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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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第四章 結 《椛修忍の里 その二》

傷だらけの教忍頭幸軌達は椛忍者の修忍里を見下ろす小高い丘の上にいた。


蓮達と別れた後に幸軌達は遭えて山を下る方を選んだ。

それには二つの理由があり一つ目は追手の目を姫達から逸らしながら殿戦を行う為、二つ目がここ椛忍者の修忍里に潜り込む為だ。


一つ目の殿戦だけでも無謀なのに、二つ目は微かな可能性に賭けての決行だった。

しかし何故かあの後に追手に見つかる事なく無事にここまで辿り着けた。


後はあの疑問を弟を、俺たち家族を苦しめたあの問題を解決するだけだった。


刺々しい鉤状の引っ付き虫が群生している丘の西側の急斜面に身を潜めながら


「今まで黙っていてすまん。」

この椛忍者の修忍里に着くまで、幸軌は仲間にも本当の目的を話していなかった。

幸軌はここで初めて奥方達との撤退戦の真実を全て話した。



最上位変換の水龍がいとも簡単に打ち破られ、甲種戦忍が次々に倒されていく。


自分も足に深手を負っていたが一人でも多く道連れにしなければと、隙は多くなるが確実に仕留められる脳天垂直切りで一人の仮面忍者の頭を叩き割った。


すると仮面が真っ二つに割れてその場に倒れていたのは末弟の寿軌だった。

五年前に修忍里に来る途中で神隠しに遭い、父と母は諜報の合間に懸命に探し回っていた。


どうしても見つからずに幸軌も諦めかけていた矢先、目の前で頭かられ血を流して倒れているのがその寿軌だとは。

この時ほど悔しくて悲しくてこれを仕掛けた奴を憎いと思ったことは無い。


残りの仮面忍者達は寿軌を抱きしめながら跪く幸軌を囲み、一斉に刀を突き刺そうとしていたが、弟を抱き上げ泣いているその光景に、体中がブルブルと震えだし機械的な動きになったかと思うと、突然シャキン背筋を伸ばし、機械仕掛けの様にカクカクトした走りでと奥方を追いかけ始めた。


弟は最後の力を振り絞り

「兄ちゃん、、、みんなを助けてあげて。。。」


それが命が尽きる前に弟が残した最後の言葉だった。


教忍頭はおもむろに忍袋から仮面の破片を取り出しみんなに見せた。

そこには変わった植物のような物が、どす黒く変色した血でこびり付いた。


その植物こそが目の前で群生している刺々しい鉤状の引っ付き虫だった。



*****************



教忍頭幸軌達は足音を忍ばせながら椛忍者の修忍里に近づいていく。


村の中央にある大き目の建物は異様な妖気妖に包まれている、見つからないように慎重に近づき塀の隙間から中を覗くと、仮面忍者達がその建物を直立不動で取り囲んでいる。


何とか仮面忍者の注意を逸らせないだろうか。

腕に怪我を負っているが足は無傷の寛兎と慶亮が囮を申し出た。


手が使えない以上、彼らは満足に戦えないので追いつかれたら死を意味する。

しかしこのたった五人でしかも重症の戦忍だけで二十人以上いるであろう仮面忍者達を相手に戦うことはどの道生きては帰れないと皆覚悟していた。


その上、こちらは神隠しに遭った桜忍者の子供たちであろう相手を殺さずに、ただ引き付けているだけという、本当に無謀な作戦だ。


教忍頭の合図で囮の二人がその屋敷の敷地に忍び込んだ。

普通なら気付かれてもおかしくない忍び込み方をしたが、何故か見張りは先程と同じ姿勢で立っている。

何かがおかしい。


教忍頭も気配が感じられる程度に近づき様子を観察した。

建物の奥からは妖気に交じり微かに生気の流れも感じ取れるが、仮面の忍者からは気の流れが全く感じられない。


京での退却戦の時に感じた違和感が体を襲う。

殺意は全く感じられないのに、躊躇なく急所を狙ってくる攻撃は一流の忍者の証だが、攻撃前に奇声を発する、忍者としては考えられない攻撃をしてくる。


すると突然

「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~」

笛の音が響き仮面忍者の半分が囮に食いつく。


やはりあの笛で何者かが仮面忍者を操っているに違いない。

笛の音がする方へ近づいていくと、そこには群暮の嫁だった包伎がいた。


その目は虚ろで何かの中毒症状なのか口の端からはベロ~ンと涎を垂らしている。

そういえばいつも喧嘩ばかりしていたグンバと嫁の不審点を思い出す


そうだったのか!

