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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《土練》

土練の初日は土渡りからだった。


この修業は泥のような地形から砂漠のような地形までまとめて一気に駆け抜ける。

夙川村には泥場しかなかったので、慣れていない砂場駆けは相当疲れた。


片足が砂に潜らないように地面と平行に優しく着地し、そのまま足の裏全体で引き上げるように蹴り出す。

それを素早く行うのでモモとお尻の筋肉がパンパンになる。

水渡りと忍者駆けを混ぜたような走り方だが、下が乾燥しているので体重のかけ方が微妙に違う。


もちろん土系村の出身者が上位を占めるのだが、今回も一位は蓮だった。

木練と火練の時は蓮が一位になるとオーッと歓声が起こっていたが、土渡り初日の今日はそれが当然のような空気になっていた。

逆に水系の蓮が行う水渡りはどんなに凄いのだろうという、ざわめきの様なヒソヒソ話が広がった。

そんな中、櫂は叙里がどんなズルをするのかと少し期待してしまったが、結局ビリから二番目の九八位だった。

叙里もどうやら土渡りでのバレない攻略法は思いつかなかったらしい。

今回も初日の最下位は生まれつき目が全く見えない勇雅で、ぼんやりと光と色を感じる櫂はビリから三番目だった。


櫂にとってこの順位は初めてだった。


初日の一回目はこういう事もあるが、今までは初日でも最後になれば遅くても八〇位以内には入っていた。

やはり無機質相手の修業は自分には難しいのかもしれない。

急に足元の質感が変わるとうまく対応できない。

きっと目が見えていればこんな風にはならなかったのにと思っていると、


「櫂、明日からも精一杯やろうね。」


勇雅がポンと肩をたたいて、くしゃっと笑っていた。


「ゆっゆうが~」


櫂は勇雅に抱きついて泣いてしまった。


勇雅はどんな修業でも最初の数日から数か月はいつも最下位だ。

その順位が相当に悔しいのは木渡り後の鍼忍小屋で聞いていた。

でも全くへこたれずに今出来ることを精一杯やっている。


人を羨んでも何にもならない、目が見えていればこんな順位じゃなかったのに、目が見えていれば・・・


一瞬でもそんな風に考えてしまった自分が情けなくなった。


勇雅は目が見えないことを受け入れて今出来ることを全力でやっている。

それだけ頑張っても最後に九十位に入るのがやっとだが、そんな事を里に来てからずっと繰り返し続けている。

しかも座学ではいつも一位争いをする位に優秀だ。それがどれ程大変な事だったのか櫂は初めて気が付いた。

そして自分の小ささと勇雅の大きさ凄さが改めて分かった。


その凄い勇雅の目標は鍼忍で一五歳の帰郷時には自分の村に帰る前に一緒に鍼忍里に寄ろうと約束していた。

鍼忍里には伝説の鍼忍和一の銅像があり、その鍼忍は全盲だったが唐から伝わった鍼術を改良して、あのトントンと叩いて刺す和式鍼術を考案したそうだ。


櫂は八歳の大けがで鍼忍様に治療をしてもらったが、そういえばその時の鍼忍頭も全盲だった。

意識が戻ってから初めて鍼忍頭から施術を受けた時は、何をされるのか不安で仕方なかったが、いざ受けてみると全てが流れるように手際が良く、目が見えないのにツボも本当に正確だった様で見る見るうちに体が軽くなり、徐々に光が見えてきた。

修忍里でケガをすると症状によって鍼忍様か灸忍様に施術を受けるのだが、時々鍼灸忍見習いの練習台になる時がある。

目が見える見習いでも痛くて暑くて体が重くなり最悪だった事がある。

最初は技術を覚えるのに必死で余裕が無いのも分かるが、そんなにオドオドした氣が体から出ていると治療を受ける側も自然に身構えてしまうに違いない。

何回か練習台になるうちに鍼灸治療には視覚や聴覚より触覚や氣覚の方が大事らしい事がよく分かった。


きっと勇雅だったらあのホンワカした氣で全てを包み込んでくれるのだろうなと思うと、勇雅の目標が鍼忍なのは本当に天命なのかもしれないと改めて実感した。


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