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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《海丹村 その一》

叙里の案内で海丹村に着くと人の気配が全くなかった。

しかし襲撃された形跡も全くない。

船は一体どこにあるのだろう。


七人は姫を中心に警戒態勢で村を見て回る。

集会所、長老小屋、漁小屋、さっきまで人が居たように全てが残されたままで、村人が一人もいなかった。


一回りして集会所まで戻ると開け放たれた縁側に腰掛けた。

目の前には瀬戸内の綺麗な海が広がっている。

櫂はこのような綺麗な砂浜を初めて見た。

海といえば龍神の祠の先に広がる荒々しい波しか思い浮かばなかった。


まだ冬なのにポカポカと温かく目を閉じたら体の力がフワ~ッと抜けていくようだ。

ちょっとまて何かが変な気がするけど、でも海が綺麗で日差しが暖かくて気持ちいいな~。


「なんかだか気持ちいいな。」

蓮の言葉に、


「そうね。」

奏が続く。


叙里はボケーッと集会所の屋根を見上げている。


桃と姫はお互いに寄り添いながらウトウトしている。


団丸はポカポカした気持ち良さより初めて見る砂浜に嬉しさが爆発したように走り出した。


「わ~い、海だ~。」

バシャバシャと波打ち際で遊んでいる。


「おーいみんなもおいでよ!気持ちいいよ~!」

団丸が振り返ると六人はウトウト昼寝をしているようだ。


「あっ船だ。」

海から集会所を見ると右の飛び出した崖の向こう側に隠れた入り江があり、そこには大きな船が泊まっていた。


「船だ~!」

と大声を上げながら走っていく。


団丸の叫びに六人はハット目が覚めた瞬間に天井から大きな網の様な物がグワッと六人を絡め捕ろうと落ちてきた。

桜忍者五人は瞬間的にグルッと前方回転で飛び逃げたが、姫が大きな網に絡め取られてしまった。


「しまった」

五人は一斉に網を持ち上げようとするが、あまりにも重くて持ち上がらない。

櫂は忍刀で網を切ろうとしたが固くて重くてビクともしない。


するとギュルギュルギュルと網が竜巻のように回転して、五人は弾き飛ばされてしまった。

大網はそのまま回転しながら空に上がっていく。

櫂も蓮も奏も一斉に飛び上がり網の端を掴もうとするが、またしても降り飛ばされて地面に叩き付けられた。


姫を絡め取った大網はそのまま右の崖の方へ飛んでいく。

五人は超速忍者駆けで慌てて追いかける。すると崖の裏側の入り江からゆっくりと大きな船が姿を現した。

大網はその動き出した大きな船の上に降りていく。


「まずい。」

蓮は急ぎ岩渡りで崖を飛び駆けて船の甲板へ飛び移る。

奏は土渡りの速度を上げて砂浜を駆け抜け入り江の船着場から甲板へ飛び移る。

しかし既に動き出した船とは距離がありすぎてドボン、ドボ~ンと二人とも水中に落っこちた。


櫂は水渡りで船を追いかけるが側面はツルツルして甲板まで登る事が出来ない。

とその時スルスルスルッと頭上から綱の様な物が降りてきた。


「櫂、登れ。」

甲板から団丸が綱を垂らしてくれた。

何で団丸がそこに居るのかと思ったが、とにかく助かった。その綱をよじ登っていくと、


「いたたた~櫂、早く登って。」

ん一瞬いやな想像が頭を過ったが今はそれどころではない。


「痛いよ~早くしてよ~」

何とか甲板に辿り着くと団丸が股間を抑えて泣いている。

櫂の手から続く綱の様な物はその股間から伸びていた。


「なんじゃ五月蠅いと思ったら桜忍者か。」

団丸の後ろには黒頭巾の老法師が立っていた。


「よくあの結界を見破ったのう。でもこれで終わりじゃ。」

黒頭巾の老法師は瞬時に印を結ぶと


「咸術木連打、最上位変換、木連龍」

ガタガタと船のあちこちが振動して、引き剥がされた甲板の木が龍になって櫂と団丸に襲い掛かってくる。

避けても避けても襲い掛かってくる龍の攻撃に、


「ウワ~櫂、任せた~」

ドボン~っと団丸は水中に落ちたようだ。

櫂も避けるだけで精一杯で徐々に甲板の淵に追いやられる。

