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《安倍泰親の館》
朱塗りの豪勢な館では、磔になっていたはずの安倍泰親が床に倒れて気を失っている。
その両手足に打ち込まれていた杭は抜け落ちて、どす黒く変色した床の上でジュワジュワァーンと端から徐々に蒸発していく。
「にゃっにゃんじゃー!」
年老いた法師の眼前にある魔法陣も徐々に溶けていく。
「誰じゃ~、誰の仕業じゃー!」
大の字になり子供のように全身をギタバタ揺さ振りながら悔しがっている。
「道満なにをしておる。」
黒頭巾の老法師が何処からともなく現れた。
「にっ兄ちゃ~ん」
半べその道満は老法師の足にすがる様に抱きついた。
ギュルルルルー
つむじ風とともに黒ずくめの女が現れた。
「齊満様、時間がありません。」
眼前にかしづき退避を迫る。
「道満、出直しじゃ」
道満は頷くと立ち上がり、女の右手を握った。
「よし行くぞ。」
齊満が女の左手と道満の右手を握ると、突然つむじ風が巻き起こり三人を包み込む。
ヒュルルルルー
三人を巻き込んだつむじ風が窓から飛び出すと、ガラガラと館は崩れ落ちた。




