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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《カイ その3》

周りを見渡すと本当にたくさんの星がいつもよりはっきりと散らばっている。


僕はどこにいるんだろう。


周りには誰もいない。


匂いもしない。


音もない。


ただ、青いお月様だけが目の前にぽっかりと浮かんでいる。。


手を伸ばしてみたけど触れない。


カ・イ・


誰かに呼ばれた気がする。


カ・イ・


見回しても誰もいない。


カ・イ・


今度ははっきりと聞こえた。


やはり周りには誰もいないので声だけに集中した。


カ・イ・


初めて聞くけど、懐かしい、優しい声だ。


カ・イ・リ・ウ・カ・イ・リ・ウ・カ・イ・カ・イ・カ・イ・・・リ・ウ・・・


ずっと僕の名を呼び続けているようだ。


優しい声に意識を集中すると、


やがて僕を呼ぶ声と一緒に、祭りのような賑やかな音も聞こえてきた。


ふっと誰かに触られているような掌の暖かさが額に伝わってきた。


しだいに優しい声と賑やかな音がだんだん小さくなっていく、


プカプカ・プワ~ン・と気持ちよくなってきた・・・・・


どれくらい経ったのだろうか。


オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ・オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ・・・・・


呪文のような声が聞こえてくる。


オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ・・・


プカプカが段々消えてきた。


遠くで誰かが呼んでいる気がする。


「カイー」聞きなれた声に集中すると、


グワ~ンと青いお月様に引っ張られた。


青いお月様がズンズン大きくなる。目の前一杯に大きくなって・・・


ぶつかる~っと強く目を閉じた瞬間に目が覚めた。



「あれっ。」


目が覚めたはずなのに、目の前が真っ暗だ。

まぶたをパチクリしてみる。

ちゃんと動いている感覚があるのに何も見えない。


手を動かし目を触ってみようとしたら、ズキンと右肩に痛みが走った。

どうやら右肩を怪我しているようだ。


今度は左手で目を触ってみることにした。

あまり力が入らず自分の手ではないような気がしたが、ちゃんと動いてくれた。

まぶたを触って指で動かしてみたけど何も起きない。

左手の指には顔を触っている感覚があり、顔には左手の指で触られている感覚がある。


でも何も見えない。


痛い右肩に注意してゆっくり右手で自分の胸やお腹を触わり、左手で顔中を触ってみた。

おでこに何か付いている。

葉っぱのような感触のそれを取ろうとしたら


「イタッ!」額に激痛が走った。

額には何かが張り付いているようだ。


いったい何が起きているのだろう。


目を大きく開いて周りを見回しているつもりだが、やはり何も見えない。


左手で辺りを触ってみる。

体の下には畳があり、その畳は木の床に敷かれている。


微かにキリの匂いもする。


痛い右肩を庇いながら右手を横に伸ばしてみる。

木の床の先にもう一枚寝床用の畳がある。

右に寝返りをして畳の匂いを確かめた。


やっぱり甘く優しいキリの匂いだ。


ここは僕の家に間違いない。

体を起こすとあらゆる関節と筋肉がギクシャクして動きにくいし頭もクラクラする。


フラフラと体が安定しないので、また横になりしばらくそのまま考えた。


「えいっ!」

と目を直接触ってみたら眼球がヒリヒリして指で押されたズーンという感覚が残った。

いつもの夢とは違う、ここが現実なのは確かに分かった。


微かに人の足音や虫の声が聞こえるが、真っ暗で何も見えない。

本当に何が起こったのだろう。


ガサッザザー戸の開く音がした。


ガシャーン、鍬を落としたような音に、一瞬ビクッとしたが、


「カイ」キリの喉奥から振り絞ったようなこもった声が聞こえた。


ダダダダダッとキリが走ってくるような音がする。


「カイ!」


「キリ」


勢いよく体を起こしたら急にクラクラして力が抜け、そのまま後ろに倒れたが、


フワ~ッと優しく包み込まれた。

この匂いと心地いい感覚はキリに抱きしめられているんだろう。


「キリ、、、」

目が見えない事を伝えようとしたが、頭をナデナデしながら優しく抱きしめてくれている。


アレッアレアレッ、温かい水分が顔にかかってきた。


鼻水か涙か分からないけどキリの体液で僕の顔中がベトベトになっているようだ。


でもそのベトベトが全然嫌じゃなかった。

むしろ嬉しいくらいだ。

キリの柔らかい胸に包まれて目が見えないという不安感は全く感じなかった。


後から聞いた話だけど、キリはハリ忍様とキュウ忍様の治療を受ける為に、僕を背負いながら険しい山道を何度も通ってくれたようだ。


村一番の美人だったキリが自分の身繕いは一切せずに僕の看病に掛りっきりで、村のみんなはキリも倒れてしまわないか心配だったようだ。


ついでに聞いた話ではキリ以外の全員が落下した僕を見て死んだと思ったらしい。


密集した木がクッション代わりになったのも幸運だったようだけど、カサカサのキリの手や顔を触ると少し寂しくなった。


でも、こんなになるまで僕を看病してくれたんだな~と思うと、そのカサカサしたキリの皮膚の感触が、指先から心臓に脳に伝わってきて、幸せなキュイ~ンが体中を駆け巡った。



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