《逃走 洞窟》
高さのある少し湿った洞窟内で、団丸が捕ってきた鹿を焼いて七人で食べている。
蓮は死ぬわけはないと思っていたが、本当に生きていてまた会えたのが櫂には心底嬉しかった。
改めて奏から大内裏の戦闘から今日までの経緯が伝えられ、叙里からは六波羅での罠から修忍里が襲われて今日までの経緯を伝えた。
「まさか、夕顔が間諜だったとはな。」
蓮は奏の報告に信じられないという顔をして
「これで追っ手にすぐ見つかる理由と、結界が簡単に破られた理由が分かったよ。」
「ごめんなさい。」
泣き出す姫。
バシッと奏が蓮を叩く。
「姫様は関係ないのですよ。」
奏は姫を抱きしめながら蓮を睨みつける。
「でも、本当に姫は本物ですか。」
叙里の何気ない言葉に洞窟内に緊張が走った。
ドカッ、叙里は桃に蹴られて倒れこんだ。
「バカ!どう考えても本物よ。私には分かるわよ。」
桃も奏の反対側から俯く姫を抱きしめる。
「桃がそう言うなら本物だ。」
団丸が桃の味方をする。
「僕も本物だと思うよ。」
櫂は姫から溢れ出る悠子さんに似た清々しく澄んだ氣を感じ取っていた。
「いや、感情論ではなくてですね。」
叙里は起き上がりながらも、まだ疑問が拭えないようだ。
「いや冷静に判断しても本物だと思うよ。」
蓮には本物だと思う理由があるらしい。
「姫も夕顔も間諜だったとしたら、俺達に送り込んで何の意味があるんだ。」
叙里に問いかける。
「それは桜忍者を殲滅するためではないですか。」
「そうだとしたら何で一人は幸軌達の元に残らなかったんだ。」
叙里はハッとした。
「向こうは五人しかも教忍頭もいる、こっちは新米戦忍が二人。もし二人とも間諜なら少なくとも一人は向こうに残った方が良かっただろう。」
櫂達は頷きながら聞いている。
「そう考えたら間諜の目的は姫の拉致で、戦忍が少ない方がいいんだよ。」
「本当なら俺達を全員殺してから姫をサラっても良かったのだが。」
「偶然にも絶好の機会が訪れたから本性を出したんだろう。」
「あの時は姫と用足しに行っていて、俺には椛忍者が襲ってきた。」
「姫の護衛は奏一人でしかも夕顔に背を背を向けていた。」
「これほど拉致に向いている状況はないだろう。」
「現にお前達が来なければ奏は殺されて姫はサラわれていたと思う。」
「結論、姫が本物でそれを拉致するための間諜だったと考えて間違いない。」
「さすが蓮、その通りだぁ。」
団丸は喜びながら鹿肉を握ったまま拍手をしている。
「確かに合点出来ますね。」
叙里も納得したようだ。
「うわ~肉~肉が~。」
と拍手で飛び散った鹿肉の破片を涙目で集める団丸。
団丸の行動に洞窟内の空気が一気に和んだ。




