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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《カイ その1》

よ~い よ~い よ~い よやっせ~ 

よ~い よ~い よ~い よやっせ~


ド~ン ピーヒャラ ド~ン ドド~ン 

ド~ン ピーヒャラ ド~ン ドド~ン


威勢のいい掛け声と太鼓、笛のリズムが遠くから近づいてくる。

秋祭りが始まったようだ。


かまど横の小さな突き上げ戸を開け、背伸びして窓から外をのぞくと、集会所の回りに沢山の村人が集まっているようだ。


気持ちいい月明かりの中で目を閉じると、あぜ道を無数の松明に囲まれて俵神輿がより一層明るく輝いている懐かしい光景が浮かんできた。


この日ばかりは村人総出で秋の収穫に感謝し、甲種忍者の誕生を祈って、大声で笑って話して、たくさん酒を飲む。


いつもは土と草の匂いと虫の音が村を覆っているが、今日だけはそれに酒の匂いと祭囃子が重なって賑やかな祭りの雰囲気を醸し出している。


秋祭りの日には大人達に混じって子供たちもチョットだけお酒を飲む。

僕も六歳の時に飲んでみたけど、正直なところちっとも美味しくないかった。

それでもみんな楽しそうだったので、調子に乗って二杯三杯と飲んでみたら、景色がグルグル回りだし、頭がガンガンと痛くなり、何故か悲しくなり、いつの間にかキリに抱きついていた。


「何も怖くないよ、酒神様は子供が好きじゃないだけだよ。きっとカイも大人になったら酒が楽しくなるよ」とキリはぎゅっと抱きしめながら頭を撫でてくれた。


本当に頭が痛くて気持ち悪くて、もうゼッタイに酒は飲まないと決めたが、今の苦しみをどうしていいのかさえ分からなかった。

必死にキリに抱きついていると、甘い匂いと心地好い暖かさの柔らかい胸に包まれて、いつの間にか寝てしまった。


お臍の奥から広がってくる幸せなキュイ~ンという感覚に包まれながらその時に初めて不思議な夢を見た。


夙川村は三十軒ほどの集落で、真ん中に集会所があり、その周囲一面に田んぼがあり、その中を格子状のあぜ道が走っている。


広い田んぼをぐるっと村道が囲み、村道沿いに規則正しくかやぶき屋根の家が並んでいる。毎日見慣れた景色でも、春・夏・秋・冬・それぞれに心がキュンとして綺麗だな~と思う瞬間があった。


子供たちの遊び場は家の外側のあまり手入れのされていない里山と川だった。

ふだん村人はあまり大きな声で話をしないので、川のせせらぎと鳥や虫の声と時々聞こえる農作業が村の声のようだ。


小さいころは友達と悪ふざけをして里山で大声で遊んでいると、必要以上に大きな声で喋ってはいけないよと、よく言い聞かせられたものだ。

そんなカイも今年で十歳になり、祭りが終わればしゅうにんの里へ行くことになる。


よ~い よ~い よ~い よやっせ~ よ~い よ~い よ~い よやっせ~

ド~ン ピーヒャラ ド~ン ドド~ン ド~ン ピーヒャラ ド~ン ドド~ン


掛け声と太鼓と笛の音がいよいよ近づいて来る。


カイの心臓はドクドクと耳で聞こえるくらいに大きくはっきりと打ち始めた。


祭りの行列が家の前まで来ると、パタリと音が止まり、それを合図にキリがスーッと戸を開けた。

カイは胸の鼓動が最高潮に達し、体が固まって足が踏み出せない。


その時、ポンッとキリが背中を押した。



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