《仁王像前》
洞窟の広い空間では仮面忍者たちが所々で倒れている。
下からは櫂が呼ぶ声と団丸の大声が聞こえてくる。
「今いくよ」
と奏が姫を支えながら下に降りていく。
「私は行けない。」
桃は意識のない松吉に寄り添っている。
「櫂ごめん、私は私は行けないよ。」
とウウッと小さく呻き声を上げて松吉の意識が戻る。
「もっもも」
「松吉、まつきち~」
松吉は桃に抱きかかえらている手を握り。
「任務の最中なんだろ。」
さらに手に力を込めて。
「ちゃんと最後まで勤めなきゃダメだよ。」
痣のある目が動き虚ろに天井を見つめる。
「何だか随分と長い間夢を見ていたようだけど、僕たちは大丈夫だよ。」
周りに倒れている元仮面忍者達を見回して
「ほら段々体が動くようになってきた。」
「桃~みんなで協力しないと先に行けないよ~」
下から団丸の大声が聞こえてくる。
あちこちで倒れている修忍見習い達も徐々に意識が戻ってきたようで、
「ううぅ~」
とうめき声が聞こえてきた。
「桃、何してる。早く行け。」
松吉の強い口調に、桃は涙を堪えて頷くと下の通路へ降りて行った。
「もも、ありがとう。ゴホッ」
松吉は桃を見届けると口から血を吐きその場に倒れこんだ。
***************
「遅いよ桃~」
仁王像前で団丸は待ちくたびれたようだ。
「桃、大丈夫。」
櫂は桃に確認する。
「桃、歌えるか。」
蓮は優しく訪ねる。
「さあ早くやりましょ、歌えばいいんでしょ。」
奏は何故か不機嫌だ。
よ~い よ~い よ~い よやっせ~ よ~い よ~い よ~い よやっせ~
しゅく~かわ~ むらには~ いの~りの~ や~まよ~
よ~い よ~い よ~を もぉ~い よ~い よ~い よ~を もぉ~い
せぎ~わぢ~ むら~むら~ うら~やま~
よ~い よ~い つ~か よ~い よ~い よ~い つ~か よ~い
とんぺい~ ごそ~ん~ なか~の~ よ~い~こ~
よ~い ぎ~の よ~い よ~い よ~い ぎ~の よ~い よ~い
ひかげの~ むらには~ おふ~~どお~ さ~まよ~
つ~る よ~い よ~い よ~い つ~る よ~い よ~い よ~い
さい~の~ むらに~は~ たか~ら~の~ や~まよ~
・・・・・・・・
・・・・・
やはり何も起こらない。
「櫂、何も起こらないようですね。」
叙里が諦めかけるが。
「いや、もう少し続けてもらえるかな。」
櫂は何かを確信しているようだ。
つ~る よ~い よ~い よ~い つ~る よ~い よ~い よ~い
よ~い ぎ~の よ~い よ~い よ~い ぎ~の よ~い よ~い
よ~い よ~い つ~か よ~い よ~い よ~い つ~か よ~い
よ~い よ~い よ~を もぉ~い よ~い よ~い よ~を もぉ~い
よ~い よ~い よ~い よやっせ~ よ~い よ~い よ~い よやっせ~
すると突然、櫂が仁王めがけて火遁の術を放った。
「止めろ櫂。」
蓮が叫ぶ。
「何するんですか。」
叙里が驚く。
「うわぁ~、」
団丸はただオロオロする。
「姫様っ」
桃と奏は姫の手を引き仁王像から離れる。
蓮、叙里、団丸は毒霧を避けるように後ろに飛びのき身を隠した。
パーン!
半透明な結界が弾け奥への通路が現れる。
「何が起きたのですか。」
叙里は櫂を見る。
「仁王の剣の束を燃やしたんだ。」
つ~る ぎ~の つ~かを もぉやっせ~
「ほ~う。」
蓮は櫂に感心する。
「ん~これは相当奥まで続いていますね」
すぐに気持ちを切り替えたようで、叙里は松明をかざし奥を覗きこむ。
「でも進むしかないな。」
蓮が決意を促す。
「よし、行こう。」
櫂の言葉に七人は奥へと進んでいく。




