《仁和寺その三》
篝火が無数にたかれた仁和寺の境内には沢山の椛忍者の陣幕が張られている。
その一番奥に一際大きな紋無し陣幕があり、仮面を付けた忍者集団がそれを警護するように取り囲んでいる。
群暮は頭巾で顔をすっぽり覆った疑心の前に跪き状況報告をしている。
「疑心様の指示通りに、六波羅館の待ち伏せで戦忍はほぼ全滅させました。」
疑心は群暮の報告を聞きながら、傍らの籠からネズミを取出すと袖をまくり上げている左手の甲に乗せた。
すると ポンッポンッと左手の皮膚がはじけて中から緑色のナメクジのような物が次々に顔をだし、一斉にネズミに纏わり付いた。
いつ見てもおぞましいその光景を上目使いにチラチラと覗き見しながら、胃からの逆流物を押し戻すように唾を何度も飲み込み、タドタドしくも報告を続ける。
「さっさくら、しゅ、しゅううう忍のさとっでも、でも、数人だけにっにげたようですが、しゅっしゅっしゅうにん里は焼きました、やっやきつっ尽しました。あっあっ」
左手の甲に乗せられていたネズミはドロドロの緑色の物体に覆われているが、その形はくっきりと分かり、包み込まれた中で必死に暴れているようだ。
「まっまだ、全ての村の位置は、特定できていませんが、、、特定できた桜忍の各村へは、、こっ攻撃を開始しています、また・・・あっ・・」
徐々にネズミの形は小さくなっていき、ネズミを包み込んでる蠢きが止まると、手の甲がパカッと口のように開き、ペッと何かを吐き出した。
疑心は黙って聞いていたが、途中で群暮の報告を遮り
「ほぼ全滅・・・数人は逃げた・・・」
群暮の顔は一瞬で恐怖に凍りつき、目の前に吐き出されたネズミの骨をただ見つめている。
「皆殺しにしろと言ったよな。」
少し口調が強くなり次の言葉を待っているようだ。
しかし群暮はそれ以上何も言えずにガタガタと震えている。
男は怒りを鎮めるように大きく息を吸い込んだが、怒りを抑えきれなかったのか急に目を見開くとビュンと左手を振るった。
するとヒュンと何かが飛んで行き、ピチャッとグンバの顔に緑色の生き物が張り付いた。
その生き物はナメクジとヒルを混ぜたような姿でモゾモゾと顔中を這い回り、耳を見つけるとそこから体内へ入ろうとしているようだ。
「ぎっぎ~疑心様~どうか、どうかお許しください、もっもう一度だけご慈悲を・・・」
疑心がピシッと右手の指先で空気をはじくと、その生き物はビクッと何かにぶつかった様な気配の後にジュワ~ンと蒸発した。




