「どういうことだ?」

「それは……う、ううん。なんでもない。この後はどうするの?」

「まだ時間はあるな。他に行きたいところはあるか?」

「うーん……。次は、仁太郎君に決めて欲しいかな?」

「俺か? ……定番だが、ゲーセン行くか? 今度は本当に遊ぶ場所だぞ」

「ゲームセンター……! こ、恐くないよね?」

「いつの時代の人間だよ。……いや、そうか。行くの初めてか?」

「うん……。なんとなく、ひとりだと入りにくいよ」

「そうでもないんだがな。ま、今はふたりだ。行ってみよう」

「う、うん……!」


 というわけで、今度はゲーセンへと移動する。


「はぁ~……ここが、ゲームセンター……。お、音がすごいね?」

「結構大声で話さないと会話もできないな」

「あ、これUFOキャッチャーだよね」

「……そうだな」

「小さい頃やったことあるよ」

「なんだ、来たことあるんじゃないか」

「昔すぎて覚えてなかったし、それにゲームセンターじゃなかったと思う」

「ああ、デパートとかにもあったりするか」

「ね、仁太郎君。これ取れる?」

「無理だ」

「……即答だね」

「苦手なんだ、UFOキャッチャー」

「なるほどね……。じゃあ得意なのは?」

「得意とまではいかないが、あれは恵たちとよくやってたぞ」

「東島君と? えっと、あれはどんなゲームなの?」

「ゾンビを銃で撃つゲームなんだが、やってみるか?」


 おどろおどろしい、不気味でスプラッタな感じの筐体の前に立つ。

 が、清里は動じた様子はなく、筐体に貼られたゲームの説明文を読んでいる。

 こういうのに怯えるタイプでは無いようだ。


「ゲーム代くらいは出すぞ」

「え、いいの……?」

「半ば無理矢理連れ出したからな」

「少しは自覚があるんだね……。それじゃ、遠慮無く。ありがとう」


 そんなやり取りのあと、二人用でゲームを始める。

 ゲーセンによく置いてあるガンシューティング。出てくるゾンビを次々と撃っていくバイオレンスなゲームだ。


「うわあ、結構リアルだね。さすがにちょっと気持ち悪い」

「……と言いながら的確にヘッドショットしていくのな」

「大きいの出てきた! 弱点は頭でいいの?」

「そうだな。だがその前に」

「腕を攻撃すると武器を落とすんだね。じゃあそれから頭を狙った方がいいかな?」

「あ、ああ……」


 飲み込みが早いとかいうレベルじゃなかった。

 清里優理子、恐ろしくゲームが上手い。

 恵や壮一とじゃ進めなかったところまで、クリアできてしまった。


「楽しかった~!」

「なぁ清里、今のゲーム初めてだよな?」

「うん。当然だよ。ゲームセンター自体初めてだから」

「家になにかゲーム機があったりするか?」

「ううん? 持ってないよ。あ、お父さんのがあるけど、私は触ったこと無い」

「……そうか」

「それにしても、最後のボスはずるいよね。初めてじゃ避けられないよ」

「いわゆる初見殺しだな。いやでも、それまでにも似たようなのはあったんだが」


 ラスト以外、初見殺しに全部対応できてしまった清里こそ、バケモノか。

 俺は眠れる獅子を起こしてしまったのかもしれない。


「今度また挑戦してみたいな」

「……ま、楽しそうだからいいか。よし、また今度な」


 清里が今浮かべている笑顔は、クラスでは見たことのない、本当に楽しそうな笑顔だった。


「さて、もう少しなにか……ん?」


 他のゲームを、と思ったところで、うちの制服を着た女子二人を発見した。


「あ、あれって、うちのクラスの……!」


 清里も気付いたようだ。そして何故か慌てた様子できょろきょろしている。

 俺はそんな彼女に構わず、二人に向かって声をかけた。


「おーい、今澤(いまさわ)有原(ありはら)!」

「え、ちょっと仁太郎君?!」


 清里がひしっと袖を掴み、背中に隠れる。


「あれ、仁太郎くんだ~……」

「本当だ。東島(ひがしじま)君と古平(こひら)君は一緒じゃないんだね」


 二人がこっちに歩いてくる。

 ほんわか雰囲気の今澤陽子(ようこ)。眼鏡の文学少女、有原美和(みわ)

 この二人はいつでも一緒にいる印象だ。

 逆に言えば、二人以上でいることが無い。


「今日は清里に……ってなんで隠れてるんだ?」

「もう……。えっと、こ、こんにちは、今澤さん、有原さん」

「え~、清里さんと一緒だったの?」

「珍しい組み合わせだねー。じんた君」


 さすがに少し驚いたようだが、すぐににこっと笑顔になる。

 その反応に、清里の方が驚いているようだった。


「実は今、清里に色々遊びを教えていてな」

「そうなんだ~。仁太郎くんらしいね」

「ちょっとビックリしたけど、じんた君だもんね。納得納得」

「え、えっと……? 仁太郎君、ふたりと仲良いの?」

「まぁな。少し前に……お? そうだ、いいことを思いついたぞ!」


 俺はニヤリとして、三人を見渡す。


「清里、明日の放課後も時間貰えるか? 教室に残って欲しいんだが」

「それは……うん、構わないけど。でも待って、状況がわからないんだけど」

「あ、仁太郎くん~、もしかして」

「そういうことだ。ふたりとも、協力してくれるか?」

「もちろんだよ。やったー、これで四人だね、ようちゃん」

「うん! やったね~美和ちゃん!」

「えっ、え? なになに? どういうこと?」

「それじゃ、わたし帰って明日の準備するね~」

「あたしもー。なに持っていこうか? 相談しながら帰ろうね、ようちゃん」


 そう言い残して、今澤と有原は手を振ってゲーセンを出て行く。


「よし、じゃあ今日はここまでにしとくか。続きは明日ってことで、解散だな」


「もうなにがなんだか……え? 解散って、待って待って!」


 ひしっと、さっきと同じように俺の袖を掴む清里。

 何故か焦ったような顔をしている。


「仁太郎君がどういう人かわかってきたから、もうなにも聞かないよ。でも……ね」

「ふむ。なんだ?」

「ここで解散はやめよう? せめて駅まで一緒に行こうよ」

「ん? それもそうだな。よし、行くか」


 俺がそう言って清里に合わせて歩き出すと、彼女はほっとした顔になるのだった。



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