《ジョリ》
ド~ン!という大きな爆発音がして、ガラガラと岩山が崩れ落ちた。
カンカーン・カンカーン、と非常事態を知らせる鐘の音が金出地村に響き渡る。
「ジョリ―」長老の怒鳴り声も村中に響き渡った。
「明日の祭りが終われば、修忍里に行くというのに、お前は何をやっているんじゃ。」
ジョリは無言で長老を見つめている。
まだ幼さが残る面立ちだが、非を認めようとしないその大人びた眼は頑なまでに、自分の研究に対する信念に満ちていた。
金出地村は五十軒程の大き目の集落で、その内の三十軒は平地にあるが、後の二十軒は周囲の里山に散在している。規模の割に農地は少なく、鉄の生産を行う特殊な村だった。
東山を切り崩して砕いた岩を川に落としていく、その川の流れを堰き止めて砕いて流すという作業を三段階で繰り返すと、良質の砂鉄が取れる。
時折高価な砂金も取れるので村の子供たちは大人たちが採鉄した後の貯留池が遊び場兼仕事場でもあった。
しかしジョリは貯留池より岩肌がむき出しの山が大好きだった。
意図的に崩された山はとても危険なので子供は立ち入り禁止だったが、ジョリは大人たちの目を盗んでは山に忍び込んでいた。
はじめは切り立った山肌にゾクゾクしてただ触っているだけだったが、大人たちの山崩しの作業を覗き見しているうちに、新たに岩肌が露出する瞬間に妙に興奮する自分に気が付いた。
そしていつしか自分もあの山を崩して新鮮な岩肌に触れてみたいと思うようになっていった。
ある時、岩崩し用の大きな鉄製の工具をこっそり持ち出して東山に行ってみたが、大人たちのように豪快に岩を削るのは難しかった。
ジョリの力では岩崩しの工具は重すぎてうまく使いこなせない。
それからというもの手を変え品を変え、力を使わずに岩を崩す方法を研究し続けた。
しかしどんな工具を作ってもいくら改良しても、ある程度の重さがないとあの岩山は削ることが出来なかった。
そんな時に唐から伝わったという古い文献に興味深い記述をみつけた。
それはある種の物質を混ぜると熱刺激で爆発するというものだった。
それからというもの大人達がちょうほうから帰ってくる度に様々な情報を仕入れ、ちょうほうに出る時には色んな買い物をお願いした。
ある種の物質のうち木炭と硫黄は良質な物を確保できたが、肝心な硝石が高価でなかなか手に入らなかった。
それが偶然に噂を聞きつけその通りに厠の床下を探してみると本当にそれらしい物質が採取できた。
それらを適度に混ぜ合わせ小さい爆発は確認できるようになったが、岩崩しが出来るほどに大きい爆発をさせる為には、それに点火するための導火線の開発が必要だった。
試行錯誤の末にやっとの事で今年の春にその試作品ができあがり、それから半年かけて改良や試験を重ねて昨日完成し、今日が初めての本格実験の日だった。
それがここまで上手く行くとはジョリにも驚きだった。
「ジョリ、何をにやにやしてるんじゃ。お前は反省しとるのか!」
長老にこっぴどく叱られているが、顔の綻びは隠せなかった。
明後日しゅうにん里に出立する今日、やっと大きく爆発する火薬と導火線を作ることができた。
ジョリはそれが本当に嬉しくてたまらなかった。
ドカーン!
また岩山が崩れ落ちた。
どうやら念の為に仕込んでおいた別経路の導火線も無事に火薬まで届いたようだ。
「ジョリー!」
怒鳴り狂う長老を前にしてもジョリの満面の笑顔は更に輝きを増していた。