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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《カイ ハリ忍様》

ハリ忍様とキュウ忍様は周囲五村で持ち回りで受け入れる。


カイが八歳の時にはハリ忍様一行は曳山村にキュウ忍様一行は津金村に居たので、治療を受けるには毎回山を一つか二つ超えていかなければならなかった。


寒い冬の日などは、これがいつまで続くのか子供心に不安になったが、嫌な顔一つせずに一緒に来てくれるキリを思うと何も言えない。

むしろケガをして目が見えなくなった自分のせいでキリに余計な苦労を掛けていると思うと、何だか悔しくなってくる。


ハリ忍様はハリと言われる細く尖った金属で体のツボと言われる場所を刺して病気やケガを治し、キュウ忍様はもぐさという物に火をつけて病気やケガを治療する。


五歳の時に見たハリ治療の光景が忘れられずに、最初は本当に怖かったけど、子供用の治療は別物らしく、実際に受けてみると大したことはなかった。


ハリはちょっと刺しただけで後はコチョコチョとさするだけだし、キュウは棒状に固めたもぐさに火をつけてツボを温めるだけだった。


それでも生死を彷徨った僕が元気になり、目は光や影を感じられるようにまでなったので、ハリ忍様とキュウ忍様が凄いことは子供でも理解できた。


ハリ忍様の治療を受ける度に「ポワン、ポワン」と少しずつ光を感じるようになり。

キュウ忍様の治療を受ける度に「フワン、フワン」と少しずつ影を感じるようになった。


きっといつか、はっきりと物が見える様になると信じて治療を続けたが、九歳の秋からは「ポワン、ポワン」と「フワン、フワン」が徐々に感じられなくなり、九歳の冬には治療を一時中断することになった。


キリはハリ忍様とキュウ忍様に「治療を続けてほしい」とお願いしたが、僕が「もう治療は受けない」と断った。


寒い冬の山道を超えるのは本当に辛い。


僕が一人で治療を受けに行けるなら霜でも雪でも構わなが、キリにこれ以上の負担をかけたくなかった。

それに来年の春になればハリ忍様一行は夙川村に来るので、数か月治療を中断するだけだ。

その間にもハリ忍様に教えてもらった「光明」や「合谷」「四白」に自分で刺激を加えている。


瀕死の状態からここまで良くなったのも奇跡的なので、それだけでもハリ忍様とキュウ忍様には感謝しきれない。

そしてまだ生きてキリと一緒に居られる、それだけで僕はじゅうぶんに幸せだった。



その凄いハリ忍様とキュウ忍様を各村の長老もいちもくおいているらしい。

その言葉の意味はイマイチ良く分からないが、どうやら病気やケガに詳しくて村の皆が尊敬しているらしいことは分かった。


そしていちもくおかれると村人から酒やご馳走がたくさん貰えるようだ。

ちなみに尊敬という言葉の意味も何となくしか分からないが他に例えようがないのでしょうがない。


今でも何で大人たちはあんなに楽しそうにお酒を飲むのか分からないけど、ハリ忍様迎えの宴で久しぶりにキリが村の大人たちと楽しそうにお酒を飲んでいるのを見ると、ほっとして幸せな気持ちになった。


そしていつかは僕も一緒に楽しくお酒を飲みたいと思った。

酒を飲まないという六歳の頃の決意はキリの楽しそうな笑い声に完敗した。



*************



ドクンドクン・ドクンドクン・心臓の音がもの凄い勢いで脳に響いている。


キリの優しくも決意を持った手に、ポンと背中を押されて我に返った瞬間に思わず玄関から一歩踏み出した。


夜空を見上げ瞬いているであろう星々を感じながらもう一歩踏み出し、ゆっくりと振り返る。

キリはこちらをじっと見つめているようで、優しさと厳しさが入り混じっためちゃくちゃ暖かいオーラを感じる。


これでしばらくキリと会うことができなくなる、もしかすると最後になるかもしれない・・・


そう思うとカイの目から自然と涙がこぼれ落ちた。


頬をつたう涙が顎先に溜り堪え切れずに、


ポトン ポトン 数滴地面に落ちた時、スーッと玄関の戸が閉まった。


お迎えじゃ~ お迎えじゃ~


よ~い よ~い よ~い よやっせ~ よ~い よ~い よ~い よやっせ~

ド~ン ピーヒャラ ド~ン ドド~ン ド~ン ピーヒャラ ド~ン ドド~ン 


更に大きい音で祭囃子が村中にこだました。



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