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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《逃走 教忍頭幸軌》

桜忍者は信頼の奥方と姫を守りながら、二班に分かれて嵐山に向かっていた。

必死に逃げながらも教忍頭は昨夜の不思議な集団の事を思い出した。

気付くと既に二条天皇は寝所におらず、美福門に向かって逃走していた。

急いで後を追いかけたが、椛忍者に前を遮られ不覚にも逃げられてしまった。その時、椛忍者に交じって逃げて行った幾人かは、桜忍者特有の腰が低い忍者駆けをしていた。


と突然

「ピヒョ~~」

奥方と侍女衆を連れて逃走中の教忍頭の右後方で、椛忍者特有の笛が響いた。


とうとう追いつかれたか。

教忍頭幸軌は戦忍者二人に奥方を連れ構わずに逃げるように伝えると、残った戦忍に後駆戦闘態勢を指示した。


忍者駈けを緩めて椛忍との間が徐々に詰まってきた時、


「ピ~~ピョロ~ピ~~ピョロロ~。」

突然龍笛が響く。


「ウアギャ~ブギャ~」

気勢を上げながら仮面を被った集団が迫ってきた。


なんだこの集団は、初めて見る異様な集団に戸惑いながらも、


「木遁、木の葉の舞」

まずは木遁で機先を制した。その隙に逃走を図ろうとしたが、


「ウギャ~ブギャ~」

舞い踊る鋭利な木の葉にお構いなしで仮面忍者が突っ込んでくる。

体中が切れて血が流れているが、いっこうに止まる気配がない。


逃走しながらも続けざまに

「土遁、土辛子」

粉のように小さい粒の砂が一面に舞った。


「ウギャ~ブギャ~」

奇声を上げながら突進してくる仮面忍者には目つぶしも効かないようだ。

目から血の涙を流しながらも突進してくる。


「火遁、水平火炎。金遁、地下金菱」

水平に炎が広がり、地面からは鋭利な金属が飛び出した。

体が焼けながら、足裏から血を流しながらも


「ウギャ~ブギャ~」

奇声を上げて突進してくる。


一体あいつ等は何者なんだろう、恐怖に負けそうになる心を必死で抑えて次の手を考える。

信頼の奥方達を連れているので、これ以上早く逃げられない。

教忍頭幸軌は少し先に小さな沼があるのを見つけると、忍者走りの速度を上げ急いで水縄の準備を始めた。


これで足止めできなければ本格的に戦闘するしかない。

そうなればこの状況で奥方達を守りながら逃げ切るのは不可能だろう。

敵はざっと見ても街道を追いかけてくる椛戦忍が二十人以上、異様な仮面忍者は少なくても二十人はいるだろう。

対する桜忍は甲種とはいえ十五人、手練れの忍者同士の戦いで三倍の戦力差は確実に死を意味する。

二倍でもかなりの実力差がなければ相当に危険だ。微かな希望は木土火金と四つの遁術を潜り抜けてきた仮面忍者の弱点が水系の可能性があるところだけだ。


幸軌は水縄の準備をしながら、もし突破された際の算段を巡らせた。

本当にギリギリの線で椛忍者二十人の抑えに十人を付け、奥方達の誘導に二人、仮面忍者には三人しか回せないが、自分が盾の役となり何とか三人で二十人を抑えよう。

勝てないまでも最低で一刻出来れば二刻は抑えなければ、奥方達は逃切れないだろう。


「水縄!最上位変換、水龍!」

印を結びながら呪文を唱えると、沼の水がジワジワと震えだし、水紋の中心から空高く炎のように渦巻きながら伸びあがると、それは龍の形に姿を変え宙をクネクネと動きながら蜘蛛の巣のように沼から林の奥まで水縄が張り巡らされた。


追ってくる椛戦忍は街道を仮面忍者は右の林と別れて挟み撃ちにするようだ。


「春雷、佐間迩、奥方と一緒に嵐山へ走れ!」

「獨、啄、俺と一緒に仮面忍者だ」

「徳彌と残りは椛忍を抑えてくれ。」

「了解。」

徳彌は街道に守備陣形を引いた。


春雷は無謀過ぎる策にハッと幸軌を見たが、その目に宿る決意に黙って頷いた。


「春雷、佐間迩、急げ」

「獨、啄、右の林だ」

徳彌と幸軌はそれぞれに街道と林で守備陣形を敷きながら、水縄が少しでも時を稼いでくれるように祈ったが、

バシャ~ン!

大きな水飛沫と共に林側の一角から水縄が崩れ始めた。


「キャヒィー」

奇声を上げながら仮面忍者が襲い掛かってくる。

水縄が崩れ落ち街道側からも椛忍者が向かってくる。


-イチかバチか咸術を使うべきか、幸軌は迷った-


属性が入り混じる可能性が高い乱戦では、倍返しの恐れがある攻撃の咸術は使い難い。

その上、防御の遁術が全く効かないので仮面忍者の属性が分からない。

今は少しでも時間を稼がなければ。


「構え~!」

幸軌の声が戦場に響き渡り、桜甲種忍者達は一斉に体術での後駆戦闘態勢を敷いた。


その間にも仮面忍者が奇声を発しながら迫ってくる。


「獨、啄、逆三戦だ。構わずこっちに流せ。」

林側では幸軌を頂点に逆三角形の守備陣形を敷いた。

前方の獨と啄は本格的に戦わず、相手の突進力をそのまま後ろに流す。

それを後ろで待ち構える幸軌が叩くという作戦だ。

突進してくる相手には有効な戦術だが、二十人相手に三人でこれは無謀とも言えた。


「キョヒィ~、ウヒィ~」

続々と仮面隠者が襲い掛かってきた。


キ~ン、カチ~ン、

獨と啄が上手く受け流した仮面忍者が幸軌に向かう。


ゲサッ、グサッ、

まず二体に致命傷を負わせた。


ガキ~ン、ジャキ~ン

街道側でも金属音が鳴りはじめた。


続け様に三人が幸軌に向かってくる。

ザクッ、ザクッと右左の仮面忍者の心臓を貫くと


「ウキョ~」グサッ。

頭上を飛び越えて奥方を狙おうとする仮面忍者を背中から一突きにした。

次の瞬間ドスッと右足に激痛が走った。


先程心臓を突き刺した筈の仮面忍者が上半身を起こして、幸軌の右太腿を深々と突き刺していた。

激痛に耐えながら再度その仮面忍者の心臓を忍刀でエグッタが、先ほど倒したもう二体の仮面忍者は既に起き上がり、奥方を追って走り出していた。


街道側でもほとんどの桜戦忍者が倒され、残った徳彌に一斉に椛忍者が群がっていた。


信じられない目の前の光景に呆然と振り返ると、獨と啄はそれぞれ数方向から突き刺され息絶えていた。


その二人を突き殺した仮面忍者が幸軌に向かって一斉に襲い掛かかってくる。


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