《悠子と清盛その二》
「悠子殿、おそらく父上は熊野に居られると思います。」
囲炉裏を挟んで対面している清盛は意気揚々と父の発見状況を伝えてくる。
寒い冬の日にバチバチと音を立てて揺らぐ囲炉裏の火は二人の距離を明確にしている。
「これは支度金です。」
清盛は大きな袋に入った砂金を差し出す。
「俺の館に来てくださらぬか。」
悠子は何も答えずにただ囲炉裏の炭を火箸でひっくり返している。
炭をひっくり返す度に湧き上がる小さい炎は、まるで清盛を拒絶するかのように揺らいでいる。
悠子は数えで二十歳になる。
もう行き遅れと言われてもおかしくない年頃だ。
清盛は悠子を側室に迎えたいと思っているが、それはその美しい容姿だけではなく、未来を見通せる特殊な能力が欲しいからだった。
八歳の時にこの能力がばれてからは時の権力者が次々にこの屋敷にやって来るようになった。
その中でも特にしつこいのが平清盛だった。
清盛は物品で誘いを掛けるだけではなく、三歳の時に家を出て行った父の消息まで探り、悠子に恩を売りつけようとしている。
悠子はこの男が大嫌いだったが、帰ってもらう為に今日も嫌々その男の未来を見ることにした。
「この水晶を見つめてください。」
悠子はそういうと傍らから大きな水晶を取り出して、清盛と自分の間に置くと。
「はぁ~・・・・・・」
自分以外には聞こえないほど小さな声を出しながら、両手で水晶を包み込むように優しくなでる。
すると水晶の中で何かが揺れだして徐々に色や形が動き出した。
清盛にはただ色が複雑に絡み合っているだけにしか見えないが、悠子には鮮明に未来が見えてきたようだ。
「近い未来に大きな選択が待ち受けています。」
ゴクリと唾を飲み込む清盛。
「その時に自分の為ではなく、他人の為になる方を選べば貴方は大成します。」
悠子はその時に見えた黒い影の事は敢えて伝えなかった。
清盛はうんうんと頷き、色んな考えが脳内を駆け巡っているようだ。
「感謝いたす。では早速悠子殿の為にこの清盛自らが熊野に行って確認してきましょう。」
男はポンと膝を叩くと、土間に入りきらない従者達に合図を送った。
従者たちは示し合わせていたように四方に散って行った。
「では吉報をお待ちください。」
清盛はそういうとズカズカと屋敷を出て行った。
悠子は清盛一行が帰った後に先ほど見えた黒い影に焦点を当て水晶を優しく撫ではじめたが、その黒影は黒いままで姿形が悠子にも見えなかった。
自分と家族の未来以外で見えないのは、あの事件以外では初めてだった。




