《龍神の祠前 櫂》
櫂は何が起きたのか、さっぱり理解できなかった。
目の前には団丸がいる。
巨体がぶつかってきた脇腹はずきずきする。
本当に加減というものを知らない奴だ。
脇腹を擦りながら状況を把握するために脳がフル回転するが、いくら考えても状況が分からない。
験厳洞窟の試練はどうなったのだろうか。
桃、団丸、叙里は合格したのか、自分はどうだったのか。
混乱した頭で周りを見ると七人いるようだ。桃、団丸、叙里の他に蓮と奏の氣も感じる。
あとの二人はおそらく教忍頭と超長老だろう。
何故だろう黒組五人の氣配がいつもと少し違うようだ。
目を凝らすと額辺りが金色に輝いている。
ハッと我にかえり自分の鉢巻を触ってみると、やっぱりただの鉢巻だった。
よく分からないが自分は戦忍になれなかったようだ。
悔しさを噛みしめ体を起すと、横にいる団丸の額の金色がやけに眩しい。
いつも通りの屈託のない団丸の笑顔オーラが、今日は辛かった。
それでも一生懸命作り笑顔で
「団丸、おめでとう」と声を絞り出した。
腹に力を込めて立ち上がり
「桃おめでとう、叙里おめでとう」
半分本気で半分嘘で、でも精一杯のおめでとうを四人組のみんなに言った。
振り返り蓮にも声をかけようとしたが、なかなか言葉が出てこない。
蓮は胆力のある目で諭すように僕を見つめているのが分かる。
厳しいけど優しい目で僕に語りかける気持ちが伝わってくる。
蓮は本当にズルい奴だ。
声帯の代わりに涙腺がヒクヒクシしだした。
ヤバイこれ以上に蓮と見詰め合ったら崩壊する。
大きく氣を丹田に吸い込み、凛と背を伸ばした。
すると「鉢巻を外しなさい」超長老が櫂に言った。
櫂は何だろうと思ったが、言われるままゆっくりと鉢巻を外した。
鉢巻を外すと急に悲しさと悔しさが込み上げてきて、とうとう涙腺が崩壊した。
声を押し殺してただ泣いた。
周りに構わずただ泣いた。
肩が痙攣しているのが分かる、泣くと四人組みに気まずい空気が流れるのも分かっている。
きっと桃の目は既に涙でいっぱいだろう。
叙里は心で泣いているだろう。
団丸は・・・
みんなには済まないが今は込み上げる気持ちを抑える事が出来なかった。
すると突然「ウワ~ン」まるで龍の雄たけびの様に馬鹿でかい団丸の鳴き声だ。
そのお蔭で少し冷静になり顔を上げると、教忍頭が近づいてきて額をじっと見ているようだ。
昔の怪我の跡がそんなに気になるのだろうか。
まだじっと見ているので何か付いているのかと思い額を探ってみたが、何も変わったところはないようだ。
「長老」教忍頭は超長老に何かを伝えたかったのか。
超長老も櫂の前に来て額を見つめた。
超長老の独特な匂いが鼻についた。
そういえばこんなに近くで超長老を見たのは初めてだ。
ただ額を見つめられるだけでも妙に緊張する。
「う~ん・・・」超長老は何かを考えるように遠くを見ながらつぶやいた。
「額の印が戦忍のあかし」そう言って手を広げ、教忍頭に何かを促す仕草をした。
「おめでとう」教忍頭は桜の鉢金を櫂に手渡した。
ポカンとする櫂の横で
「ウワウワ~ン」より一層大きくなった団丸の泣き声が響き渡った。




