《秋の夢》
櫂は小さいころから時々不思議な夢を見る。
雪と氷の世界で、黒い龍と黒い男が戦っていた。
不思議な忍術を使う大男。
大きな口から吹雪を吐き出す龍。
「ウオ~~~~~~~~~~。」
見た事もない大きな剣と凄い忍術で龍を倒した。
その大男は蛇の様に蠢く緑色の拳を突き上げて雄たけびを上げていた。
景色は変わり大きな屋敷の中ので年老いた黒い龍が寂しげに佇んでいる。
背中に大きな剣が突き刺さり、頭には大きな仮面が付けられている。
生きてはいるようだが、相当弱っているのか動けないようだ。
周囲には微かに揺れながらも直立している人や仰向けで寝ている人がいる。
その人達は全員不気味な仮面で顔を覆われている。
大男は握りしめた左腕を寝ている人の上に差し出しブルブルと震わせる。
しばらくするとその左腕からナメクジのような物が湧き出て、寝ている人の仮面にポトンと落ちた。
落ちたナメクジは仮面上を這い回り額部分にある穴を見つけると、キャッキャと喜びそこから仮面内部に入り込む。
入り込まれた人はしばらくビクビク痙攣していたが、やがてピタッと痙攣が止まり
ジュワァ~ン・・・
と額の穴も閉じていく。
次に男は龍に近寄り不気味な台の上に並べてある仮面を一つ取ると先ほどと同じく、ポトリと緑色のナメクジをその仮面に落とした。
そのナメクジも額にある穴に入ると、やはりジュワァ~ンとその穴は閉じていき、裏面からはニョロニョロと鋭利な蠢く突起物が伸びだした。
それを虚ろな表情の黒い龍の脇腹に押し当てると、ズブズブとうねりながら体内に入っていた。
根元まで押入れ仮面が脇腹に固定されたのを確認すると、その仮面の額部分をピンッ!と弾いた。
すると突然その仮面の額がポワーンと淡い光を放った。
先ほどナメクジを入れられた人の仮面の額もそれに呼応するかのようにポワワ~ンと光りカクカクとした不自然な動きで起き上がった。
そしてまた、次の寝ている人の上に緑色の左手を差し出しブルブルと震わせている。
同じ行動をただ黙々と繰り返して全ての仮面を起き上がらせると、大男は龍の頭上に飛び乗った。
龍の周囲を囲むようにカクカクと微かに動く仮面たち。
龍の頭上からその光景を満足そうに眺めると龍の頭頂にある大きな仮面の額をピンッと弾く。
すると大男の額と龍の仮面がポワ~ンと光り、起き上がった仮面の人達はワサワサと動き出した。
無数の仮面を脇腹に付けられている龍は悲しげに弱々しくグヲォ~ンと咆哮した。