初めて見る木忍術に、櫂は何をどうすればいいのか全くわからない。

必死に淡い視力で木龍を避け続けていると


~あなたは心で物を見る宿命です。自分を信じて進みなさい~

あの言葉が急に心に降りてきた。


櫂は覚悟を決めて中途半端に見える目を閉じて印を結んだ。


オン・アビラウンケン・バザラダトバン

オン・アビラウンケン・バザラダトバン

オン・アビラウンケン・・・・


心眼を開くとさっきと違い今にも崩れ落ちそうな古びた船上にキラキラした粉が頭上から舞い降りてくる。

その粉が次々に木龍に触れていくと、龍がただの板切れに代わっていく。


「俺の出番だよ」

肩の上には遁術の発動時に時折顔を出す精霊がチョコンと座ってこちらを見ていた。

櫂はその精霊を手に乗せて


「金遁、ん~任せた。」

金遁の精霊なのは分かったが、どの遁術を使えば良いのか分からず、精霊に任せて両手を頭上に掲げる。


すると船がカタカタカッタン・カタカタカッタンと揺れだし、あちらこちらから金属片が飛び出して、船の上で踊りだした。

楽しそうに踊る金の精霊の分身達は早く突撃したいとウズウズしているようだ。

櫂はその精霊たちに「流れ菱だ」「流れ菱だ」と促され。


「はいっ、では流れ菱。」

と両手を前に突き出すと、遁術ではなく威術の流れ菱が発動した。

すると今まで乱れ飛んでいた板切れが精霊たちにスポンスパンと切り刻まれ、その場にガラガラと落ちていく。


「なんじゃ~最上位の木連龍がこんなへなちょこ流れ菱に~」

徐々に船の淵に追い詰められていく老法師に金の精霊は見えないようだ。


金の精霊達は老法師の前で楽しげに踊っている。

降り注ぐ流れ菱は更に勢いを増して老法師を追い込んでいく。

とうとう避けきれずにピシッドシッと流れ菱が老法師の額を十文字に削り取ると、


「うわぁ~」

そのまま後ろ向きで甲板から海に転落した。

ドボンと大きな水飛沫が上がり、その水飛沫はそのままギュルギュルと音を立てて回転しながら西の方へ飛び去った。


すると老法師の術が切れたのか船は本当の姿を現し、今にも崩れ落ちそうにギシギシと音を立て始めた。


「姫は。」

辺りを見回し船先で倒れている姫を見つけた時、ガラガラと船は崩れ落ち水中に沈んでいく。


櫂は海に飛び込み落ちてくる木片を避けながら、水中の姫を捕まえた時、ゴツンと頭に強い衝撃を受け気を失ってしまった。


姫を抱えたままブクブクと沈んでいく櫂。


どこからともなく規則正しい変わった音が聞こえてくる。

何の音だろう、どこかで聞いた事があるようなその音に耳を傾けると、


カチカチ・カチカチ・チ~ンッ。


ゴ~ン!


大きな音と共に、ザパ~ン、ザパパ~ンと水面から一斉に河童が飛び出していく。


あれあれれっ・・・

またこの夢か櫂は修忍里の潜水で溺れた時の事を思い出した。


櫂は水面から天井に飛び出しそうになっている。

水面から落ちないように必死に潜ろうとするが、やはり水面に引き寄せられる。

足が水面から出たようでいくら蹴ってもスカスカだ。

一生懸命両手で水を掻いて潜ろうとするが、徐々に体が宙に飛び出していくのが分かる。

うわっ、とうとう顔まで出てしまった。

上にある水面に残った手で、何とか水中に戻ろうとするが、スポンッ!

遂に全身が水から出てしまった。

ウワァ~落ちる~と思った瞬間にグルグルと目が回る・・・


意識が朦朧とする中でフワフワ~っと幸せな安心感に包まれた。


まるで霧に包まれているようで懐かしい。

ドクンドクン安心の鼓動が聞こえる。


「えっ霧。」

と目を開けると目の前には河童の様で人魚の様な霧が居る。

霧は片手に櫂を反対の手で姫を抱えて水面に潜っていく。

耳元で何かが聞こえる。


「えっ誰。」

霧はただ黙々と水面目指して潜っていく。

いったい誰の声だろう。


「いっいっい~生きたいか?」

答えるならば当然


「はい、生きたい!」

と言うと周囲がグルグル回りだしまた気が遠くなっていく。


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