《お化け》
秋の夜長に団丸が唐突に
「お化けって本当にいるのかな。」
「いません。」
叙里の即答は予想通りだ。
「私昨日見たかもしれない。」
「え~っ!」
桃の予想外の答えに全員の視線が集まった。
もじもじ話し出す桃、
「昨日の夜、厠に行ったら、」
一同、桃を見つめて次の言葉を待っている。
「ぎゃーって蓮が飛び出してきたの。・・・で、その顔は真っ青で、」
「ちょっと待ってください。月明りで何で顔の色が分かったのですか。」
叙里、その突っ込みはいらないよ、櫂の心が呟いた。
「分かるわよ。」
ムッとして答える桃。
「それは無理です。色は光の反射で、」
ほっておくと長くなりそうなので櫂が割って入った。
「叙里、桃、そこはいいから。それでどうなったの。」
ムッとしつつも桃は昨夜の事を思い出しながら、
「あの蓮が、怖がるなんて何だろうと思って、ゆっくり厠の戸を開けてみたら。」
ゴクリ、団丸は唾を飲み込む音もデカい。
「焦げた匂いと煙がモワ~ンと立ちこめていたの。」
次の言葉を待っているが、なかなか出てこない。
「お化けはどこなの。」
団丸がシビレを切らせて桃に聞く。
「きっと蓮はその煙の中にお化けを見たのよ。」
微妙な空気が流れた。
・・・・・
「結局、桃は見てないわけですね。」
思った通り叙里が突っ込んだ。
「でも、あの蓮が血相を変えて飛び出してきたのよ。怖いお化けを見たに違いないわ。」
桃が確信に満ちた真顔で話すと。
「そうだね、蓮が怖がるなら、きっとそうだよ。」
団丸はブルブル震えている。
叙里が何か言いたそうだが、その前に櫂が口を開いた。
「それはきっと蜘蛛だよ」
思わぬ返答に桃、団丸、叙里はキョトンとした顔で櫂を見る。
「蓮が火遁で蜘蛛を焼いたんだと思う。」
「焼いたって、何で、」
「すげぇ~蓮はもう火遁ができるのぐぐぐっ。」
話している最中に割って入った団丸の口を桃は右手で押しながら、
「何でそう思うのよ。じゃあ、あの悲鳴はなんだったの。何で蜘蛛を燃やすの。」
「蜘蛛が大嫌いだからだよ。」
「えっ、でも、蜘蛛ってそこら中にいるでしょう。」
「そうだよ、だから蓮はいつも集中力が凄いんだ。」
「見つけたら全部殺すの」
「違うよ、いつもは周りを警戒して蜘蛛に近づかないようにしていて、それでも不意に目の前に表れた奴だけだよ。」
「だって、厠には普通に居るわよ」
「だからいつも長い棒を持ち歩いているんだ。」
「えっ・・・」
桃は意味が分からないようだ。
「蓮は蜘蛛に触れないからその棒で追い払うんだよ。きっと昨日は急いでて棒を忘れたんだと思うよ。」
あの蓮が本当にと、櫂を信じない桃と団丸の目。
すると叙里が、
「では試してみましょう。」
「ちょっ・・・」
櫂はちょっと待ってと止めに入ろうとしたが、叙里は早口で続けざまに、
「蓮が蜘蛛に驚いたら、お化けは居なかったということでいいですね。」
「いいわよ。」
桃は同意する。
「よし、出発!。」
団丸は超乗り気だ。
三人は勢いよく小屋を出た。
「止めよう、蓮が可哀相だよ。」
櫂はそれを止めに三人を追って出た。
しかし三日月の夜道では櫂が三人に追いつけるはずはなく、あっという間に三人の氣が遠くへ消えていく。
しかたなく頭の中の地図を頼りに歩いていくと。
「うぎゃ~。」
蓮の小屋から叫び声が聞こえた。
ダダダダダ~っと三人がこっちに逃げてくる。
「櫂も逃げるわよ。」
桃に手を引かれながら逃げる櫂。
「こら~」
怒った蓮の声が後方から聞こえてくる。
本気で追いかけてくる蓮に敵う訳はない。
きっと直ぐに捕まると思ったが。
「では、もう一匹。」
叙里が一際大きな蜘蛛を蓮にヒョイと投げつけた。
「ウワ~っ」
またしても蓮の悲鳴だ。
「蓮、ごめ~ん」
櫂も叫びながら一緒に逃げて行った。
結局お化けはどうなったのか、なんでいつもこうなるのだろう。




