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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《お化け》

秋の夜長に団丸が唐突に

「お化けって本当にいるのかな。」


「いません。」

叙里の即答は予想通りだ。


「私昨日見たかもしれない。」

「え~っ!」

桃の予想外の答えに全員の視線が集まった。


もじもじ話し出す桃、

「昨日の夜、厠に行ったら、」


一同、桃を見つめて次の言葉を待っている。


「ぎゃーって蓮が飛び出してきたの。・・・で、その顔は真っ青で、」

「ちょっと待ってください。月明りで何で顔の色が分かったのですか。」

叙里、その突っ込みはいらないよ、櫂の心が呟いた。


「分かるわよ。」

ムッとして答える桃。

「それは無理です。色は光の反射で、」


ほっておくと長くなりそうなので櫂が割って入った。

「叙里、桃、そこはいいから。それでどうなったの。」


ムッとしつつも桃は昨夜の事を思い出しながら、

「あの蓮が、怖がるなんて何だろうと思って、ゆっくり厠の戸を開けてみたら。」


ゴクリ、団丸は唾を飲み込む音もデカい。


「焦げた匂いと煙がモワ~ンと立ちこめていたの。」

次の言葉を待っているが、なかなか出てこない。


「お化けはどこなの。」

団丸がシビレを切らせて桃に聞く。


「きっと蓮はその煙の中にお化けを見たのよ。」


微妙な空気が流れた。


・・・・・


「結局、桃は見てないわけですね。」


思った通り叙里が突っ込んだ。


「でも、あの蓮が血相を変えて飛び出してきたのよ。怖いお化けを見たに違いないわ。」

桃が確信に満ちた真顔で話すと。


「そうだね、蓮が怖がるなら、きっとそうだよ。」

団丸はブルブル震えている。

叙里が何か言いたそうだが、その前に櫂が口を開いた。


「それはきっと蜘蛛だよ」


思わぬ返答に桃、団丸、叙里はキョトンとした顔で櫂を見る。


「蓮が火遁で蜘蛛を焼いたんだと思う。」


「焼いたって、何で、」

「すげぇ~蓮はもう火遁ができるのぐぐぐっ。」

話している最中に割って入った団丸の口を桃は右手で押しながら、


「何でそう思うのよ。じゃあ、あの悲鳴はなんだったの。何で蜘蛛を燃やすの。」

「蜘蛛が大嫌いだからだよ。」


「えっ、でも、蜘蛛ってそこら中にいるでしょう。」

「そうだよ、だから蓮はいつも集中力が凄いんだ。」


「見つけたら全部殺すの」

「違うよ、いつもは周りを警戒して蜘蛛に近づかないようにしていて、それでも不意に目の前に表れた奴だけだよ。」


「だって、厠には普通に居るわよ」

「だからいつも長い棒を持ち歩いているんだ。」


「えっ・・・」

桃は意味が分からないようだ。


「蓮は蜘蛛に触れないからその棒で追い払うんだよ。きっと昨日は急いでて棒を忘れたんだと思うよ。」

あの蓮が本当にと、櫂を信じない桃と団丸の目。


すると叙里が、


「では試してみましょう。」

「ちょっ・・・」

櫂はちょっと待ってと止めに入ろうとしたが、叙里は早口で続けざまに、

「蓮が蜘蛛に驚いたら、お化けは居なかったということでいいですね。」


「いいわよ。」

桃は同意する。


「よし、出発!。」

団丸は超乗り気だ。


三人は勢いよく小屋を出た。


「止めよう、蓮が可哀相だよ。」

櫂はそれを止めに三人を追って出た。


しかし三日月の夜道では櫂が三人に追いつけるはずはなく、あっという間に三人の氣が遠くへ消えていく。

しかたなく頭の中の地図を頼りに歩いていくと。


「うぎゃ~。」


蓮の小屋から叫び声が聞こえた。


ダダダダダ~っと三人がこっちに逃げてくる。


「櫂も逃げるわよ。」


桃に手を引かれながら逃げる櫂。


「こら~」


怒った蓮の声が後方から聞こえてくる。

本気で追いかけてくる蓮に敵う訳はない。

きっと直ぐに捕まると思ったが。


「では、もう一匹。」

叙里が一際大きな蜘蛛を蓮にヒョイと投げつけた。


「ウワ~っ」

またしても蓮の悲鳴だ。


「蓮、ごめ~ん」

櫂も叫びながら一緒に逃げて行った。


結局お化けはどうなったのか、なんでいつもこうなるのだろう。


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