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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《三年九人》

桜忍者修忍の里では収穫と秋祭りが終わり、赤組になる新米修忍が続々と集まってきた。

今日は新米修忍の点呼に挨拶と歓迎の宴もあるので、いつもと違って午前中の体練はない。

櫂達は点呼に集まってくる修忍達を窓からこっそり覗いていた。


「一、出金村の剣太」

「はい」

呼ばれた修忍は照れ臭そうに、しかし元気な声で答えて、手に持っていた揚げたネズミげを放り投げる。


「二、出金村の巽」

「はい」またしても揚げネズミ。


「三、・・・・」

超長老の点呼に答える新米修忍の顔は一様に緊張している。

不安げに辺りを見回す者もいれば、ただ一点を見据え修行の意気込みが感じられるもの、今にも泣きだしそうな者まで様々だ。


今年は黒組で一番文字が上手い叙里が書記に任命され、それぞれの名前と出身村から届いている台帳を突き合わせ、新たに修忍巻に名前を書き込んでいく。

自分達も二年前はあんな感じだったのだと思うと、懐かしくもあり恥ずかしい気持ちにもなる。

そういえばあの時は最後の九九番目に呼ばれたのが今修忍巻に書き込んでいる叙里だった。

何回呼んでも返事がない九九番に超長老が少し訝しげな顔で「君、名前は」と俯く叙里に直接聞いていたあの光景が昨日のように懐かしい。


「一八、水国村の野洲。」

「はい」初々しい返事と揚げネズミ。


「一九、財賀村の諭田。」返事がない。

「財賀村、諭田。」教忍頭の声が少し大きく響いたが、やはり返事がない。


-また今年もかー


里が少しざわついた。

ここ数年毎年のように神隠しが起こっている。

今年は万全を期して街道の途中途中に戦忍を配置していた筈だったが、それでも神隠しが出たようだ。

点呼が続きざわつきが少し大きくなってきた。


「一九、財賀村の今平」

居ないものは飛ばされ次の者が繰り上げで呼ばれていく。


「はっはい。」

ビックリしたように返事をする今平。

きっと修忍里に着くまで諭田は一緒に居ると思っていたのだろう。


不思議な話だがこれは今回に限らず神隠しに合った者が居なくなったと気付くのは決まって点呼の時だ。

櫂たちの時もそうだったが、桃の村から大人達に守られてきたという松吉でさえそうだった。

木見村から桃達とは別働で五人の大人達が松吉一人を護衛して来たはずなのだが、五人の大人達は里の点呼の時まで松吉が居なくなっている事に気付いていなかった。

たくさんの子供が一緒ならまだ多少はあり得る話かもしれないが、一人しかいない子供が消えたのに大人五人が全員気付かないとはどう考えてもキツネにばかされているとしか思えない。

何かのお呪いの様に今年の新米修忍はみんな揚げネズミをを持参していた。


「九八、木仁村の里久部」

「はい。」


「九九、木仁村の採炭」

「はっはい!」

この修忍は一際大きな声だった。


「百、木仁村の能佐」

返事がない、しばしの沈黙が里を支配する。

先程の大きな返事が逆にこの静けさを際立たせた。


「百、木仁村、能佐。」

教忍、新米修忍達も一様に辺りを見回すが、全員返答が済んでいるようでいくら待っても返事がない。

里中がざわめきたった。

長老達は驚いたように顔を見合わせる。

超長老の顔からはサーッと血の気が引いていくのが分かる。


「能佐、木仁村の能佐は居ないのか。」

集会所前の広場にはつむじ風が舞い、収穫後の水気のない畑からは砂埃が舞い上っている。

どうやら今年も九九人のようだ。

超長老は叙里から台帳と修忍巻を急いで取り上げると、台帳は焚火に投げ込み、修忍巻はしっかりと懐にしまうと、


「修忍の里までごくろう。疲れただろうからしばらく休憩じゃ。」

何が何やら分からず戸惑う新米修忍達。


「後は教忍頭の指示に従うように」

と言い残し全長老は長老館へ向かった。



「あれっ、今年は班分けしないのかな」

呑気に団丸が言った。

櫂は桃と目が合うと、蓮の方を見た。

蓮は黒組戦忍見習いの頭になっている。

みんなの視線が集まっているのを感じたのか、蓮はスーッと大きく息を吸い込み


「三年九人だ」と吐き出すように言った。

黒組副頭の奏以外はみんなきょとんとしている、


蓮は押し黙ったままだったので、しかたないという表情で奏が話し出した。

「黒組は九九人だった、青組も九九人、今年の赤組も九九人、これで三年九人」

奏が何を言っているのかさっぱり分からない。


「言い伝えでは大昔に三年連続で九人の年があった。その年に津島忍者が二派に分かれて他の忍者も巻き込み大戦を始めた。それを知った龍は激しく怒り戦を先導した津島忍者と戦忍者は皆殺しになった。」

「どこかで聞いたような話だね。」

団丸の言葉に、


「そうよ、あの龍神の神話よ。」

「えっ、あの神話なの。」

桃は涙目になってきた。


「超長老は冒頭を省略していたけど、あの神話は三年九人から始まるの。」

「でも、神話だし、もう済んだ話でしょ。」

桃は涙声になってきた。


「そうね、ただの神話のはずなのよ。。。」

奏はため息混じりにそう呟くと蓮の側から外の状況を見つめている。


手を握り合って震える桃と団丸、その横にはいつ戻ってきたのか叙里が何かを考えるように佇んでいた。


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