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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《中秋の長老小屋》

櫂は超長老に呼ばれて、長老小屋に来ていた。

小屋の中にはあの嘉仁がいて、こちらをを見ているようだ。


「こいつが例の修忍か」

櫂の顔をマジマジと見つめる嘉仁。


「櫂、鉢巻を外しなさい」

長老に言われるままに櫂は鉢巻を外す。


「どれどれ、ん~」

そう言いながら櫂の額を触わってくる。むわっと酒臭い息が鼻にかかった。

「ん~まだよく分からんな。もっとはっきり紋様が浮き出たらまた見せてくれ」


超長老は何かを読みながら、

「櫂は霧に育てられたんじゃよな。」

「うん、そうだよ。」

「潜水が苦手なようじゃな。」

「苦手じゃないと思うけど。」

「潜水の試験では溺れたそうじゃな。」

「うん、それはそうだけど。」

「夙川村でも五歳の時に溺れたそうじゃな。」

「うん、」

「小さい頃の記憶は何歳からあるかのう。」

「え~っと、覚えてるのは三歳くらいからかな。」

「お父さんの顔は分かるか。」

「分からない。」

櫂はそういうと俯きギュッと唇を噛みしめた。


超長老の質問は容赦なく続く。

「兄弟は覚えているかのう。」

「霧が従姉だけど、本当の兄弟はいないと思う。」

超長老は何が聞きたいのだろう。


「八歳の時に崖から落ちたんじゃな。」

「うん。」

「それから目が見えんのか。」

「うん。」

超長老の読んでいる巻物には僕の何が書いてあるのだろう。


「霧には今でも紋様が無いのじゃな。」

「うん、鉢巻もしてないよ。」

超長老は巻物を閉じると、宙を見つめ大きく深呼吸をした。


「櫂、お前忍術は得意か。」

唐突に嘉仁が聞いてきた。


「まだ遁術しか習ってないけど、楽しいから毎日練習してるよ。」

「そうか、では印を結ばないでも出来るか。」

「えっやったことないけど、印なしでも出来るの。」

「おう、修行すれば出来る者もおる。試しに火遁でもやってみろ。」

言われるがまま印を結ばずにやってみたが、やはり火遁は発動しなかった。


「違うのかもしれないな。」

「そうか、わざわざ来てくれてありがとう。じゃあ奥の部屋でやるか」

「おう、そう言うと思ってとびきりの般若湯を用意したぞ!」

「櫂、もう帰っていいぞ。」

二人は奥の部屋に消えていった。


櫂が小屋を出ると、囲炉裏の火は一瞬ボワッと大きく燃えたようにも見えた。



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