グンバの嫁が消えてから、見習い修忍の神隠しが増えた。

まるで各村と里の所在地も連絡道も知っていて待ち伏せされたかのようだ。


幸軌の弟が神隠しにあったのも、包伎が消えてから最初の秋分だった。

憎悪の炎がメラメラと湧き上がり、包伎に襲い掛かった。

しかし足に大けがを負っているので、簡単にかわされてしまう。


「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~」

次の笛の音で残りの仮面忍者が幸軌達に一斉に襲い掛かる。


「フギャ~・ウギャ~」

奇声を発しながら襲い掛かる十人以上の仮面忍者に三人は必死に防御戦を展開するが秖尼が倒れ濱納が倒れ、幸軌はとうとう十人に囲まれてしまった。


-やはり無謀だったか-


パパパパパパパパパパパパーッ!

米粒大の艾が仮面忍者の額に張り付いたかと思うと


ポポポポポポポポポポポポーッ!

その艾は一斉にポワッと燃えた。


バタバタバタバタッ。

その場で倒れる仮面隠者たち。


「幸軌、待たせたのう。」

目の前には、はぐれ灸忍の嘉仁が立っていた。


「やはりここじゃったか。」

嘉仁は懐から刺々しい鉤状の引っ付き虫を摘んで見せた。


「あいつらは気絶してるだけじゃ。」

と倒れている秖尼から忍刀を取り上げて、仮面忍者の額めがけて振り下ろそうとした。


「まて!」

「幸軌なぜ止める。こいつらは直ぐに立ち上がるぞ」

横に倒れている仮面忍者に目がけて、また忍刀を振りかざす。


「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~」

「フギャ~・ウギャ~」

仮面隠者たちは一斉に起き上がり、二人に向かってくる。


パパパパパパパパパパパパーッ!

ポポポポポポポポポポポポーッ!

嘉仁が投げた艾に幸軌が火遁で火をつける。


「そいつ等は桜修忍だ!」

懐から血がこびり付いた仮面の破片を取り出した。


「これは俺の弟、寿軌に付けられてた仮面だ。」

嘉仁は信じられないという表情で仮面忍者たちを見回す。


「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~」

「フギャ~・ウギャ~」

仮面忍者たちは、また一斉に起き上がり、二人に向かってくる。


パパパパパパパパパパパパーッ!

ポポポポポポポポポポポポーッ!

嘉仁が投げた艾に、また幸軌が火遁で火をつける。


「これでは限がないない。幸軌、丈夫な紐を探してきてくれ」

「分かった」

と幸軌は立ち上がるが、深手を負った右足に踏ん張りが効かないようだ。


「打つ手なしか。」

天を見上げて大きく息を吐く。


「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~」

「フギャ~・ウギャ~」

仮面忍者たちは、またまた一斉に起き上がり、二人に向かってくる。


パパパパパパパパパパパパーッ!

ポポポポポポポポポポポポーッ!

嘉仁が投げた艾に、またまた幸軌が火遁で火をつける。


「次が最後じゃな。」

残っている艾の量を確認し嘉仁は呟いた。


「嘉仁すまん。」

片膝立ちで覚悟を決める幸軌。


と何処からともなく有慈が現れ、仮面忍者たちを赤い紐で縛り上げていく。

その縛りの速さは神業と思える程で、ほんの数秒で十人を縛り上げた。

あっけにとられる幸軌と嘉仁。


仮面忍者の意識が戻ったが、手足が縛られたままで身動きができないようだ。


「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~」

包伎の笛が左手の奥の屋敷の上から聞こえるが、仮面隠者たちは倒れたまま芋虫のようにモゴモゴ動いている。


「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~」

また笛の音がするとズリズリと地面を這うように近づいて来ることしか出来ないようだ。


「有慈、幸軌を頼む。次はあいつじゃな」

嘉仁は左手の奥の屋敷に向かい忍者駆けをはじめた。


「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~」

「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~」

連続的に聞こえる笛の音は徐々に遠ざかっていく。

包伎は嘉仁に気付き逃げながら吹いているようだ。


幸軌と有慈は目の前にある異様な妖気に覆われる大きな建物を見上げている。


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