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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《椛忍者修忍の里》

のどかな田園を囲む丘の北側には丁寧に手入れされたイチョウやカエデの木々が並んでおり、少し降りた南に面した緩やかな斜面全体は菜の花に覆われていた。

ポカポカした初秋の日差しが里全体を包んでいる。


椛忍者の修忍里ではいつもと同じように、決められた農作業や修行をこなしていた。


ザクッザクッ刺々しい鉤状の引っ付き虫が群生している丘の西側の急斜面を、大男の疑心はお構いなしに登っていく。邪悪な漆黒の目には憎悪と復讐の強い意志が宿っている。


疑心は椛忍者の里を見下ろせる小高い丘の上に立と、右手を天に掲げ不思議な呪文を唱えだした。

すると空はにわかに雲に覆われ、その雲の隙間から黒い龍が現れ里の上で旋回を始めた。

いつもの平和な里の昼下がりは突然の出来事に騒然とした。


「りゅっ龍だ。」


「黒龍だ。」


「隠れろ~。」


「逃げろ~。」


カンカンカンカンカンカンカンカン・・・・・


非常事態を告げる鐘が里中に響き渡る。

初めて見る大きな龍の出現に怯え逃げ惑う里人達、その中でくすんだ紅葉色の忍衣を纏った椛戦忍達は各所で小集団になり戦闘態勢で様子を伺う。


「ガオワァ~~!」

上空を旋回していた龍が突然吹雪を吐き出し、南斜面の一面の菜の花は一瞬で凍りつく。


「ガオワァ~~・グワワァ~~」

龍は狂ったように吹雪を吐き続ける。


一吹きする度に畑や小屋が瞬間的に凍りついた。

椛戦忍達は個々に弓矢や手裏剣で応戦するが、全く歯が立たない。


ピヒョヒョ~

椛戦忍頭の笛の合図で、戦忍達は一か所に固まり阿吽の呼吸で同時に龍の両目を目掛けて一斉に矢を放った。


次の瞬間、

「グワオワオワァーー」大きく開いた龍の口から猛列な吹雪が吐き出され、放った弓矢もろとも椛戦忍達は一瞬で凍りつく。


疑心は凍った菜の花を飛び越え一気に里へ降り立つと、戦忍を失い恐怖で逃げ惑う里人の群れに突入した。

その逃げ惑う群衆を大柄な体躯でヒラヒラと華麗にかわしながらも、チョンチョンと里人の首元を左手の指で突いて回る。

すると突かれた里人は金縛りにあったように動けなくなった。

生き残った全ての里人を金縛り状態にすると、疑心はまるで近所を散歩でもするかのように、ゆっくりと里を一周する。

途中で物陰に隠れて怯えている里人を見つけるとチョンと優しく首元に触れて回った。

しばらくすると長老達の首元には神代文字で死と書かれた痣が、若い女や子供、修忍達には従という痣が浮かび上がってきた。


「うひょひょ~」

老法師が低空旋回中の黒龍から凍り付いた椛戦忍の真ん中に飛び降りた。


バ~ンと両足で着地すると、足が痺れたのか、

「あひぃ~ん、びひょ~ん」

意味不明な言葉を発しながら両足を擦っている。


「何を見てるのじゃ~」

凍り付いた戦忍達のまだ生きているような視線が法師に集まっている。

その中でおそらく戦忍頭であろう笛を咥えた男を見つけると、

「生意気な目じゃなのう。」

そう言うとその男の額をチョンと指先で突いた。


すると額から足もとまでがバラバラと砕け散り、その破片が凍ったまま地面に散らばった。

その中にはまだ意識があるような凍った目が法師を睨みつけるように転がっている。


ブチャッ!

その目玉を踏みつけると残ったもう一方の目を拾い上げ砂を払うとパクッと口に放り込んだ。、


「クチャクチャクチャ、んんっ、これはまじゅいっ」

ぺっと吐き出し、次の凍った戦忍に近づいた。


「次はこいつじゃな。」

次の戦忍の額もチョンと突くと先程と同じく、額から足先までバラバラと砕け散った。


疑心は里を回り終えると、目を閉じて深く呼吸をしてから両手を頭上に掲げ呪文を唱えた。

その呪文に呼応するように年長者の首元に現れた死の痣は徐々に蠢きだし顔中がどす黒く変色してきた。

金縛り状態の里人たちには意識があるようで、その光景を見る目は恐怖に支配されているが、目蓋すら閉じることができないようだ。


さらに呪文を続けると、それに反応しているかのように頭が膨張し、呪文の勢いが増してくると膨れ上がった頭部はその圧力に堪え切れなくなった順に、

バチャーン・バチャーンと至る所で破裂しだした。

破裂した頭が地面に飛び散ると、そこにはナメクジのようなものが死肉を貪るように這いずり回っていた。


グヲォ~ン!


上空では脳天を大きな仮面に覆われた黒龍が、自分の意志ではどうにもならない運命を嘆くような悲しい雄たけびをあげながら旋回を続けている。



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