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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《逃走 合流》

深い森の中で金属がぶつかり合う忍戦の音だけが響いている。


ヒュルヒューンザクグサッ。ヒュルヒューングサザクッ。

蓮は両手に阿修羅刀を持ち回転しながら、圧倒的に椛忍者を倒していく。


実戦は蓮の潜在能力を一気に開花させた。

ほんの数か月前まで見習い戦忍だったのが嘘のように、手練れの椛忍者を全く寄せ付けない。

戦忍頭実那から託された阿修羅刀は更に鋭さを増し、一瞬で上下からの攻撃を防ぎ、左右の相手に致命傷を負わせる。奏は姫の側で周囲を警戒しているだけだった。


瞬く間に数十人の追手を撃退し

「奏、姫は大丈夫か」

何事もなかったように話しかけた。


目の前には腰かけに丁度いい大きさの岩があったが、その上には大きな蜘蛛の巣が張り巡っている。

それをさっと右手で払い、姫と夕顔を腰かけさせると、その横で岩に寄り掛かり大きく息を吐いた。

阿修羅刀は確かに強力だが何回も連続では使えない、なるべく体力を温存して効率的に戦わないとならないなと、修忍里で支給された忍刀を取り出し携帯用の砥石で刃こぼれを潰していく。


ツーっと5寸はあろうかという大きな蜘蛛が糸を引きながら目の前に降りてきた。

フンと昔の自分を鼻で笑うと裏拳でその蜘蛛を潰し払い、何事もなかったように砥ぎを続けた。


小休止の間、姫と夕顔が用を足しに茂みに入ったので、奏は一緒について行った。

小便をしながら姫は内裏を出てからの事を回想した。

母は捕まったと聞いたが父信頼はどうしているだろうか、弟の信親はどうしているだろうか、自分は桜忍者に守られながら逃げているが、父には弟には誰か付いているのだろうか。

横で後ろ向きに立っている奏を見上げ、


「奏、ありがとう。」

「いえいえ滅相もございません」

奏の言葉を遮るように


「姫、それが桜忍者の仕事なのです。当たり前のことですよ。」

教忍頭幸軌が居なくなってからは素直だった夕顔の態度が元に戻ったようだ。


ジャキ~ン蓮の居た方から突然に金属音が聞こえていた。

「奏、追手だ!」

その声に姫と夕顔は急いで裾をたくし上げた。


今の蓮が居れば大丈夫。奏はただ姫と夕顔の前で周囲を警戒すれば良かった。

すると突然何者かに首を絞められた。何故か両手が金縛りにあったようで動かない。

声も出ないので蓮に助けも呼べない。


「夕顔、何をしてるの。」

「うるしゃい、バシッ。」

ドサッと人が倒れる音がする。

今後ろで何がおこったんだろう、姫は夕顔と叫んだような。


ジャキ~ン、ガキ~ン。

向こうでは蓮の忍刀の音が聞こえる。

締め付けは徐々に強くなり、意識が遠のいていく。


「蓮、ごめんね、足手まといなのはアタシだった。」

薄れていく意識の中で、奏は蓮に謝り涙が頬を伝った。


グサッグサッ、ギョエ~。

何、今度は何が起こったの。

ゲホッゲホッ奏は咳き込み崩れ落ちながら振り返ると


「奏、大丈夫?」

目の前には櫂がいた。


「団丸、叙里、蓮の援護よ。」

そう言うと桃は倒れていた姫を抱き上げ。


「姫様、お怪我はありませんか。」

「は、はい。」

姫の意識は朦朧としているようだが、命に別状はなさそうだ。


何で櫂が桃がここに居るの、団丸も叙里も、なになに一体さっきから何が起こっているの。

奏の目からは自然に涙があふれ出した。


あの四人がこんなにも心強いなんて。

奏は四人を見下していたちっぽけな自分が恥ずかしくなった。


そうだ、さっき襲ってきたのはと周りを見渡すと、夕顔の着物に忍刀が突き刺さり、その上には何かが蒸発したような霧状の煙が立ち上っていた。


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