《白虎神社》
寝苦しい大暑の夜、櫂達四人組は昼食時に黄組が噂していたあの話で盛り上がった。
里の四方に神社があり、それぞれの神殿前には二体一組で怖い石像がある。
その中でも一番怖い顔をしているのが、西の白虎神社にある虎の石像らしい。
一年で一番暑い日の夜にその四方の石像達が笑うというのだ。
どうせなら一番怖い石像の笑うところを見てみようとの団丸の提案に
「そんなことはあり得ません。」
叙里は一蹴する。
じゃあ見に行こうと言うことで、櫂と桃も無理矢理に連れて来られた。
「なんで私が来なくちゃいけないのよ。」
泣きそうな声で桃が呟く。
「桃ごめんな、だって叙里が、」
団丸が話し始めたのを遮り、
「何を言いますか、団丸が無理矢理連れて来たのでしょ。」
「だって叙里がみんなに嘘を吐くかもしれないじゃないか。」
「僕は嘘つきませんよ。」
「じゃあ迷彩草履はなんだよ。」
「あれは嘘じゃなくて黙っていただけです。」
「だったら本当に石像が笑っても黙ってるかもしれない。」
「それとこれとは違うと思いますが。」
二人のやり取りにシビレを切らして
「あの~、何で僕が来たのかな。」
「だって私も行くのに櫂が来ないのは不公平でしょ。」
泣きそうな桃が櫂の袖を掴んだまま訴えた。
「でも暗いし見えないし、僕は必要ないかと思うよ。」
「だって、だって。。。」
桃が本当に泣きそうになる。
「櫂、見損なったよ。」
「そうですよ、櫂はそんなに冷たい人だったのですね。」
「ちょっと待ってよ。」
櫂には何で団丸と叙里の二人がかりで責められるのか理由が分からない。
「まぁ、もう直ぐそこなので一緒に行きましょう。」
叙里のよく分からない説得に仕方なく付いて来た。
しばらく歩くと、
「あった!」
こんな時には団丸の大声は心強い。
すぐさま石像を調べる叙里。
「やはり、笑ってませんね。」
「いや、今から笑うんだよ。」
団丸はひかない。
「今からって、ではいつまでここに居るのですか。」
「笑うまでだよ。」
「だからそれはいつですか。」
埒が明かない二人のやり取りに、
「も、もう、帰りましょう。」
桃は石像が怖いようで本当に半泣き状態だ。
「いやもうすぐ笑うから。」
団丸は石像の脇腹辺りををくすぐっているようだ。
「団丸、何しているのですか。」
「いや~切っ掛けが必要かと。」
団丸の考えていることは単純で分かりやすいが、時々目を疑う行動をする。
「腋でもダメなら喉はどうだ。」
本当にめちゃくちゃだ。
「きゃ~」
桃が急に何かに驚いた。
「ワァッ」ゴキッ!
三人はその桃にびっくりした。
今、変な音がしたような気がするが、暗いと無機質のものは全く判別できない。
「だっ団丸~。」
叙里の嫌な声がする。
「えっ、いや~。」
桃の声だ。
いったい何があったのだろう。
「ごめん、首が取れちゃった。」
どうやら団丸が石像を壊してしまったようだ。
さっき驚いた時に、石像を押してしまったのだろう。
その衝撃で首から上がゴロッと地面に落ちてしまったらしい。
それにして驚いて寄りかかっただけで石像は壊れるものなのだろうか。。。
本当に団丸の怪力には恐れ入る。
きっと馬鹿力とはこういう時に使うべき言葉なのだろう。
「ほう、中は空洞ですね。」
叙里はこんな状況でも石像を観察している。
「これは相当深いですね。」
月明かりでは中が見えないようで取れた首から手を突っ込み中を探っている。
「内側にも細工がありますね。これは何の意味があるのでしょう。」
「叙里もういいからくっ付けよう。」
櫂の提案に一同頷いた。
団丸が首を乗せてみるが、
「ダメだよ、手を放すと落っこちちゃう。」
桃はただ櫂にしがみ付いている。
「頭が相当重いのでしょうね。何か接着剤のようなものがあれば」
叙里は辺りを物色し始めた。
「これでどう。」
団丸がうまくバランスを取り乗せたようだが。
「向きが逆よ。」
桃が櫂の後ろから答えた。
「これで何とか出来そうですね。」
叙里が何かを見つけたようだ。
後は任せることにして近くの切り株に腰かけた。
そういえば百合といつも話しているあの東の神社と少し雰囲気が違ような気がする。
生き物以外は色や形が分からない筈が、東の神社では微かに青っぽい氣を感じる。
それがここでは白っぽい氣を感じる。
今度は明るいうちに南と北の神社にも行ってみようかな。
どんな色を感じるのかな。
「よし団丸、乗せてください。」
そうこう考えているうちに準備が出来たようだ。
「ヨイショっと。」
固唾をのんで見守っていると。
「付きました。」
「やったよー。」
叙里と団丸は抱き合って喜んでいるようだ。
櫂の隣では震えながらも「よしっ」と小さく桃も喜んでいる。
いったいこの人たちは何しにここに来たのだろうか。
夏の夜の神社の境内で、微かな月明かりに照らされながら櫂は一人空を見上げていた。