表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
38/92

《初夏の水車小屋》

戦忍見習いとなった修忍は十五歳の春まで更に本格的な修行を続ける。

なれなかった修忍は常忍見習いとして午前中は畑仕事や家畜の世話、見習い教忍、見習い鍼忍、見習い灸忍の修業の補助も務め、午後からは戦忍の修行を手伝いながら、空いた時間で各自が鍛錬を続ける。


戦忍の修行は辛いけど新たに加わった遁術の実技修行はとても楽しかった。


座学の時は卑怯な技だと思って真剣に聞いてなかったが、実際に印を結び綺麗に遁術が発動すると、時折言霊が飛んで精霊が踊りだし、スカーッとした爽快感が体を貫く事がある。

この飛んだり踊りだしたりする様は、櫂の感覚視力世界での事で実際にはそんな物は蓮にも見えないようだ。

遁術にも木火土金水それぞれの術があり、術の名前を覚えるのだけでもひと苦労だったが、とにかく楽しくて気持ち良くて櫂は暇があれば遁術の練習を繰り返していた。

櫂はいつか教わるであろう咸術の修業が待ち遠しくて仕方なかった。


蒸し暑い初夏の夕食後に水車小屋の横で水遁の練習をしていると。


「櫂の遁術は本当に上達しましたね。」

振り返ると叙里がいた。


「うわっ、叙里、何してるの。」

本当に気配を消すのが上手い、といっても叙里の場合は無意識にやっているのだが、


「そう言えば、櫂は津島忍者の昔話を知らなかったのですよね。」

「えっ、まぁ、そうだけど、」

「あの昔話には不思議なことが多いのです。」


-いったい叙里はこんなところで何をしていたのだろう-


「今から船を流しますね。」


少し下流に帆の付いた一尺ほどの船を浮かべた。

船は風に押されて徐々に水車小屋に近づいてくると、川幅が狭くなり流れが強くなってきた所でそれ以上進まなくなったようだ。


「こういうことです。」


何だかさっぱり分からない。


「どういうこと。」

「船はここで流れが強くなったので止まっています。」

「はぁ。」

叙里は何が言いたいのだろう。


「謎その一、船は山には登れません。」

「そりゃそうだけど。」


「謎その二、村ごとに内容が違います。」

「まあ確かにそうだけど。」


櫂は津島忍者の昔話が大好きで、まだ修忍の頃に小屋で桃、団丸、叙里に何度も聞いていた。

内容はだいたい同じだが微妙に違っており、特に皆殺しの様子は村ごとに全く違うものになっていた。


桃の村では~津島忍者は西の海から大きな船でやって来て、忍者の首を斧で切り落とし皆殺しにして砂金を根こそぎ採り尽くすと東の山に去って行った~


団丸の村では村人の頭が大木で潰されていた。


そして叙里の村では生きたまま火あぶりになっていた。


そこだけ聞いたら確かに全部怖い話だが、全ての村で二度までは許されていた。

それを無視して醜い争いをした罰が当たっただけなので、櫂にとってはむしろ優しくも感じられた。


「そうです。殺され方が同じなのです。」

「えっ、全部違うんじゃなかったっけ。」


「いえいえ、全部相克関係と同じなのです。」

「そうこく、、」


「そうです。水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つ」

「はい、、」


「蓮や奏にも昔話を聞きましたか。」

「確か、蓮は生き埋めで、奏は水に沈められた、だったかな。」


「その通りです。火系の奏の村では水で殺され、金系の僕の村では火あぶり、木系の桃の村では金属の斧で、土系の団丸の村では大木で潰され、水系の蓮の村では土に生き埋め。」

「本当だ。叙里はいつ気付いたの。」

櫂の目が興味津々でキラキラしだした。


「櫂がみんなに昔話を聞いてるのを一緒に聞いてたら気付きました。」

「叙里すごい!それでどうなるの。」

「今までは山に登れなかったのです。」

そういうとズカズカと川に膝までつかり、流れが強くなったあたりで右往左往している船を手で押して動かしながら、


「押されるか、引っ張られるか、自分で動くか。」

船を一旦川から出して、


「櫂、このロウソクに火を付けてもらえますか。」

「うっうん、いいよ。」

火遁の印を結びブツブツと唱え

「エイッ」

その指先から小さな火が出てロウソクへ飛び移った。

叙里はそのロウソクを船の中に入れたようだ。


「櫂、ちょっと見てて。」

叙里はその船を持って最初に置いた流れが緩やかな下流に浮かべた。

先ほどよりやや早くなった船は右往左往していた場所に近づいてきた。

火が灯っているせいか櫂にもぼんやりと船の動きがわかる。


「よし、いけ~」

普段は聞けない叙里の大声に櫂は驚いた。

そして船は流れが速くなっているであろう場所から更に上流へ進んでいるようだ。


「やった~。」

叙里が抱き着いてきた。


「やりましたよ。」

叙里は涙声だ。


「これで昔話に信憑性がでました。」

櫂がキョトンとしていると、


「ふっ船は~山に登れるのです~。」

叙里は櫂の両肩を掴み震える声で話し出した。


「押されるか、引っ張られるか、という他力でしか動かないなら、昔話は後世の創作かもしれません。でも自分で動けるなら、村ごとの特性も含めて津島忍者の自作の可能性があります。」


櫂にはよく分からないが、早口で捲し立てる叙里の中では津島忍者の信憑性が増したのであろう。

その前の相克の話をもっと聞きたかったのだが今は聞けそうになかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